どこの生まれだ?
どこの生まれだ?
食後に紅茶
飲みたいな。
鶴太郎はぽつんと言いました。
あ゛?
与兵の緑茶、
とっても美味しいよ。
でもボク、緑茶より、
紅茶が好きなんだよね。
紅茶が似合う顔してるな、
そういえば。
うん。
鶴太郎はこくんとうなずきました。
今まで紅茶が好きだなんて言ってたか?
ここじゃ無理かなって思って
言わなかったんだ。
与兵は綺麗に掃除をしていましたが、隙間風がぴゅーぴゅーの、時代劇にでも出てきそうな貧乏な日本家屋です。
ティーカップが似合う家ではありません。
…………。
与兵は何かを考えながらトン汁を食べています。
そして、トン汁を食べ終えると、
待ってろ。
と言って、納屋の方に行ってしまいました。
あいつ追っ払って、
どうしたいんだ?
吾助は自分でお代わりをして、トン汁を食べながら鶴太郎に聞きました。
ホントに紅茶が飲みたいなって思っただけだよ。ボク、紅茶似合うし。
鶴太郎は悪びれる様子もありません。
たしかに似合うが……。
金髪碧眼でヒラヒラふわふわの姿。
スコーンと紅茶でティータイムを過ごしても何の違和感もありません。
男であることが不思議なくらいです。
ホントにボクをダシに
通ってくるようになったね。
鶴太郎もトン汁を食べながら、吾助に言います。
お前がいなくても
来れるさ。
来なくていいよ。
俺が来たい時に来る
ぷぅ
ボクがいなかったら、
与兵と口もきけなかったくせに。
お前がいなくても、
そろそろ来ようと思ってたんだ。
こっちは粗方
片が付いたからな。
与兵は吾助が「嫌い」って言ってたよ。「大嫌い」だって。
あいつが俺のこと、
ホントに嫌うはずないだろ。
そう仕向けただけだ。
単純だからな。
ぷぅ
鶴太郎はますます面白くありません。
まあでも、
いいきっかけにはなってくれたかな?
…………。
吾助はニヤニヤして鶴太郎を見ました。
お前、生まれは
どこなんだ?
トン汁を食べ終わった吾助が言いました。
ボク?
ちょっとの間、鶴太郎は黙り込みます。
…………。
あっち。
…………。
鶴太郎が示した方を見ますが、指をさされてもわかりません。
少し上を向いているような気もします。
お前、なんで与兵の
嫁になろうと思ったんだ?
嫌じゃないのか?
風習も民族も違う人間と一緒になるなんて。
しかも男だし
とりあえず、それは言いませんでした。
ん~……
昔、パパに言われたんだ。
パパ?
嫌な予感がします。
「もし、罠にはまったときに助けてくれた人がいたら、その人の嫁になりなさい」って。
…………。
ホントに
実のパパか?
他にどんなパパがいるの?
いや、なんでもない……。
明美の言うパパは、実のパパではありませんでした。
吾助はそれで面倒くさい目にあっています。
家族はいない
と与兵から聞いたが。
パパとママがケンカして
ママの実家に行ったんだ。
……。
そしたらママも
どこかに行っちゃったんだ。
……捨てられたのか?
吾助はそう思いました。
それから一人で
生きてたのか?
?
鶴太郎は首を傾げました。
父親も母親も
いなくなったってことだろ?
ううん。
ママの故郷には、
家族っていうくくりがないんだよ。
どういうことだ?
どこで寝ても、どこで起きても、何の危険もないから、皆で好き勝手暮らしてて
「まいっか」って感じでも生活できたんだ。周りに仲間もいて、淋しくなかったし。
……。
ボクね、おっきくなったら
お嫁さんになりたいんだ
って、小さい頃にみんなに言ったら、
って、
大笑いされて、
それじゃあ
はた織りができないといけないわね。
って、はた織り教えてくれたんだ。
なんだ?
それは……
吾助はそんな話、聞いたことがありません。
確かに、普通じゃない環境かもしれない。
診療所に鶴太郎が二度目に連れてこられたとき、与兵が
あいつ、育ちがおかしいらしくて、
まともな環境じゃなかったみたいなんだ。
と、言っていました。
吾助はこれのことかと思いました。
それに、ボクは
みんなと違ってたし。
だろうな。
その恰好だし。
みんなこういう格好だよ。
ボクだけじゃないから。
男がスカートみたいなのを履く民族衣装の国もあるくらいだし……。
と、吾助も思いました。
じゃ、何が特殊なんだ?
パパはこの国の人の血が
半分入ってるんだ。
じゃ、お前
クオーターってことか?
うん。
それで、
いじめられでもしたのか?
違うよ。
そういうの、みんなは気にしないから。
でも、ボクは気になって、
それで、パパを探しに
この国に来たんだ
お前のパパは
この辺りにいるのか?
うん。
たぶん。
たぶん?
匂いがしたから
連れてきてもらったんだけど……。
わからなくなっちゃったんだ。
困ったわね、
どこかしら……。
って探してたんだけど、
ボクが罠に引っかかっちゃって、
まあ!
なんてことでしょう!
助けを呼んでくるから
待ってらっしゃい!
って言って、一緒に来た仲間がどこかに行っちゃったんだ。でも、仲間が来る前に与兵が助けてくれたんだ。
お前それ、
仲間、心配してるだろ?
心配なんて
してないよ。
どうしてだ?
ボクのこと、
もう忘れてると思う。
そんなわけないだろ。
そういうの、
あんまり気にしないし。
そんな状態なら
きっと心配しているぞ。
鶴太郎は首を振りました。
これ、きっと完全に
忘れられてるね。
いくらなんでも忘れないだろ?
しかも直前に怪我までしてて。
吾助は鶴太郎の足を診て、かなり悪い状態であることがわかりました。
みんな、
おおらかだし。
「おおらか」
で済むような話か?
みんなハンパなく
おおらかなんだよ。
…………。
一度はぐれたら、
みんなのところに戻れなくなるんだ。
でも、パパが言ってたのと
同じだったし。
それで「嫁にならなきゃ!」
って思ったんだ
鶴太郎は嬉しそうに言いました。
父親を探さなくてもいいのか?
父親なら、この状況をなんとかできるかもしれません。
けれど、鶴太郎は首を振りました。
ボクは与兵の嫁だもん。
パパにはもう会えなくってもいいんだ。
お前の父親や仲間の言っていることは、この国では正しいことではない。
え……?
助けてもらったからって、嫁になる必要はないし、はた織りで恩を返す必要もないんだ。
与兵もそう言ってたけど……、
お前の話だと
与兵じゃなくてもいいじゃないか。
与兵じゃなきゃ、
ダメだよ
なんでだ?
与兵、いい匂いするもん。
鶴太郎は、とても素敵な笑顔になりました。
匂い?
うん……、
夢みたいな美味しそうな匂い……。
うっとりしたように鶴太郎は言います。
喰うのか?
吾助にはよくわかりません。
喰べないよ!
喰べたら与兵と
できなくなっちゃうし。
………………。
下手だったら、
喰ってたってことか?
背筋がヒヤっとした吾助でした。
そう言えば、
なんでも喰うって言ってたな……。
羽根を口に入れて噛んでいた鶴太郎を思い出します。
よくそんなのに手を出そうという気に……。
吾助は鶴太郎を見ました。
ん?
痛む足を動かそうとしていますが、思ったように動かせないようで、お行儀が悪いことになっていました。
けれど、あからさまではなく、ほんのり恥じらいも見て取れます。
…………。
何? 吾助?
無防備に見上げる感じがそそります。
下手だったら、
喰われる可能性がある。
鶴太郎から少し離れます。
でも、与兵でいけたってことは……。
吾助は与兵の彼女をことごとく奪っていました。
いけるかどうか、
試してみてもいいか?
吾助、いま、
妙なことを考えてないか?
与兵がティーセットの入った箱を持って、納屋から戻ってきました。
考えてないぞ
短く言って、ニヤっとしました。
まったく、油断も隙もない。
与兵はそう言って、紅茶セットを並べ、鶴太郎をお行儀よく座り直させました。