俺の見間違えじゃなければ、そこには崩れてしまって跡形もなくなった「何か」の前に、同い年くらいの女の子と・・・後は・・・なんだあれ?小さな男の子だ。手のひらサイズくらいの小さな男の子が、女の子の肩のありに浮いていた・・・人形か?

おいおい人形って・・・そりゃないぜ!

アミス

俺はアミス・ブライン。後に闇の妖精の王になる男だ!

アルト

は、はあ・・・?

ちょっと、その自己紹介はやめなさいって言ったでしょ。私まで白い目で見られるわ・・・。

すごい・・・設定はともあれ、この女の子が全部腹話術でしゃべらせてるのか・・・?人形の方もすごいリアルだし・・・。

アミス

俺という妖精を紹介するにはこの説明が一番なのさ。

アミス

あ、そして何度も言うが、俺は人形じゃない。腹話術なんてもっての外だ。

アルト

え、ええ・・・

なんか面倒な人だな・・・そう言うことにしておいてあげよう・・・っていうか、俺、もしかして今までの全部口に出てたのか?こっちの思ってることばんばん言い当ててくるけど・・・。

アミス

ああ、それな。驚かせたのなら申し訳ない。
お前の顔はよくものを語る・・・わかりやすくってな。

アルト

えっ、俺そんな顔に出てる・・・?

アミス

クククク、そうだな。非常にわかりやすいぜ?今だってーー。

アミス、今はそんなことどうでもいいわ。
早く本題に入ってちょうだい。

アミス

ククッ、そう急かすな・・・わかったよ。

アミスと名乗った妖精(?)は、女の子の肩から俺の目の前まで飛んでくると、表腕を広げて言った。

アミス

おめでとう!!君は由緒あるプレイヤー、スコアホルダーに選ばれました!!

アルト

は・・・?スコア・・・何だって?

新手の宗教勧誘か?

アミス

まあそうなるよな。

アミス

説明しよう!しかし簡潔に重要な部分のみ!!
スコアホルダーとは、非常に強い願いを持った少年時代を生きる子どもたち・・・そのうちナイスタイミングで、我らが創造神に選ばれた幸運な子どもたちのことさ!

アルト

あ、あの・・・俺神とか信じてないんで、そういうのは結構です・・・

アミス

ついに声に出しやがった・・・

あなたの言い方が悪いのよ。それじゃまさしく宗教勧誘だわ・・・。

・・・そうね。もっと簡単に言うわ。
・・・氷神在斗。

女の子が平然と俺の名前を呼ぶ・・・あれ、教えたっけ・・・?

願いを叶える権利をかけて、私と戦いなさい。

アルト

は?

何言ってるんだこの子。

アミス

おやおや、ずいぶん積極的だね、テナ?

テナ

二週間も待たされたんだもの・・・これ以上待つ気はないわ。

アルト

ま、待って!戦うって何?願いを叶える権利って・・・?

テナ

言葉の通りよ。私たちにはなんでも一つだけ願いを叶える権利が与えられた・・・でも、それは一つだけ。あなたか私、どちらか片方だけなの。

そんなこと急に言われたって・・・しかも戦うって、穏やかじゃないな・・・。

アルト

ごめん、ちょっと意味が・・・。

テナ

・・・・気が乗らないなら、こう言えばいいかしら?

テナ

あなたの学校に火を放ったのは私たちよ。

アルト

・・・え?

いきなり告げられた事に、驚きを隠せない・・・。
この子たちが放火犯・・・?どうして・・・?

テナ

願いを叶える権利を手にするには、二人のスコアホルダーが必要なの。火災の目的はただ一つ。新たなスコアホルダー候補を生み出す事。
結果は大成功だったわ。あなたという、強い願いをもつスコアホルダー候補が誕生したんだもの・・・。ねえ、

テナ

お友達、助けたいんでしょう?

こいつ・・・!!

アルト

お前・・・そんなことのために圭を・・・!!

テナ

そんなこと?私にとっては重要なことなの。あなたのお友達がどうなろうと知ったことではないわ。むしろ、それで条件がそろうのなら、私には利点しかないもの。

アミス

・・・まあ、事件の真相はそんなところなのさ・・・どうだい?これでも、彼女と戦う事を決意できないかい?

アルト

・・・・・・・んなの・・・!!

アミス

・・・出た方がいいんじゃないかい?
とても、悪い予感がするぜ。

アルト

・・・・・・

ニヤニヤと趣味の悪い笑みを浮かべるアミスを尻目に、俺はスマホを耳に当てる・・・通話の相手は母さんだった。

アルト

・・・・・・もしもし

在斗?今どこにいるの!?まだ病院の近く?

アルト

あ・・・えっと・・・うん。今、ターミナルに向かってて・・・

アミス

心配をかけさせたくないってか?クククッ、ずいぶん母親思いの優しい坊やじゃないか。嫌いじゃないぜ?

黙れ。と心の中でつぶやく。どうせまた、表情から読み取られるんだろう。
しかし今はそんなことよりも、いつになく慌てた風な母さんの方が気になった。

アルト

どうした?何かあった?

そ、そうなの・・・在斗、落ちつて聞いて。
さっき、圭くんのお母さんから電話があって・・・圭くんが・・・

アルト

圭に、何かあったのか!?

・・・容体が急に悪化して、心臓が・・・今、蘇生に当たっているらしいけど、もう・・・

アルト

そ、んな・・・嘘だろ・・・?

まだ、病院の近くにいるなら・・・行ってあげなさい・・・覚悟も、しておいた方がいいと思う・・・

アルト

・・・・・・・・わかっ、た・・・

容体が悪化・・・?だって、昼間はなんともなかったじゃないか・・・おばさんだって、きっとすぐに目を覚ますって・・・まさか、またこいつらが何か・・・!!

アミス

さて、何の話だった?
あれか?大事なお友達が危篤にでもなったか?

アルト

お前・・・!!

アミス

おいおい、俺たちは何もしてないぜ。今回はな。

アミス

運命の神のいたずら・・・ってやつかねぇ?おお、怖い怖い。

だめだ・・・一緒にいるだけ時間の無駄だ・・・俺は改めて帰り道を探すために歩き出した。

アミス

おいおい、どこに行くんだ?

アルト

・・・・・・帰る。

アミス

は?

テナ

何を言っているの?

アルト

帰るんだよ!圭が死んじゃうかもしれないんだ・・・だから・・・!

アミス

どうやって?

アルト

それをこれから探すんだ。

テナ

無駄ね。

アルト

それでも!!

テナ

わからない子ね。帰り道なんて見つからないわ。ここに来たら、先に進むしかないの。

アルト

またさっきの願いがどうのってやつか?だったら他を当たってくれ。俺は圭のところに行かなきゃならない。

そんなでたらめ話を聞いている暇はない。はやく行かなきゃ・・・圭が死んでしまう・・・!

テナ

無理よ。だってここ、どこだかわかっているの?

アルト

どこだか・・・は、知らない・・・
でも、入ってこれたんだから、出口だってあるはずだ!

テナ

ええ、あるわよ。でも、出た場所はきっと警察署ね。

アルト

・・・は?

警察署・・・?

テナ

察しが悪いから教えてあげる。
ここは「未開島」。人々の侵入が禁止されている島・・・出口と言ったら、政府が所有している開発ターミナルくらいじゃないかしら?
そんなところに堂々と入っていこうものなら・・・不法侵入罪で現行犯逮捕。お友達の安否確認どころじゃないわ。

アルト

未開島・・・ここが・・?

聞いたことはあった・・・一般人の進入が禁止された未開発区域・・・未開島。そこまでの経路は全面的に隠されていて、切り立った崖のせいで船が近づくことはできないーー

アルト

そんなところに・・・どうやって・・・

アミス

魔法(マジック)さ。

アルト

・・・マジック?

アミス

そう。俺ってば最強の妖精なうえ、最高の魔術師(マジシャン)なんだよね・・・!

そう言うと、アミスは左の指をパチンと鳴らし・・・

その手に、真っ赤な炎が灯った。

アルト

わっ!?

アミス

本業は闇魔法だから、火属性の魔法は赤い炎しか出せないけど・・・!

テナ

不完全燃焼ね。

アミス

言ってくれるな

アミスはその炎を握りつぶすようにしてもみ消すと、再度俺のそばによって言う。

アミス

信じてもらえたかな?さっきの諸々の話も一緒に。

アルト

・・・・・・・・

アミス

驚きすぎて声も出ないか・・・
なら、これはきっと効果覿面だな。

突如、俺の足下に禍々しい模様の魔方陣が浮かび上がった・・・!

アルト

うわ!?

アミス

下手に動くな?その魔方陣の中にい間は、お前の命は俺の意のままだ。

アルト

どういうことだ・・・!

アミス

俺が得意な魔法は闇魔法・・・闇魔法ってのはな、基本的に対象を呪ったり、そのまま殺したりできるものが多い。

アミス

その意味が、わかるな?

つまり・・・変な動きを使用ものなら殺す・・・って事か・・・?
俺は顔を真っ青にしてその場でガタガタと震えた。

アミス

本当はこの脅しは最終手段だったんだが・・・仕方ない。だってお前強情なんだもん。

アルト

う、あ・・・

アミス

でも、この話・・・今のお前にとっても、もちろんテナにとっても悪い話ではないと思うんだが・・・なあ、テナ?

テナ

そうね。今あなたがお友達のところに行ったって何もできない・・・けど、この話に乗れば、そのお友達を助けることができるかもしれないの。どうかしら、氷神くん?

ここまでされたら、正直信じるしかない・・・でも、仮に本当だとして・・・俺はこれからこいつらにどう立ち向かっていけばいいのか、わからない。
俺なんかが敵う相手なのだろうか・・・?

アミス

わからないことは怖いことだ。でも、やってみないとわからない。やってみてもだめだったら、誰かの力を借りればいい。何も一人で立ち向かって来いなんて言わないさ。

足下の魔方陣が消える。

アミス

素晴らしい決断だ、アルト。まさしく英断、スコアホルダーに相応しい。

アミス

よって君にはこれを与えよう。

アミスが、手に持っていたステッキを俺の前で振る。すると、そこに一枚の紙と細長い棒が現れた。

アルト

・・・これは・・・?

アミス

それはサウンドレススコアとノーツバトン。
君にはこれを持って、我が故郷「イマジネーションガイア」を旅してもらう。

アルト

イマジネーション、ガイア・・・?

アミス

そう。その各地にあるノーツモニュメントにスコアを立てかけ、そのバトンを振るんだ。するとあら不思議!何も書かれていないスコアに、音が刻まれていく・・・。

アミス

そして二人分の楽譜が完成したとき、奏者が目覚め、願いの祭壇への道が開かれる・・・。

アルト

・・・・・・つまり・・・?

アミス

まあ、簡単に言うと、
その1、イマガイの各地を回ってサウンドレススコアを完成させろ。
その2、完成したスコアを演奏するための奏者を探せ。
その3・・・・・・

アミス

和解できないならもう一人のスコアホルダーを殺せ

アルト

・・・え?

殺せ・・・だって?

アミス

旅の目的はたったこれだけ!な、簡単だろう?

アルト

ま、待って、最後のって!!

アミス

さあ、もう言うことはない!でもまず、君はパートナーを探せ!じゃないと旅は始まらないぜ!!

テナ

やっとなのね・・・じゃあ氷神くん、パートナー探し、頑張って。

アルト

殺せって何だよ!!なんでこれ聞いて平然としてられるのさ!!

二人は俺の問いかけを無視して、崩れた「何か」に向き直る・・・

アミス

さあ、お待たせいたした少年少女、紳士淑女並びに我らが創造神!!世紀の一大行事・・・スコアゲームの始まりだ!!

アミス

時空転移魔法・カオスゲート、開門!!

「何か」に向かって、アミスが勢いよくステッキを振り上げる!!

崩れ「何か」は、大きな鏡になった・・・表面には魔方陣が浮き上がり、淡い光を放っている・・・。

アミス

さあ・・・入り口は開かれた・・・行こうか、欲深い人間ーースコアホルダー諸君?

気がつくと、俺の足は自然と鏡に向かっていて、その表面に手を伸ばしたーー。

待ってろ、圭。
必ず助けてやるからなーー。

プレリュード
在斗、願う    ~Fin~

次回

(と全く関係ない次回)

予告!!

無事にイマガイへとたどり着いた在斗。
しかし、そこは世紀末さながらの死ぬほどアツい展開が目白押しの世界だった!!

反抗期真っ盛りクール気取りの在斗は果たして、その世界の空気に耐えうることはできるのか!?

いやー!!お役人様やめてー!!(半笑い)

ふーっはっはっはっはっは!!
よいではないかよいではないかぁ!!(割とノリノリ)

・・・え、えっと・・・

そ、そこまでだ!!悪辣役人め・・・!!(戸惑い気味に)

アルト

これ世紀末じゃないから!!っていうかさらっとネタバレすんなああああ!!!!!!

次回
「ルナ、夢を見る」
こうご期待!!

アルト

何でそこだけ本当なの!?

プレリュード 在斗、願う 3

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