只野さんに背を押されるがまま、部屋を後にして廊下に立ったばかりのこと。
何を思ったのか、田畑さんがこんなことを言い出した。
只野さんに背を押されるがまま、部屋を後にして廊下に立ったばかりのこと。
何を思ったのか、田畑さんがこんなことを言い出した。
すまないが
この件は二人に任せてもいいか。
え…田畑さん…?
だが…
わかった、いいだろう。
思わぬことに、羽鳥さんがそれに対して何も言わなかった。
ありがとう。
それでは失礼するよ。
…………はい。
羽鳥さん、田畑さんは…
…………おそらくは千堂の元だろう。
え?
ゆきりんは…
ああ見えてしっかりして…
いや、ちゃっかりかな…。
だから大丈夫。
なにが大丈夫なのか、さっぱりなんだけど…
そうですね
わかりました。
さてと…君はまずどうしたい?
え?僕ですか?
そうだ
俺はあくまでもサポートだ。
サポート…。
何か気になることが…
あるんじゃないのか?
えっと…あの薬って…
倉庫にあったものでしたっけ。
……………。
そうだ。
……他にもあるんですかね?
……どうだろうか。
包丁だとかは…仕方ないと思うんですが、さすがに危ない薬は…どこかへ隠したり保管した方がいいと思うんです。
………………。
そうしたいのならば
…………そうすればいい。
でも、どこへ隠すんだ?
そう…ですね…。
あの、羽鳥さん。
どこか鍵が閉めれる場所は…。
………各個室…くらいだろう。
もしくは工藤の…。
ど、どうしよう…。
工藤の個室でどうだろうか。鍵はゆきりんが持っていたと思う…借りてこようか…?
あ、はい。
お願いします!
ふふ、イカとタコのミックスジュースでも作って行こう。
え?
あ、ヒジキも入れよう。
………意味のわからない独り言を言って、もう田畑さんの元へ向かってしまった…。
僕は…この間に
倉庫を見てくれば…いいんだよね?
それにして、立て続けかぁ…。
確か倉庫は二階にあったはず。
書庫からは遠くもなく
広い館でもすぐに見つけることが出来た。
うわ…なんでこんなに暗いんだろう。
そこは窓ガラス一つなく、どうやら外部の明かりがロクに入ってこないらしい。
電気はないのかと辺りを見回すが、それらしき電源はどこにも見当たらなかった。
この状態で探すのかぁ…
ちょっと大変だな…。
暗い中でハッキリしない視界ながら、薬っぽいものを粗方探し回る。
左の棚だったり
後ろの棚だったり。
瓶の形を見つけては駆け寄って確かめた。
うーん………。
あ。
見かけたことのあるラベルを見て、これがそうじゃないか…と少し頬を綻ばせて手に取ってみた。
仮死…毒…?
佐倉さんが飲んだと言われている薬に似ており、また昼間にお菓子の薬と騒がれていた薬に酷似した薬は「仮死毒」とラベルに書いてある。
え…と…。
そもそも毒とは何か。
簡潔に述べると、それは人体に害のあるもの。
主に死に至るような連想を僕はした。
ではいつ、この薬を毒と判断したのか。
この瓶を…液体を見た時である。
………何故、こんなにも大きく仮死毒と書いてる物を彼女らは「お菓子の薬」などと騒ぎ立てたのか?
些か疑問ではあるものの、これが本当に仮死の毒であるのならば…
佐倉さんは…生きている。
しかし、万が一にもこんなに堂々と「仮死毒」と書いているものを悪ふざけでお菓子の薬と言っていたのなら、相当タチが悪い。
が、今思えば田畑さんがこの件を任せ、さっさと千堂さんの元へ向かったり、只野さんの言葉に「なるほど」とさして気にしてもいない反応を示したのも、気づいていたからなのかもしれない。
って…本当にタチ悪いな!
はぁ……また殺人が起こったかとヒヤヒヤしたけれど…そっか…良かった。
騒がしいな…。
薬は見つかっただろうか?
あぁ、羽鳥さん。
あー…見つけたんですけど…。
なんというか…
実はただの仮死毒みたいで。
…………そうか。
それはお菓子の薬のことか。
あ、はい、そうです。
………佐倉は生きている…か。
そうなりますよね。
………………ふむ。
羽鳥さん?
君は一つ…
気づいたことはないだろうか?
気づいた…こと、ですか?
そうだ。
んー………。
田畑さん、西園寺さん
二人がタチが悪いことですか?
え、いや
あ…そうじゃなくて。
それ以外に…。
田畑さん…
実は意外にバカじゃない!
え?あ…あぁ
まぁ確かにそうなんだけど…。
………すみません。
むしろ、わからないことばかりで…。
ま、まぁ…仕方ないだろう。
羽鳥さんは何か…?
………そうだな。
一つヒントをあげよう。
教えてくれてもいいのに。
佐倉百恵はジュリエットである。
佐倉百恵は仮死毒を飲んだ。
……何か思うことはないか。
………………。
佐倉さんは、ロミオとジュリエットのジュリエット役であり…仮死毒を飲んで倒れていた。
ジュリエット…仮死毒…
そして傍らには嘆くロミオ…。
そう、ジュリエットが仮死毒で仮死状態になっていることを、ジュリエットが死んでしまったと思ったロミオは…毒を飲んで………。
そこまで考えてハッとした。
まるで………物語…ですか。
…………そういうことだ。
………演目はロミオとジュリエット…。
けれど、まだ…開演すらしていない。
では、これはなんであるか。
これが現実のドラマや小説であるならば…見立て殺人なんて用語が出てくるのだが…今のところ被害者はいないことになる。
ましてやロミオとジュリエットの死は、自らのものであって他殺ではないのだから。
殺人…ではないんですよね?
…………何故?
まだ誰も亡くなっていませんし、このままロミオとジュリエットに見立てたとして…待っているのはロミオの自害と……。
……………。
そうだ。
実際のロミオとジュリエット…
それはジュリエットの後追いのつもりでロミオが命を落とし、それを見たジュリエットが後追い…。
肝心なのは、二人の死…だ。
これに他者の意思が絡んでいるか
…それはまた別の話だろう。
羽鳥さん!
早く二人の元へ行きましょう!
ただし、この件が落ち着いたら…
知ってることは話してもらいます!
拒否権はないですからね!
……………あぁ。
ふふ…少し…
彼にも変化が出て来たかな。
13話 物語