ーーイマガイ・妖精の森

アルト

いだっ!!

鏡に手をついたと思ったら吸い込まれていった俺は、気がつくと木々に囲まれた森の中に投げ出されていた。いてて・・・ケツ打った・・・。

アルト

もうちょっと優しく下ろしてくれよな・・・

アルト

それにしても、ここは・・・?

穏やかな場所だ・・・なんだか心がとても落ち着くような・・・マイナスイオン?ってやつなのかな?きっと、ここで日光浴なんてしたら気持ちがいいんだろうな・・・

アルト

ん・・・?何の音だ・・・?

雰囲気をぶち壊すような、地響きのような音がどこかから響いてくる・・・これはいったい・・・?

アルト

・・・というかなんか・・・

近づいてきてる・・・!?

たーすーけーてー!!

地響きに混じってそんな声も聞こえてくる・・・これは本格的にまずーー

ギャオオオオオオオオオオオオ!!!

アルト

!?な、なにあれ!?

翼の生えた、馬のような鳥のような何かが、前方の茂みから飛び出してきた!!それに、よく見ると・・・あれは・・・?

ふえええええええ!!!だれかあああああ!!

アミスと同じくらいのサイズの女の子が追われている・・・!?
女の子は、目の前の俺に気づくと、なぜかぱあっと顔を輝かせて・・・こっちに近づいてくる・・・!?!?

ああ!!助かった!!
人間さん、こいつ倒して-!!

アルト

うわああああああ!?こっちくんなあああああああああ!!!!!!!

ええええええ!?あんたも丸腰なのおおおお!?

ごめん妖精さん!!俺体育の成績だけは他よりちょっとよかっただけのぺーぺーだから!!
なんて言っている余裕もなく、俺は意図せずこの命がけの鬼ごっこに巻き込まれてしまった・・・!!

ちょっとちょっと!!なんで人間ごときが丸腰でこんなところにいるわけ!?あんた魔法(マジック)は?それも使えないの!?

アルト

そんなこと言われたって!!気がついたらここにいたんだよ!!俺だって状況把握し切れてないんだって!!

何それ!じゃあ、最近はやりの人身商人に捨てられた欠陥品ってわけ!?

アルト

欠陥品って何だよ!!
俺は・・・

アルト

い、異世界?から来た・・・んだと思う・・・

あははっ、なにそれ!頭大丈夫!?

アルト

俺も信じがたいけど事実なんだよ!!

もーう、そんな馬鹿みたいな事がーー

へぶっ!?

ろくに前を見ていなかったのだろう。女の子は思いっきり木に頭をぶつけていた・・・。

うー、いったぁい・・・!

アルト

おいおい・・・大丈夫か・・・?

もう最悪・・・

って、わあああああ!?

木に頭をぶつけたタイムロスで、怪物はもう目の前に迫ってきていた・・・!今から逃げても、もう・・・!

ギャオオオオオオオオオオオオ!!!

アルト

うわっ・・・!ど、どうしよう・・・

ふえええええん!!もうだめだわ・・・!
一度でいいから、森の外に出てみたかったぁ!!

勝利を確信したのか、怪物はゆっくりこちらに近づいてくる・・・ああ・・・ごめん圭・・・本格的に、俺死ぬかも・・・。

ギャオオオオオオオオオオオオ!!!

いやあああああああ!!

アルト

わああああああっ!!!

俺はこれから来る衝撃に備え、堅くまぶたを閉じた・・・。

双風魔法・クロスウィンド!!

ギャオオオオオオオオオオオオ・・・!!!

怪物は、突然現れた風の刃によって絶命した・・・。おそるおそる目線をあげると、手のひらサイズくらいの男性が俺たちの方に向かってきていた。
・・・あの人が助けてくれたのか・・・?

・・・ふう、大丈夫ですか?二人とも。

アルト

は、はい・・・なんとか・・・

ううううう・・・いたい・・・いたいのはいやああ・・・!

ルナ、もう怪物は倒しました。だから安心してください?

ルナ

ううううう・・・

ルナ

はっ・・・!

ルナ

お、長ああああああああ!!

妖精の少女ーールナは、その男性の姿を確認すると、まっすぐにその人の元へ飛んでいった・・・が。

どうして、あなたはそう毎回言いつけを破るのでしょうねぇ・・・

帰ったら、今までの分も併せて反省文書いてもらいますからね・・・?

ルナ

うえええええええ!!!そんなあああああ!!

先ほどとは打って変わってしょんぼりしてしまったルナを放り、長と呼ばれた妖精が俺に向けて一度礼をした。

巻き込んでしまって、申し訳ございませんでした。

アルト

あ、い、いえそんな・・・その子も必死だったんだと思いますし・・・

ルナ

うん!すごく必死だったわ!!
死ぬかと思ったもの!!

ルナ、君は少し反省すると言うことを覚えなさい?

ルナ

は、はいぃ・・・

元気になったりしょんぼりしたり、なんだか忙しい子だな・・・。

フロウ

私はフロウ・セシル。ここ、妖精の森を納める長です。
そしてこっちは・・・

ルナ

あたしはルナ!ルナ・シャイン!!
よろしくね、人間さん!!

アルト

氷神在斗です。
あの、助けてくれて、ありがとうございました!

フロウ

いえ、巻き込んでしまったのはこっちですので、お気になさらず・・・

ルナ

ヒカミ?変わった名前ね・・・

ああ、そうか、「アルト・ヒカミ」って言った方がよかったかな?

アルト

いや、そっちは名字・・・
名前は在斗だよ。

ルナ

なにそれ!変なのー!

ルナ

いたっ!!

フロウ

ルナ、失礼でしょう?そんなこと言ってはいけません。

ルナ

はぁい・・・ごめんなさい・・・

フロウ

うちのものが度々すみません・・・

アルト

いえ、俺の言い方が悪かったんです。だから、そんなに怒らないであげてください。

フロウ

そうですか・・・?

ルナ

うんうん!!アルトもそう言ってることだし、反省文も免除って事で・・・

フロウ

それはないですね

ルナ

とほほ・・・

あ、これ下手に甘やかさない方がいいやつだ。すぐに調子に乗る典型タイプ・・・俺みたい。

フロウ

それにしても・・・なぜ、あなたのような人間が一人で?

アルト

あ、えっと・・・信じてもらえるとは思えないのですが・・・

俺は、六角諸島で起きた出来事から、ここに来るまでのことを順を追って話した。
するとなんと、フロウさんはあっさりと信じてくれた。

フロウ

なるほど・・・そうなると、あなたは・・・

フロウ

ずっと道端で立ち話も何でしょう、私の屋敷まで来ていただけませんか?お茶も用意いたしましょう。

アルト

いいんですか!ありがとうございます!!

正直、昼から飲まず食わずだったため喉もカラカラだし、おなかもぺこぺこだった俺には最高の提案だった。息もつけなかったからな・・・おまけに生死がかかった鬼ごっこにまで巻き込まれたし・・・。

ルナ

ええ!!長、そんな簡単に信じちゃって大丈夫なの!?嘘くさいよ・・・?

フロウ

大丈夫です・・・時期的にも、信頼が置けますよ。

フロウ

それに・・・アミスの姿を見かけなくなったことにも、これで納得がいきます。

ここでアミスの名前を聞くことになるとは思っていなかったので、俺は少し驚いた。

フロウ

おや・・・もしや、すでにアミスと会っていましたか?

アルト

えっと・・・一応・・・その、女の子と一緒にいた妖精って言うのが・・・

フロウ

やっぱり・・・

ルナ

えっ、あのくそったれ妖精とアルトが顔見知りなの?

フロウ

そんなこと言わない。

ルナ

はーい

フロウ

そこら辺についても、お話しする必要がありますかね・・・とりあえず、屋敷に向かいましょう。

ルナ

長のお屋敷って、すーーーっごい広いんだよ!!人間も普通に入れちゃうの!

アルト

へえ、そうなんだ!

俺はでかくて入れないとか言うオチを心配していたので助かった・・・。
そのまま俺は二人に先導され、フロウさんの屋敷へと向かったーー。

第1楽章 ルナ、夢を見る 1

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