空から落ちて来た少年――火哉の話に聞き入るローザ。
――というわけで、ヒールはオレの唯一使える魔法だったんだ……
へえー! じゃあ水の国というところで暮らしてる人たちは、皆さん魔法が使えるんですねえ!
空から落ちて来た少年――火哉の話に聞き入るローザ。
おう! ここの国の人たちは使えないの?
たぶん……
たぶん?
火哉は不思議そうな目でローザを見つめる。
実はあたし、ほとんどここから出たことが無くって。そんな国があることも知りませんでした……
そうなの? じゃあ来る? みんな良い人ばっかだぜ!
行ってみたい……!
ぱあっと目を輝かせるローザ。
神秘的な紫色の髪が月光に照らされ、天使の輪を纏っている。
でもね、外は危ないから出ちゃだめって……
大丈夫だよ。オレが、いち兵士として守ってやるから!
いち……兵士……?
はうっ……
ローザは頭を押さえてしゃがみ込んだ。
ど、どうしたの!?
……ううん、あたし最近ちょっと記憶が曖昧で。(今のは青夜さん……?)
大丈夫……?
うんっ! もうへーきだよっ
心配そうに見つめる火哉のほうへ振り返り、笑顔で答えるローザ。
つか今の話の続きだけど、実はオレも水の国以外だったら、風の国しか行ったことねーんだよね
風の国ってゆーとこもあるんですねえ
風の国はね、洞窟の奥に聖剣が……
あっ、そうだ、聖剣!
聖剣?
おーい! ヴァイス! 返事してくれ!
剣とお話ししてるんですかー? 頭大丈夫ですかー?
首を傾げ火哉を覗き込むローザ。
ちょいちょいバカにされてる気がするけど! これは聖剣ヴァイス、女の子に変身するんだよ!
ほんとー? 見せてくださいっ!
手を差し出すローザに火哉が聖剣を渡そうとした瞬間――
うわっ! なんだ!?
ローザ様から離れろ!
入り口から駆け寄ってくる劉(ラウ)。
銃口を火哉に向ける。
ちょ、その魔道具!
わっ! あぶねっ!
剣を置け!!
銃を持った男たちに取り囲まれる火哉。
なんかオレ、最近よく取り囲まれるな。ファンクラブでもできたか……
武器を捨てて両手をあげろ!!
わーったわーった! ほらよ
ローザ様! 何者ですかこの男は!
えーと、お空から降ってきたんですー
では魔女の仲間ということか!
いやっ、オレは……
とにかく牢にぶち込んでおいてください! 上の指示を仰ぐのはそれからです!
ちょっ
悪いひとだったんですねー
いやいや、なんにもしてねーじゃん!
ぐはっ……
こうして空から落ちてきた少年は捕まり、牢へと連れて行かれた。
あ、その剣、見せてもらってもいいですかー?
はあ、よろしいですが、気を付けてくださいね
ちょっと、解析させてください
承知しました。RAVEの量産計画のほうもお忘れなきようお願いいたします
はあい!
これは……どこかで……
翌日、少年の持っていた剣をスキャンするローザ。
もう一度あの人とお話ししたいな。劉さんに聞いてみよお
そう呟き、ローザは部屋を出た。
なんと、剣は少女へと姿を変えたのだった。
ふーっ
さて……
そんなことが起きているとは知らないまま、ローザは劉の居場所を探していた。
あ、あそこかなー
自販機のある部屋を覗くと、そこには劉と長官の姿があった。
ドクターローザともあろうかたが、そんな少年の与太話を信じているのか
魔法がどうとかの話ですか?
ああ
まあ、科学者なんてそんなもんじゃないんですかね? ありえないものを空想し、信じて作り出す人がいたから、それが科学の発展となったわけでしょうし
たしかに。しかしそんな好奇心が周りを巻き込んで、人類を不幸に導くこともあるのがわからんのか。大地だけでなくミドリを失ったのは我々にとって大きな損害だぞ……
(大地さんとミドリさんが……?)
ええ……ミドリさんには僕らもいっぱいお世話になってましたからね。悲しいです
それもドクターローザが一緒に遠征へ行くと言い出さなければ、あんなことにはならなかったのだろう?
!?
仕方ないですよ。僕らはただの人間。人知を超えたローザ様の考えてることなんて理解できません
なんだ、劉? お前はドクターローザの肩を持つと思っていたが
ええ。ローザ様が例え神であろうが化け物であろうが、僕は守りますよ。青夜くんにも頼まれてますし。ローザ様の行動にはきっとすべてに意味があるんですよ……きっと
しかし青夜まで失うとは……くそっ! あんな小娘に頼らんといかんとは世も末だ!
そう言って長官はゴミ箱へ空き缶を投げつけた。
空き缶は音をたててローザの足元へ転がる。
!? ドクターローザ……なぜここに
ローザ様……!?
っ!!
うそ……あたしのせいでミドリさんが?
やっ、ちがっ……
あたしの抜けてる記憶って……
ううっ……
いかん! 鳥かごへ連れ戻せ!
いやあああああ!!!!
ローザ様!!
一方、牢に監禁された火哉は――
持っていた剣も没収され、閉じ込められた火哉。
牢屋の隅で膝を抱え込んでいた。
ううー、姫……みんな……さみしいよお
よしよし。マスターには私がいるの
そこへ剣から姿を変えた少女がやってきた。
ヴァイス……! 助けに来てくれたの!?
私はどんな時でもマスターの味方なの
ありがとー! 最高だよヴァイス!
少女を抱きしめる火哉。
えへへ
脱出するの
おーけー!!
こっちなの
ヤバい、誰か来る……! 隠れて!
了解なの、マスター
ちょ、隠れるってそうゆう意味じゃなくて!!
誰か……いるんですか?
わっ! 君はさっきの
あれ? その剣……どうしてそこに
ごめん! それどころじゃないんだ!
脱走……するんですか?
ああ! 頼む! 見逃してくれ!
そしてローザは、胸に手を当てながら呟いた。
あたしも……連れてってください
へ?
鳥かごの外へ……あたしを出して!!
……わーった。一緒に行こう!
自由な世界へ!!
ローザの手をとり、駆けだす火哉。
この先、どんな苦難が待ち受けているのかわからない。
それでも、真実から目を背けないために、愛する人を守るために、そんな決意の表情で光の差す方へと向かう二人であった――