午前2時手前、LINEの通知音を枕元で充電していたiPhoneが鳴らした。


こんな遅くに一体誰だ、と思って
いつもは触らないような時間にLINEを開く。


迫田藍

ああ、




メッセージ欄の一番上にあったのは、


小林唯

こんばんは、藍ちゃん




小林唯からのメッセージだった。


どうしたらいいのだろう、と少し悩んでから、

迫田藍

こんばんは。




とだけ、なんとも素っ気ない返事をした。


小林唯

まさかLINE追加してくれてるなんて思わないからびっくりしたw

迫田藍

ああやってIDいただいたら、追加しますよ笑。

小林唯

藍ちゃんっていうんだね、あらためてありがとうw



下の名前ですぐ呼ぶあたり、彼は女慣れしているのだろうと思う。


軽いと思わないでね、とサラリという人らしいなあ、と感じた。

迫田藍

どうして、私にLINE教えてくださったんですか笑?




彼の小文字のダブリューに対して私も一応、
笑と文末に付けるものの、

画面のこちらにいる私は何も面白くなどないし、笑ってもいない。


小林唯

ふつーに、話したいなって思ったから

迫田藍

この前失礼なこと言ってしまったから、怒ってるかなって思ってました

小林唯

いやいや

小林唯

あれきっかけで、何この子話したいって思ったんだしラッキーだったよ俺的には

迫田藍

一緒にいた子と反省してました

迫田藍

ごめんなさい泣。




欠伸をしながら電気の消した部屋で、
うとうとと打つ文章。

きっと相手が詩織や三浦だったら、
もう返さない時間だけれど。


小林唯

こーさん?

迫田藍

2年です。最近17になりました。

迫田藍

小林さんはおいくつですか?

小林唯

うわ、若い若い
こんな若い子に連絡先交換してもらっちゃったのか




制服を着ていたのだから、
15歳から18歳の間であることは分かっていたはずなのに。

小林唯さんの反応がまるで随分と離れた人のようで、少し驚いた。


迫田藍

どういうことですか笑





私はこのときまでは、
ノーテンキに返事をしていたのだけれど、

次の小林さんの返信で少しだけ、意識が変わってしまった。



小林唯

俺にねんせい、20歳なったばっかだよ

迫田藍

はたち…





そりゃあ大学生なのだから、一般的に言えば18歳から22歳くらいの人たちがいるところなのに。

考えたら分かることなのに。



ああ、この人は年上なのだと、
私なんかよりも随分と大人なのだと思った。




17歳って微妙だと思う、

だなんて曖昧な歳ではなく、社会的にも成人だと認められて、
いろんなことを許されて課せられている人。





彼がさっき私の歳を聞いて、
あらためて若いと言ったのが分かった気がする。




迫田藍

私、年上の方とお話しする機会なんてなくて慣れてないので、なんか、変な感じします




もし私がもう1歳上だったら、
もしくは小林さんがもう1歳下だったら、

中学や高校が被る年齢差だ。



けれど私と小林さんの3歳という年齢差は、
学校で先輩後輩の関係を築くよりも大きくて。


私はそれだけ上の人と関わる機会なんて今までになかった。



たった3歳と言われてしまえば、それまでのこと。

事実、16歳と19歳とか、20歳と23歳と聞くと、大差ないような気もする。



選挙権にはギリギリ手に届かず、
18禁の映画などまだ入れもしない高校二年生17歳の私と、

成人式を終えて、
煙草やお酒などが法律的に許された大学二年生20歳の小林さんの差は、


私にとっては随分と大きいものに感じられた。



緊張、という言葉が当てはまるのかもしれない。



小林唯

分かる、それ




と、ここまでで
私は意識を手放して眠りについてしまった。








…緊張という言葉のまま、
私の意識が何も変わらなければよかったのに。

と、今では強く思う。




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