週末、久しぶりにショッピングでもしようか、と一人で少し離れたショッピングモールに出向いた。


こうやって自分の買い物をするのは、一人の方が好きだった。

思いつきで昼過ぎに家を出たため、買い物を終えた時にはもう21時をまわっていた。



思ったよりも遅くなってしまったな、と母親に晩御飯はいらないとメールをして、駅地下のキッチンバーに入った。



大人に混じって座るカウンター席。
別に飲酒をするわけでもないのに、ほんの少しだけ背徳感にとくんと心臓が打った。



注文を取りに来た女性店員に、きのことベーコンのトマトクリームパスタとグレープフルーツジュースを注文する。




そして、iPhoneを触って溜まっているLINEを返していると、



お待たせいたしました。





一人で座っていたカウンター席に横からグレープフルーツジュースを差し出される。


ありがとうございます、と声をかけようとして、



それは叶わないままに



迫田藍

あ、



と、情けない声が一つ漏れた。



そこにいたのは、

小林唯

あ、俺の大学を嫌いな高校生だ。





この前オープンキャンパスで出会った大学生だった。


迫田藍

わ、こんにち、は。




驚いた、

思わず返した挨拶は、
上擦った声になってしまった。



小林唯

声、



その大学生は
からかうようにクスリと笑って、

そして、少しだけ声を小さくして、続けた。


小林唯

…ねえ、軽いって思わないでね。



彼は、ブラウンのエプロンのポケットに入っていたボールペンを取り出して、

私の眼の前に置かれた紙ナプキンに、
ローマ字を5つ書いて並べた。


迫田藍

と、言いますと…?




小さな声で尋ね返す。

けれど私も馬鹿ではないし、
天然というわけでもない。


小林唯

LINE。




たった一言、

彼はそれだけを残して私が座っているカウンターから離れた。



これが何かしらの連絡手段をとるためのIDだということは分かっていたけれど、

彼の行動、ここまでの流れがあまりにもスムーズだったから。



手慣れていることは確実だろう。



こんなガキ相手に。

たった一回話しただけ、しかも悪態を吐くようなみっともない真似をした私相手に。


軽いって思わないでね、という台詞までが、きっと彼のテンプレだということは容易に想像出来る。



迫田藍

…。




それがなんだか悔しかったから、私はIDを入力して彼を検索にかける。

小林唯、

と、まるで女の子のような名前の横にあるのは、友達であろう男の人何人かで写っている写真のアイコン。

名前をタップして追加して、
私は彼に何を送るでもなく、LINEを閉じた。


pagetop