佐藤 紘

それにしても…なにしよう。



辺りを見回すが、羽鳥さんと田畑さんは遠くで話し込んでいるし、次から次へと話かけてきた人物も、もはやこの場にはいない。


こうやって皆が話しているうちは、どうもここから出る気があるようにも思えなかった。

佐藤 紘

本当にどうしよう。



普段は、こうして暇があれば物語を考えて、そしてひたすら書いてはいるものの、今はどうしてもその気にはならない。


気になることがありすぎるのだ。


佐藤 紘

今度、忘れないように…気になることリストでも作ろうかな。



食堂の片隅で、そう考えていると近くの扉から声が聞こえた。

声からして男女1人と言ったとこだろうか?



盗み聞きするのは些か気は引けるが、なぜか無性に気になり目を閉じ集中する。


…………あの…
今度…そのうちでいいの…!

少し余裕が出来たら…
二人の時間をください。

今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう!

うん…わかってる…。
けれど…少し不安なの。

………俺は…あいつを許せない。

私も…そう思う。
けれど…どうしようもないじゃない。

どうしようもない?

そんなことないだろ!

確かに…
陽景くんが亡くなって…
許せないのは…私もなの。

ただ仲裁された勢いで…刺す。
…………そんなの納得できない!

佐藤 紘

この声は…
佐倉さんと日向さん…?

佐倉 百恵

それに、なんで居合わせていない羽鳥さんが…斑くんのことを知ってるのか…だとか。

佐倉 百恵

私だって気になることはいっぱいあるよ!?

佐倉 百恵

あるの…いっぱい。

佐倉 百恵

陽景くんのことだって公になっていないし、今後どうして行くのだとか…!

日向 瑞樹

…………。

日向 瑞樹

確かに…羽鳥については疑問が多い。
むしろ、疑ってくださいってレベルだ。

日向 瑞樹

けれど今は…もう疲れた。
…そっとしておいてくれないか?

日向 瑞樹

どうせ、田畑たちなら…
今後のことを考えてると思うからな。

日向 瑞樹

心配しなくてもいい。

佐倉 百恵

………不安を拭いきれない相手に、全部任せるの?

日向 瑞樹

………………そうだな。

佐倉 百恵

わかった…。

佐倉 百恵

でも………ひとつだけ
少しでも…二人になることは…

日向 瑞樹

悪い。
こういうときは一人になりたい。

日向 瑞樹

恋人の務めだなんだ言うのなら…
もういっそ別れてくれて構わない。

佐倉 百恵

え…………。

日向 瑞樹

それじゃ、そういうことだから…自室の方へ行ってる。
皆には体調を崩しているとでも、言っておいてくれないだろうか。




なんだか聞いてはいけないことを聞いたような気がして、ふと目を開けた。



………申し訳なくも…結局のところ羽鳥さんに対しての疑問が一番気になる。


確かに羽鳥さんから、それをどこで知ったかなどは一度も聞いてない。


………聞いてみようかとも思うが、相変わらずの調子で


「いずれ…わかる」

「さて…どうだったかな?」

こうやって流すのがオチなのだろう。



佐藤 紘

それにしても…あれだけのことで別れるって…恋愛って複雑なんだなぁ…。

只野 悠馬

佐藤くん。

佐藤 紘

あれ…いつの間に。

只野 悠馬

田畑君たちが、呼んでいたよ。

佐藤 紘

あ、わかりました。

佐藤 紘

ありがとうございます。

只野 悠馬

………………気を付けてね。

佐藤 紘

え?

只野 悠馬

なんでもないよ、行っておいで。

佐藤 紘

はい。




辺りを見回して、妙なモッサリを見つけて近寄った。

背後でガチャッと扉を開くような音がしたが、おそらく只野さんは食堂を後にしたのだろう。

佐藤 紘

田畑さん、お待たせしました。

田畑 結城

よし、来たな。

田畑 結城

内容は今日の演目について…だ。

田畑 結城

ひとまず…
陽景くんは体調を崩し休んでいる。

田畑 結城

看病は、日向に佐倉…小野がやってくれるそうだ。

佐藤 紘

え?

羽鳥 弘継

ここにいる間……話を合わせてくれないか?

佐藤 紘

あ、あぁ…もしかして…工藤さんが居ないことのフォローなのかな。

佐藤 紘

はい。

田畑 結城

それで、次も決まっている。

佐藤 紘

え?

田畑 結城

脚本は…彼女が書いた。

涼風 美代

あ、あの…初めまして…。
涼風美代(すずかぜ みよ)…です。

佐藤 紘

あ、初めまして…佐藤紘です。

涼風 美代

は、はい!
存じています!

涼風 美代

佐藤さんも、執筆されるんですよね?

佐藤 紘

え…あぁ…まぁ、はい。

佐藤 紘

まだまだ自身はありませんが…。

涼風 美代

そんな…
羽鳥さんからお伺いしましたよ!

涼風 美代

私…恋愛ものしか書けないので…違ったジャンルが書ける方が羨ましくって…。

佐藤 紘

恋愛もの…かぁ。
この人も脚本書いてたのかな?
逆に僕の苦手なもの…だなぁ。

田畑 結城

割って入ってすまないが…
先ほどの話の続きだ。

田畑 結城

次はロミオとジュリエット…
少し内容はオリジナルだがね。

田畑 結城

それをやることに決めたよ。

佐藤 紘

えっと…はい?

佐藤 紘

話を合わせろと言われたものの…これはいったいどういう…。

羽鳥 弘継

…………………。

涼風 美代

そ、それでですね…!
佐藤さんと田畑さんに…配役を…。

佐藤 紘

僕…ですか?

涼風 美代

ダメ…でしょうか?

佐藤 紘

その…申し訳ないんですが…
僕、演技力はからっきしなんで…。

涼風 美代

そ、そうですか…。

涼風 美代

では…えっと…羽鳥さん!

羽鳥 弘継

演技をしたのは…幼稚園で山の役をやったっきりだ。

佐藤 紘

それ、必要な役!?

羽鳥 弘継

正確には山の…やまびこ役?
棒立ちで棒読みおっけーだった。

佐藤 紘

………………。

涼風 美代

…………どうしましょう。

田畑 結城

できれば俺も…パスしたいな。

涼風 美代

えぇ!?

田畑 結城

しかし…足りていないのは、親友のマキューシオ役だろう?オリジナルのものなんだ、マキューシオを省いて作れないだろうか…?

涼風 美代

出来ないことでは…ないです。

田畑 結城

そうか、よかった。

田畑 結城

それで他の登場人物は…。

涼風 美代

それでしたら…

涼風 美代

ロミオ
ジュリエット
神父ロレンス
父キャピュレット
審判エスカラス

涼風 美代

こんな…感じです。

涼風 美代

あ、そういえば…
佐藤さんはご存じない方も…!

佐藤 紘

そう…ですね。

涼風 美代

えぇぇぇぇっと…
どなたです!?どなたですか!?

佐藤 紘

お、落ち着いてください…。

田畑 結城

ふむ……
佐藤くんが知らないのは…

田畑 結城

あ、ほら…あそこにいる。

花弓 裕也

………………。

田畑 結城

あそこで一人寂しく昼食をとっているのが…

田畑 結城

ん?昼食…?

田畑 結城

もうそんな時間かぁぁぁぁ!!

田畑 結城

失礼する!

涼風 美代

え…えぇぇぇ!?

佐藤 紘

ご、ごはん食べに行きましたね…。

涼風 美代

え、えっと…どうします?
私たちもお昼食べますか?

佐藤 紘

と、とりあえず…
田畑さんの続きをお願いしても…

涼風 美代

あ、はい!

涼風 美代

あの方は
花弓裕也(はなゆみ ゆうや)さん。

涼風 美代

2つ上の先輩で…って…
私、自分の歳言いましたっけ!?

佐藤 紘

い、いえ…。

涼風 美代

わ、私が16の一年生で
あの方が17の三年生です!

佐藤 紘

は、はぁ……。

佐藤 紘

そういえば、皆高校生なんだなぁ。

涼風 美代

それで、ですね。
二つ上の先輩で…審判役の方です!

佐藤 紘

あの人が…
審判エスカラス役…。

涼風 美代

それで、あの…
絆創膏を撫でているのが…

椎名 新太

…………………。

涼風 美代

椎名新太(しいな あらた)さん。
三年生で、お父さん役です。

佐藤 紘

なんであんなに愛おしそうなんだ?
なにか特別な絆創膏なんだろうか?

佐藤 紘

あの人が…
父キュピュレット役かぁ…。

涼風 美代

えっと…神父役とロミオとジュリエットが…ええと…今いないんですが…

涼風 美代

佐倉百恵さん
日向瑞樹さん
只野悠馬さん
の、3人になります!

佐藤 紘

あ、その3人なら会いましたよ。

佐藤 紘

そっか…あの3人もロミオとジュリエットに。

涼風 美代

えっと…大丈夫ですか?
覚えましたか?

佐藤 紘

たぶん大丈夫です。

涼風 美代

そ、そうですか!よかった!

涼風 美代

そ、それじゃあ…私…マキューシオ役の分の脚本…書き直したいので…お暇しても…?

佐藤 紘

あ、どうぞ…
ご丁寧にありがとうございます。

涼風 美代

は、はい。

佐藤 紘

ふぅ…。

佐藤 紘

そういえば、なんでこんなことに!

羽鳥 弘継

……………お疲れさま。

佐藤 紘

あれ、羽鳥さんいつの間…

羽鳥 弘継

…………さっきから居たが。

佐藤 紘

えーと…

佐藤 紘

そうでした、すみません。

羽鳥 弘継

この件について説明したい。
昼食と、どちらを先にとる…?

佐藤 紘

……実はお腹空いてなくて…。

羽鳥 弘継

そうか、ならば場所を移動しよう。

佐藤 紘

はい。
















11話 つかぬ間の平穏と薬2

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