輸送ヘリがやってきた。
私たちはそれを茫然と見上げていたが、やがてCIAのお姉さんが、
輸送ヘリがやってきた。
私たちはそれを茫然と見上げていたが、やがてCIAのお姉さんが、
こっちに来るわ
とつぶやいて、それからつけ加えた。
屋上に上がらなくちゃ
※
みんな、屋上に上がるわよっ
えっ、ええ
ああ
お姉さんたちは、目と目をあわせると大きくうなずいた。
セシリアちゃんたちも、うなずいた。
私たちもツバをのみこんだ。
言葉にならない情動がなんだかこみあげてきた。
行きましょう
KGBの彼女は?
警備室で通信を見張っているわ
じゃあ、途中で寄りましょう
ヤマイダレさんは農具を片付けながらそう言った。
お姉さんたちは、ショッピングモールに向かった。
セシリアちゃんたちもそれに続いた。
私たちがぼんやりしていると、ヤマイダレさんが言った。
あなたたちも行きましょう
うん
なに? チョコ棒使い切っちゃった?
えっ? いや別にそういうわけではないですけど
そう。でも物欲しそうな顔してたからあげるわね
なんですかソレ
いらないの?
いやっ
うふふ。じゃあ、今日はとっておきのをあげるわ
ヤマイダレさんはそう言って手帳を取り出した。
チョコ棒のレシピよ
えっ? チョコ棒ってヤマイダレさんが作ってたんですか?
ううん。でも、いつなくなってもいいように研究してたのよ
はあ、地味に凄いですよね。そういうとこ
さすが昭和ヒトケタ生まれ。
エロいだけでなく、家庭的なスキルも持ち合わせているヤマイダレさんなのだった。
それはさておき、屋上にむかいましょう?
ヤマイダレさんはそう言いながら、私のお尻をなでた。
はう
私は条件反射で思わずやりかえしてしまった。
いやんっ、やるわね
ひどく嬉しそうな顔をするヤマイダレさん。
私たちは彼女とともにみんなを追いかけた。
※
屋上に着いた。
そこには3人のお姉さん。
セシリアちゃんと、たくさんの教会の孤児がいた。
そして輸送ヘリがゆっくりと降りていた。
あれは?
マサクルソフトの輸送ヘリだ
マサクルソフト……生物兵器『痴女』を量産した会社ね
ああ。なぜ各国の代表ではなくヤツらが来たのか、それはあまり想像したくないが
ヘリからの通信はあったの?
あったわ。直前に簡素なものがね
ふうん
ヤマイダレさんの表情が変わった。
お姉さんたちは、さりげなく銃の安全装置を外した。
私たちは、セシリアちゃんたちと一緒に階段の近くに身を潜めた。
やがて、ヘリは屋上スレスレまで降下した。
大きくて頑丈な側部扉が、
っと、開いた。
鉄の階段が下ろされた。
そして、あごが外れそうなくらい美しい——オトナの女性があらわれた。
その女性は、自動小銃を小脇に構えたままでこう言った。
我々は、英・米・露・仏・独・中 etc. ——各国の首脳がまとまった超国家的組織だ。私はその代表である。貴君らを救出しにやってきた
超国家的組織……国連とは違うの?
似たようなものだ。ただ、国連の各国代表がほとんど痴女になってしまったため、新たに創設した。そのほうが手っ取り早いと、ロシアとアメリカの大統領が強引に話をまとめたのだ
その輸送ヘリは、マサクルソフトのものよね?
新たな国連の活動拠点は、トルコ共和国のアララト山。そこにあるマサクルソフトの研究施設に、各国の首脳が集まっている。いや、避難しているというべきだな
……その話を信じろと言うの?
信じなくてもかまわない。ただ、私の正体を疑っているのなら、そこの彼女がよく知っている。私はMI6の諜報員ダブルオー・シックス。コードネームは、ニシン・パイだ
そう言って綺麗なお姉さんは、MI6のお姉さんに銃を向けた。
MI6のお姉さんは、ごくりとツバをのみこんだ。
そして言った。
おまえ、マサクルソフトの二重スパイだったのか?
ふっ。すぐにそうやって仲間の裏切りを警戒するのは、MI6の悪いクセだな
違うのか?
……。たしかに我々は、マサクルソフトを追っていた。しかし、今はもうそんなことを言ってる場合ではないんだよ。人類は、マサクルソフトの研究施設に頼らざるをえなくなってしまったのだ
だから手を組んだのか
アメリカとロシア、そして中国がリーダーシップを取ってな
含みのある言いかただな
ああ、イギリス政府としては面白くない展開だ
で、ゴネた結果、キミが救助隊のリーダーになったのか
まあ、だいたいそんなところだ
綺麗なお姉さんは、ニヤリと笑った。
MI6のお姉さんは、CIAのお姉さんとKGBのお姉さん、ヤマイダレさんと目をあわせると、ゆっくりうなずいた。
ヤマイダレさんたちは、納得したようだった。
この輸送ヘリは、貴君らを載せた後、韓国の空軍基地まで飛ぶ。そこで輸送機に乗り換えアララト山に向かうわけだが……。正直に言うと、韓国の基地はいつまで保つか分からない。というわけで、できるだけ早く飛びたちたい
分かったわ
では、免疫を持つ人は誰かな?
私よ
ヤマイダレさんは、私たち女子中学生の肩を抱いてそう言った。
私たち三人を押すようにして、一緒にヘリに向かった。
乗るのは全員よ。そう伝えたわ
ああ、もちろん構わない
ほっ
私たちは、輸送ヘリの階段に足をかけた。
ただ、あそこの子たちは無理だ。いくらなんでも入りきらないな
えっ?
いや、ひどく当たり前のことを言っただけだが
綺麗なお姉さんは、セシリアちゃんたちに銃を向けてそう言った。
私たちは、がく然として立ち止まった。
わずかな沈黙があった。
ダブルオー・シックス! 話が違うぞ
そんなことを言われても困る。現実問題としてあんな大人数、入りきらないだろう
それはっ
それとも何か? ロープで10人以上を吊り下げて韓国まで飛ぶのか?
くっ、しかし
いいからさっさと載るんだ。滑走路の状態を確認したから、次は大型の機体で来る
でもっ
貴様がゴネれば、それだけ2回目の救出が遅れるんだぞ
綺麗なお姉さんは、ひどく冷静なことをあまりにも冷たい目をして言った。
同意を求めるようにCIAのお姉さんたちを見た。
そして言った。
今言った通り、2回に分けて救出する。どのようなグループに分けるかは貴君らにまかせるが、早急に決めてほしい。ただし免疫を持つ彼女は1回目だ
ええ
お姉さんたちは、沈痛な面持ちでうなずいた。
それからテキパキと行動した。
冷静に現状を判断したのである。
とりあえず、私は載るわ
ヤマイダレさんは、ヘリに載った。
私の使命は、免疫を持つトモメ・ヤマイダレを無事施設まで送り届けること。同乗させてもらうわよ
智子ちゃん。あなたたちも来なさい
ヤマイダレさんが私たちに手招きをした。
だけど、私はうなずくだけだった。
階段にかけた足をもどした。
それから振り返って、セシリアちゃんたちを見た。
だいじょうぶですよ
セシリアちゃんは、ニッコリ笑った。
だけど私は。
いや、だからこそ私は。
私は輸送ヘリに載ることができなくなった。
残してはいけないよ……
私は、セシリアちゃんたちの元に駆けていった。
智子!?
智子ォ!
私、残るね。セシリアちゃんたちと待ってるね
そんなっ
そうだよ智子ォ
お姉ちゃん、わたちたちは平気ですよ
セシリアちゃんは、とても純真な笑みでそう言った。
私は精一杯の笑みでそれを否定した。
ううん。残るのは、セシリアちゃんたちのためだけじゃないんだよ。ここにね、私の放送を聴いた沢山の人たちがやってくるの。私は、その人たちを待つことにしたんだよ
えっ?
だって、先になんか行けないでしょう?
私は無理に笑ってそう言った。
すると、いつきと小夜が駆けてきた。
私たちも残る!
ずっと一緒だよ!
ふたりとも……
私たちは抱き合い友情を確かめあった。
あなたたち、どうしても残るのね?
うんっ
……そう。でも、智子ちゃん
ヤマイダレさんは懸命に説得を試みた。
だけど私の意思は固かった。
決意は変わらなかった。
綺麗なお姉さんが割り込むようにこう言った。
じゃあ、KGBとMI6のふたりを載せて第一便は終了だな。ふたりとも早く載れ
………………
…………
…………
…………
…………
…………
あっ、やっぱ、私は残るわっ。先に行っててよ
MI6のお姉さんは唐突に、大らかな声でそう言った。
頭をかきながらセシリアちゃんたち教会の孤児のところにやってきた。
すると——。
綺麗なお姉さんが、MI6のお姉さんの足をいきなり撃った。
それから吐き捨てるようにこう言った。
貴様を連れて帰るよう密命を受けている。いい加減、祖国のやりかたを理解しろ