この辺りの床のはず…。
羽鳥さんが何やら、エントランスの右入口付近で床を触っている。
すると、その石はカタッと音を鳴らしズレ…
重くて持ち上がらない、ヘルプ。
あ、はい。
よいしょっ……っと…。
待て、反対は俺が持……
ずりずりずりずり
…………………。
あれ…ここは…?
石をズラした先は、見たことも聞いた覚えもない場所だった。
全てを見て回った訳ではないので、見ていなくともおかしな話ではないのだが、地下への階段もしくは地下が存在するなどは聞いていない。
千堂さんから聞いた場所は全て1階から3階にある。
1階
エントランス
食堂
調理場
倉庫
焼却炉
お風呂
2階
書庫
洗濯室
談話室・客間
和室
3階
個室・空き部屋
今後は自分の足で地図を作ることも、今後のためには必要なのかもしれない。
そう思いつつも石の蓋を閉めた。
あ、あぁ…ここは地下なんだが…。
いや、それより…
君の力に驚いた。
まさか一人で持ち上げるとは…。
そんなに重かったですかね?
という話はいいんで…
千堂さん、地下の話してましたっけ?
………していないだろうな。
よく見つけましたね…
こんな隠し階段。
…………そうだな。
さて本題にはいろう。
今回の演目騒動について…
どうやらゆきりんは………。
次の殺人を予測した。
え?
…………その上でのロミオとジュリエット…だ。
え、あの…それは…
早い話、ゆきりんなりの気配りなんだ。
起こらない事に越したことはない。
だが、起こってしまえば…それは混乱を招くことになってしまう。
工藤の件を演技と片付けたように…そういったごまかし方で済ませようというのが、現時点のゆきりんの考えなんだ。
ちょっと待ってください…!
予測した
とはどういうことなのだろうか?
それに…少なからず、亡き者と殺人犯が人前に出れなくなって…4人も居ない状態になる。
………その…起こってからの対策なのは…理解できないこともないんですが…。
殺人を止めようとは考えないんですか?
殺人が憶測であれば…
難しいのかもしれませんが。
……それはゆきりんの役目ではないからだ。
え?
君の役目は犯人捜しだ。
そしてゆきりんの役目は調和。
前々から驚かされている。
羽鳥さんの言う役目とは何か。
では…羽鳥さんの役目は?
………。
だんまり…ですか。
こういうときの羽鳥さん、一番面倒だな。
俺の役割について…
それは自分の口からは言えない。
が…君の望む答えは一つ出せる。
無論、ゆきりんが直々に…というわけではないけれど…一応殺人の阻止も視野に入っているんだ。
そ、そう…ですか。
なんだかすみません。
君の役割ではないけれど…その一端を担ってもらってもいいだろうか?
殺人の阻止の一端…。
はい、出来ることなら。
ありがとう。
まず、目を付けてる人物なんだけど…
カタッ
!?
…………………。
………。
ここに居たのか。
地下は危険だからやめた方がいい。
あ、はい?
………少し言いにくい…が…
………佐倉百恵さんが亡くなった。
…………………。
え……。
キミ達を呼ぶように…
田畑からの伝言だ。
場所は、書庫だ。
それじゃあ。
……佐倉さんが…亡くなった…?
……行こう。
…はい。
………………。
…………………。
書庫へ向かうまでの間、僕らは何も話せなかった。
阻止しようと話していた矢先に、こうして事が起こってしまう。
思えば、工藤さんが亡くなったときも羽鳥さんと話していたときだ。
あのときは羽鳥さんが先行して行ったが、今は違う。
このとき始めて
気が重く、歩くことも辛いという意味を初めて理解した。
……遅かったな。
すみません。
…………………。
日向くん…。
も……ももえ!!!
百恵…。
………君達なら、悲鳴を聞いた時点で駆けて来ると思ったが…どうした?
悲鳴?
まぁいい。
百恵…。
背後では、日向さんが泣きじゃくるっている。
それは愛おしい物を抱きかかえて、まるで全て失ったかのような絶望に溺れる目をしていた。
肝心の佐倉さんなのだが、日向さんに抱えられており、この場から確かめることは叶わない。
日向さん…。
………ゆきりん、説明を。
………第一発見者は…只野だ。
その次に日向。
たまたま書庫へ来ていた只野が見つけたとこ、倒れている佐倉さんを見て…日向を呼んだようだ。
その際に…
彼が悲鳴を上げたようでな。
その叫びに、千堂と俺はこうしてここへ。
無論、悲鳴の原因は…
とある大きな虫が出た…
と、食堂には千堂が伝えた。
………工藤の死を知っているものは皆…不安げだったと聞いている。
第一に只野さんが見つけ…
それを只野さんが日向さんに…。
そうか。
しかし………
お取込み中悪いんだけど…
後にしてもらえないかな?
しかし、死因はなんなんだろうか?
おそらく羽鳥さんが聞きたかったであろうことが、僕の頭に浮かんだそのときだ。
只野さんが田畑さんと羽鳥さんの間に割って入る。
……彼女の死を、心から弔えないようなら…さっさと出て行ってもらえないかな?
……不愉快なんだ。
しかし…。
…………おそらく彼女は自殺だよ。
自殺?
………………。
この薬、君達も見覚えがあるだろう?
………お菓子の薬か。
……………。
なるほど?
………西園寺さんが持ってきた薬…。
彼女はこれを持っていた…。
…傍らに落ちていたんだ。
あれ…でもこの薬…
この薬は危ないから没収ね。
ダメだよ、危険だから。
この薬…
只野さんが持っていきましたよね?
そうだね。
けれど、西園寺さんに取られたよ。
え?
だからね
西園寺さんに取られたよ。
………。
確認をとってもらっても構わないよ?
やけにグイグイくる…
確認をとっても…ということは
本当に取られたんだろうか?
というワケで…ここで君らが欲しい情報は教えただろう?出て行ってくれないだろうか。
…………。
仕方ない。
ここは引こう。
……そうですね。
未だ泣き止まぬ日向さんの声を背に、只野さんに押されるがまま部屋を後にした。
前回が前回だったゆえ。
明確な殺意があった訳ではなく、事故に近かった工藤さんの死。
今回も明確な殺意はなく、本当にただの自殺だったのだろうか?
今ある情報でわかること。
傍らには薬が落ちていた。
その薬は西園寺さんが取り返したもの。
発見したのは
第一に只野さんで第二に日向さん。
本当に飲んでしまったのか
日向さんが平静になるまでは調べることは叶わないだろう。
ただでさえ、気になることが多い状態にこういった物騒なことがあってしまっては考える暇もないというもの。
………………本当になんとかなるのだろうか?
12話 風に身を揺らす花