甲信越最大の都市・こしのくに。

 その自衛隊駐屯地の敷地内にある米軍駐屯地。

 そのなかにあるショッピングモール、1階の寝具店。

 大きなベッドには、3本のチョコ棒が並んで立っていた。

なんかダルいよね

ねえ

ずっとこうして寝ていたいよね

 私は大きくため息をついた。

 小夜は私の隣で、股間のところに立てたチョコ棒をいじってた。

 チョコ棒の根元を人差し指と親指でつまんで、ぴくぴくと動かしている。

 何をやっているんだよ——と思ったけれど、気がつけば私も無意識に同じことをやっていた。

 苦笑いで、ころんと反対側を見ると、やはり、いつきが同じことをやっていた。

 私たち女子中学生の3人組は、昼間っからベッドに寝転がり、股間のチョコ棒をぴくぴくさせている。

なにやってるんだろ

っていうか、いつからやってるんだっけ?

ここんとこ毎日だよねえ

だって疲れちゃったんだもん

みんな休まないからねえ。ヤマイダレさんとか特に

ほんと元気だよね

昔は土曜日も学校や会社があったって言うし、はじめはそのノリで畑を耕してるのかなって思ってたんだけど

違ってたよねえ

あの人、週7日勤務・週休0日のペースで働いてるんだよ

さすが昭和ヒトケタ生まれだよ

CIAのお姉さんたちもよく働くけど、日曜はちゃんと休んでるもんね

やっぱキリスト教かな?

キリスト教は日曜休みだもんね

神ってすごいんだなあ

 私たちは、股間のチョコ棒をいじりながらそんなテキトーなことを言った。

 神が見たら驚倒するであろう、罰当たり(ばちあたり)な光景だ。

 いや、キリスト教に罰当たりという思想があるのかは分からないけれど。調べずに言うのだけれども。

そうそうさっきの話なんだけど

なんの話だっけ?

チョコ棒を立ててる理由

あー。で、なんだっけ?

女子ばかりでいたら女子のことを好きになるからって

ああ、そうだ。男子を意識しよう、男子を忘れないようにしようって

チョコ棒を常に持ち歩くようにしたんだよ

それで紆余曲折

二転三転、付和雷同、右往左往したその結果が

この股間に立てたチョコ棒だよ

 私たちは、うーんとうなったまま、深く布団に沈みこんだ。

 もしかしたら私たちは、痴女騒ぎ以来、ものすごい勢いでアホになっているのかもしれない。

まあ、それはさておき、ともかくとしてさあ?

うん?

男子ってこうやってゴシゴシしたら気持ちいいんだよね?

えっ、うん。たぶん

こんな感じで、こするんだよね?

まあ

練習しとく?

えっ、なにそれ?

いや、ほらっ、彼氏できたときのために

チョコ棒をこすって気持ちよくする練習?

まあ、本番はチョコ棒によく似た部分をこするんだけどさあ

おち○ぽかあ

 いつきは夢見るような顔をして、すこすことチョコ棒をこすりはじめた。

 私と小夜も、ぼんやりチョコ棒をしごきだした。

意外と難しいね

あっ、むいたの?

袋から出しちゃった

じゃあ私も

むきっ

うーん、このゴツゴツ感がなんかリアルだなあ

えっ? 実物さわったことあるの!?

うそ!?

あはは、ないない。ただなんとなくリアルな感じがしただけだよう

 小夜は笑いながら、器用に両手でチョコ棒をいじった。

 左手を根元にそえて、右手の指で弄(もてあそ)んでいる。

 その手つきが妙にこなれていて、私は思わずツバをのみこんでしまった。

でもさあ、こうやって自分のチョコ棒をこするのって意味なくない?

んー? なんでー?

だって男子のチョコ棒を気持ちよくする練習でしょう?

うん

だったらこうやって隣の人のをこすらないと

 いつきはそう言って、私のチョコ棒を握った。

 私の耳に息を吹きかけるように身を寄せて、いつきは私のチョコ棒をしごきはじめた。

 私は彼女のなすがまま、されるがままにした。

 なんとなく、動いたり抵抗したりということがわずらわしかった。

ねえこんな感じ? 気持ちいい?

うーん、気持ちいいわけないじゃん

なんだよお、ツッコミ弱くない?

なんか気だるくて

じゃあ気持ちよくしちゃうよ?

うん

 私が物憂げにうなずくと、いつきはチョコ棒を持つ手をかえた。

 まるで巨大なペンでも持つようにチョコ棒をにぎり、いつきはチョコ棒の根元を私の股間に押しあてて、そして服の上からこすりはじめた。

あん

気持ちいい?

うん

ふうん、今日の智子は嫌がらないんだね?

服の上からなら好いよ

じゃあ、私も

 小夜がそう言って、私の胸に手を乗せた。

 それから妙に気づかいのある手つきでさすりはじめた。

くふぅ

あはは、ほんと抵抗しないなあ

だって気持ちいいし

 服の上からやさしく触る分にはかまわない。

 私は手足をだらりとさせて、しばらくふたりに身をまかせた。

 そして夢幻のなかを漂うような時間がすぎて、私が眼をあけると。





もう、どうしたんだよう!

大丈夫ぅ?

 ひどく征服欲を満たされたって感じの小夜と。

 心配しながらも悦びを隠しきれずにいる、そんな笑みのいつきが。

 私の顔をのぞきこんでいた。

うーん、なんかだるくて

きっと五月病だよ

あーそうそう、私もソレ

いやっ

 五月になった途端、それを口実にダラダラすることは、たぶん五月病とは言わないと思う。

 私は、ちょっと笑った。

 かるく上体を起こした。

 そのはずみに、服がはだけてお腹がみえた。

………………

 私はわき腹をつまんでみた。

 それは真っ白でやわらかくて、たっぷりとしていて、まるでオモチのようだった。しかも、美味しそうにふくらんだオモチである。困ったことに。

……行こう

 私はいきおいよく起き上がった。

 口をぽっかり開けて私を見上げる小夜をまたいで、ベッドから飛びおりた。

 振り返ると私は気力に満ちてこう言った。

畑に行こう! ダイエットだよ!!

 私たちは着替えると、ショッピングモールの中心を突っ切って、畑につながる扉に向かった。その途中で、CIAのお姉さんにバッタリ会った。

あっ、こんにちは

CIAの工作員

こんにちは。これから畑に行くんでしょ?

あっ、はい

CIAの工作員

畑に行ったら詳しく説明するけれど、実はね、通信を受信したの

えっ!? 通信って!?

CIAの工作員

ううん、救援じゃないわ。でも、とても心温まる通信よ

はい?

CIAの工作員

あなた、以前にテレビ局の人たちに語りかけたでしょ?

えっ、ああ、はい

CIAの工作員

あの通信は渋谷のテレビ局だけじゃなく、ほかの地域にも送信されてたの。それであの通信にはげまされた人たちが、この、こしのくに市の駐屯地に

向かってきてるのですかっ!?

CIAの工作員

ええ。そういう通信をいくつか受信したのよ

すごい

智子すごいっ

っていうか、今、『いくつか』って……

 私は思わず立ち止まってしまった。

 するとCIAのお姉さんは、複雑な笑みでこう言った。

CIAの工作員

仙台方面から1組。関西は琵琶湖の北側から1組、南からもう1組。この南ルートのグループは、関東圏からのグループと合流する予定……とのこと

そんなにたくさん

CIAの工作員

そう。困ったことに

困ったことに?

CIAの工作員

……最終的に何人辿り着けるかは分からないわ。だけど、駐屯地の収容人数を考えると、ただ楽観しているわけにはいかないのよ

そんなあ

CIAの工作員

みんなは希望を胸にやってくる。この駐屯地を天国かなにかのように思ってる。それが彼女たちの生きる原動力になっている。智子ちゃん、あなたが希望を与えたからよ。そして、それはとても素晴らしいことだわ

………………

CIAの工作員

だから、あなたの行いをムダにしないために、私たちはこれから話しあうの。この駐屯地をよりよい場所にするために、私たちは頑張らなければならないわ

はいっ

 私はお姉さんの言葉に、はげまされた。

 使命感がわきあがってきた。

 いつきと小夜の瞳にも気力が満ちていた。

 私たちは、目と目をあわせると、大きくうなずいた。

 しばらく歩くと扉についた。

 お姉さんは扉を開けると、念のため顔を出して外を確認した。

 それから私たちにニッコリ笑うと外に出た。

CIAの工作員

いたわよっ

 お姉さんの指さした先には、ヤマイダレさん。

 そしてMI6のお姉さんと、セシリアちゃんたち教会の孤児。

あれ? みんなどこを見てるんだろ?

 畑のみんなは、茫然と空を見上げていた。

 私たちが首をかしげると、CIAのお姉さんは大げさに眉をあげた。

 それから小走りで畑に向かった。

 ショッピングモールの影から出た。

 私たちもそれを追った。

 そしてヤマイダレさんたちと一緒に空を見上げた。

 すると——。

 太陽を背に輸送ヘリが一機。

 こっちに向かって飛んでいた。

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