とうとう伝えられなかった言葉を胸に、俺は目を閉じる。
もう、俺が目覚めることも、ないのかもしれない。そう思いながら。
とうとう伝えられなかった言葉を胸に、俺は目を閉じる。
もう、俺が目覚めることも、ないのかもしれない。そう思いながら。
童話は、ここで終了する。
生きたものは、生き返らない。
愛を知った、魔王の話。
でも、君はここで終わらなかった。
物語の神様である僕でさえ予想しない行動に、君は出た
セイさんの声がする。俺は、叫ぶ。
叫びながら、思い出す。
目をつむりながら、俺は考えた。
不可能なことは、はたしてあるのだろうか。
神のちからを弱める方法を記してあった、あの本になら。
どこの誰かが残した、もう、なくなってしまったと誰もが思っていることが、そもそもあると知らないようなことが、たくさん乗っているあの本になら。
載ってはいないだろうか。
死者を、生き返らせる方法が。
目をつむったまま、意識を飛ばす。
魔力がもう、尽きたような顔をして。
魔王をなめるな。そう思いながら。
部屋にたどり着き、本をめくる。
最後のページに、それは、あった。
あった、あった! 死者を生き返らせる方法が。
魂のみが通れる道に、姿を表す魔法。
そこにいき、肉体から離れ、いくべき場所にいこうとする魂を呼びとめることができたのなら。
あなたが本当の名前で相手を呼んで、相手もあなたの本当の名前を呼んでくれたのなら。
あなたはその魂を手に入れることができる。
必要なものは、あなたの本当の名前と、相手の本当の名前、それに、あなたのいる世界をひとつ。
なんのためらいもなかった。彼女のいない世界など、何もないのと同じなのだから。
俺は、すぐに、記されている呪文を唱えた。
最後に、彼女の名前を呟く。
サンザシ・モリー。忘れもしない、この名前。
自分の体から、魂が離れる。
実態のない俺は、魂として、空へとのぼっていく。
抗わず、ただ流れるままにのぼっていく。きらきらと光る筋が、気がつくとまわりにたくさんあった。
もしかしたらそれは、死者の魂なのかもしれない。
たくさんの魂が体を離れる。毎日、毎日、毎日。
そんなことも知らなかったなんて
何が魔王だ。
本当に、何も知らない。俺は鼻で笑うと、空高く、のぼっていく。
あっという間にたどり着いたのは、白い、何もない世界だった。
ざわめきが聞こえる。黒い、実態のある生命体が、光に向かって指図をしている。
死神かもしれないな、と思いながら、俺はふわふわと浮遊している。抗わずに流れていけば、彼女のもとにたどり着くという自信があった。
上が下で、下が上の、混乱した、混沌とした世界だった。
指先に、何かが触れた。そのときにはもう、その何かを胸に抱き寄せていた。
その小さな光は、俺の胸をするりと抜けて、俺の背後にまわってしまう。
サンザシ
俺は、彼女の名前を呼んだ。
サンザシ・モリー。君を愛している。
俺の名前は、コリウス・スエルテ。
俺の名前を、呼んでくれ。
どうか、俺のもとに戻ってきてくれ。
光は、ふるふると震えて、その場に止まった。
……コリウス
サンザシの声だ。
俺は、安堵する。よかった。サンザシ。
コリウス・スエルテ
彼女は、応えてくれた。