ーーイマガイ・妖精の森
ーーイマガイ・妖精の森
いだっ!!
鏡に手をついたと思ったら吸い込まれていった俺は、気がつくと木々に囲まれた森の中に投げ出されていた。いてて・・・ケツ打った・・・。
もうちょっと優しく下ろしてくれよな・・・
それにしても、ここは・・・?
穏やかな場所だ・・・なんだか心がとても落ち着くような・・・マイナスイオン?ってやつなのかな?きっと、ここで日光浴なんてしたら気持ちがいいんだろうな・・・
ん・・・?何の音だ・・・?
雰囲気をぶち壊すような、地響きのような音がどこかから響いてくる・・・これはいったい・・・?
・・・というかなんか・・・
近づいてきてる・・・!?
たーすーけーてー!!
地響きに混じってそんな声も聞こえてくる・・・これは本格的にまずーー
ギャオオオオオオオオオオオオ!!!
!?な、なにあれ!?
翼の生えた、馬のような鳥のような何かが、前方の茂みから飛び出してきた!!それに、よく見ると・・・あれは・・・?
ふえええええええ!!!だれかあああああ!!
アミスと同じくらいのサイズの女の子が追われている・・・!?
女の子は、目の前の俺に気づくと、なぜかぱあっと顔を輝かせて・・・こっちに近づいてくる・・・!?!?
ああ!!助かった!!
人間さん、こいつ倒して-!!
うわああああああ!?こっちくんなあああああああああ!!!!!!!
ええええええ!?あんたも丸腰なのおおおお!?
ごめん妖精さん!!俺体育の成績だけは他よりちょっとよかっただけのぺーぺーだから!!
なんて言っている余裕もなく、俺は意図せずこの命がけの鬼ごっこに巻き込まれてしまった・・・!!
ちょっとちょっと!!なんで人間ごときが丸腰でこんなところにいるわけ!?あんた魔法(マジック)は?それも使えないの!?
そんなこと言われたって!!気がついたらここにいたんだよ!!俺だって状況把握し切れてないんだって!!
何それ!じゃあ、最近はやりの人身商人に捨てられた欠陥品ってわけ!?
欠陥品って何だよ!!
俺は・・・
い、異世界?から来た・・・んだと思う・・・
あははっ、なにそれ!頭大丈夫!?
俺も信じがたいけど事実なんだよ!!
もーう、そんな馬鹿みたいな事がーー
へぶっ!?
ろくに前を見ていなかったのだろう。女の子は思いっきり木に頭をぶつけていた・・・。
うー、いったぁい・・・!
おいおい・・・大丈夫か・・・?
もう最悪・・・
って、わあああああ!?
木に頭をぶつけたタイムロスで、怪物はもう目の前に迫ってきていた・・・!今から逃げても、もう・・・!
ギャオオオオオオオオオオオオ!!!
うわっ・・・!ど、どうしよう・・・
ふえええええん!!もうだめだわ・・・!
一度でいいから、森の外に出てみたかったぁ!!
勝利を確信したのか、怪物はゆっくりこちらに近づいてくる・・・ああ・・・ごめん圭・・・本格的に、俺死ぬかも・・・。
ギャオオオオオオオオオオオオ!!!
いやあああああああ!!
わああああああっ!!!
俺はこれから来る衝撃に備え、堅くまぶたを閉じた・・・。
双風魔法・クロスウィンド!!
ギャオオオオオオオオオオオオ・・・!!!
怪物は、突然現れた風の刃によって絶命した・・・。おそるおそる目線をあげると、手のひらサイズくらいの男性が俺たちの方に向かってきていた。
・・・あの人が助けてくれたのか・・・?
・・・ふう、大丈夫ですか?二人とも。
は、はい・・・なんとか・・・
ううううう・・・いたい・・・いたいのはいやああ・・・!
ルナ、もう怪物は倒しました。だから安心してください?
ううううう・・・
はっ・・・!
お、長ああああああああ!!
妖精の少女ーールナは、その男性の姿を確認すると、まっすぐにその人の元へ飛んでいった・・・が。
どうして、あなたはそう毎回言いつけを破るのでしょうねぇ・・・
帰ったら、今までの分も併せて反省文書いてもらいますからね・・・?
うえええええええ!!!そんなあああああ!!
先ほどとは打って変わってしょんぼりしてしまったルナを放り、長と呼ばれた妖精が俺に向けて一度礼をした。
巻き込んでしまって、申し訳ございませんでした。
あ、い、いえそんな・・・その子も必死だったんだと思いますし・・・
うん!すごく必死だったわ!!
死ぬかと思ったもの!!
ルナ、君は少し反省すると言うことを覚えなさい?
は、はいぃ・・・
元気になったりしょんぼりしたり、なんだか忙しい子だな・・・。
私はフロウ・セシル。ここ、妖精の森を納める長です。
そしてこっちは・・・
あたしはルナ!ルナ・シャイン!!
よろしくね、人間さん!!
氷神在斗です。
あの、助けてくれて、ありがとうございました!
いえ、巻き込んでしまったのはこっちですので、お気になさらず・・・
ヒカミ?変わった名前ね・・・
ああ、そうか、「アルト・ヒカミ」って言った方がよかったかな?
いや、そっちは名字・・・
名前は在斗だよ。
なにそれ!変なのー!
いたっ!!
ルナ、失礼でしょう?そんなこと言ってはいけません。
はぁい・・・ごめんなさい・・・
うちのものが度々すみません・・・
いえ、俺の言い方が悪かったんです。だから、そんなに怒らないであげてください。
そうですか・・・?
うんうん!!アルトもそう言ってることだし、反省文も免除って事で・・・
それはないですね
とほほ・・・
あ、これ下手に甘やかさない方がいいやつだ。すぐに調子に乗る典型タイプ・・・俺みたい。
それにしても・・・なぜ、あなたのような人間が一人で?
あ、えっと・・・信じてもらえるとは思えないのですが・・・
俺は、六角諸島で起きた出来事から、ここに来るまでのことを順を追って話した。
するとなんと、フロウさんはあっさりと信じてくれた。
なるほど・・・そうなると、あなたは・・・
ずっと道端で立ち話も何でしょう、私の屋敷まで来ていただけませんか?お茶も用意いたしましょう。
いいんですか!ありがとうございます!!
正直、昼から飲まず食わずだったため喉もカラカラだし、おなかもぺこぺこだった俺には最高の提案だった。息もつけなかったからな・・・おまけに生死がかかった鬼ごっこにまで巻き込まれたし・・・。
ええ!!長、そんな簡単に信じちゃって大丈夫なの!?嘘くさいよ・・・?
大丈夫です・・・時期的にも、信頼が置けますよ。
それに・・・アミスの姿を見かけなくなったことにも、これで納得がいきます。
ここでアミスの名前を聞くことになるとは思っていなかったので、俺は少し驚いた。
おや・・・もしや、すでにアミスと会っていましたか?
えっと・・・一応・・・その、女の子と一緒にいた妖精って言うのが・・・
やっぱり・・・
えっ、あのくそったれ妖精とアルトが顔見知りなの?
そんなこと言わない。
はーい
そこら辺についても、お話しする必要がありますかね・・・とりあえず、屋敷に向かいましょう。
長のお屋敷って、すーーーっごい広いんだよ!!人間も普通に入れちゃうの!
へえ、そうなんだ!
俺はでかくて入れないとか言うオチを心配していたので助かった・・・。
そのまま俺は二人に先導され、フロウさんの屋敷へと向かったーー。