ーー妖精の森・フロウの屋敷


フロウさんの屋敷は、妖精たちが住まう集落から少し離れた場所にあった。人間を招くこともあるそうで、他の妖精たちを怖がらせないようにするためなのだという。

居間に通された俺は、あたりをきょろきょろと見回しながら、お茶を淹れてくれるというフロウさんを待っていた。

アルト

すごいな・・・こんな広いお屋敷に入るのなんて初めてだ・・・

ルナ

長のお屋敷には、珍しいものがたくさんあるのよ!大昔に、イマガイの各地を回る旅をしたことがあったんですって!

アルト

そうなんだ!

アルト

さっきの魔法もそうだけど、フロウさんってなんかすごいんだな・・・。

ルナ

当たり前じゃない!だって、あたしたちの長なのよ!!

アルト

ルナはフロウさんのこと大好きなんだな。

ルナ

うん!いつかは、長と同じようにイマガイを旅するのが夢なの!

ルナ

でも・・・

フロウ

お待たせいたしました。

ルナが言いかけたところで、フロウさんが戻ってきた。彼の前に、大小三つのティーカップと、お菓子が入ったお皿が浮いている・・・。

アルト

すげえ・・・

フロウ

ああ、これですか?

フロウ

私は、風属性の魔術師(マジシャン)なんです。大きなカップを運ぶのはさすがに辛いので、上昇気流を利用させてもらいました。

アルト

かっこいい!!
俺も魔法使えたりするのかなぁ・・・

フロウ

ふむ・・・残念ですが、スコアホルダーには大抵魔力が備わっていませんので、魔法は使えませんね・・・

アルト

ううう・・・そうなのか・・・

フロウさんは大きなティーカップとお皿をテーブルの上に置くと、後の小さなティーカップを、そばにあったミニチュアサイズのテ-ブルの上に置いた・・・シル○ニアファミリーとかこ○だちゃんとかにありそうな、そんなやつを想像してもらうとわかりやすいと思う。

俺は手を合わせて、早速お茶を一口飲んだ。
甘い香りがふわりと広がり、とても飲みやすい・・・アップルティーかな?

フロウ

お口に合うといいのですが・・・カモミールのハーブティーです。

アルト

すごくおいしいです!
ハーブティーなんて初めて飲みました・・・

ルナ

嘘!ハーブティー今まで飲んだことなかったって、人生半分以上損してるわよ!?

アルト

そんなに!?

フロウ

そこは人それぞれですよ、ルナ。
アミスもハーブティー飲めなかったでしょう?

ルナ

あいつは変わり者なんだよ-!
長のハーブティー飲めないなんてあり得ない!!こんなにおいしいのに!!

フロウ

お褒めにあずかり光栄です

さっきからアミスに対するルナの発言にとげがあるような気がするけれど・・・仲悪いのかな?

アルト

あの・・・ルナとアミスって、もしかして・・・

フロウ

はい・・・すごく仲が悪いです。
互いの出生のせいでもあるのでしょうが・・・おそらく、この妖精の森一番の不仲コンビです。

ルナ

出生関係なくあいつは生理的に無理!
小難しいことばっか言うし、あたしのこと馬鹿にしてくるし・・・

ルナ

ああ、思い出したらイライラしてきた!!

フロウ

落ち着いて落ち着いて・・・キレてもいいことはありませんよ?

フロウさんがルナの頭をぽんぽんとなでると、ルナは顔を少し赤くして静かになった。

フロウ

・・・アミスは、非常に優れた魔術師でして。闇属性の家系に生まれた身でありますが、ちょっとコツを覚えると、どんな魔法も使って見せました。
私が退位した後の、次期長候補でもあります。

アルト

そんなすごいやつだったんだ・・・

ルナ

あたしは認めないけどね!

フロウ

しかし・・・最近急に姿を見かけなくなりまして・・・その前にも、少しおかしなことを言っていました。

アルト

おかしな事?

フロウ

はい・・・確か・・・。

アミス

世界が飢えている。神は、「しゅうえん」を求めている・・・俺は探さなきゃならないみたいです、長。

ルナ

・・・なにそれ?

フロウ

私にもちょっと・・・でも、彼は何かしらを感じ取ったみたいです。
そうして「探し出した」のが・・・あなたたち、スコアホルダーなのでしょう。

かなり不思議なやつだとは思ってたけど・・・もしかして、本当に神とやらと会話をしたってことなのか・・・?

ルナ

ねえ長、さっきから気になってたんだけど・・・その、スコアホルダーってなんなの?

フロウ

ふむ・・・そうですね・・・
アルトさんはもうご存知かもしれませんが、おさらいがてら聞いてください。

アルト

はい、俺も曖昧だったので助かります・・・

フロウ

そうですか、では、説明させていただきますね。

フロウ

ルナ、以前、私はイマガイを旅したことがあると話したことがありましたね?

ルナ

ええ、覚えてるわ!長のお話の中で、一番好きなお話だもの!

フロウ

それはよかったです・・・実は、その旅の目的が、スコアホルダーの補助だったのです。

アルト

スコアホルダーの補助・・・って事はつまり・・・パートナーって事ですか?

フロウ

はい。私はとあるスコアホルダーのパートナーとして、イマガイの各地を回りました。

フロウ

ところでアルトさん、スコアホルダーの旅の目的は覚えておいででしょうか?

アルト

はい、自分の願いを叶えることです。

フロウ

その通り。しかし、その道中でやらなくてはならないことがありましたね?

アルト

えっと・・・

アルト

サウンドレススコアを完成させること、それを演奏するための奏者を探すこと、ですね?

フロウ

そうです。

フロウ

ですが・・・察しがついているとは思いますが、旅は過酷を極めます。肉体的にはもちろん・・・精神的にも。
中でも魔法なしの旅なんてもっての外・・・言ってしまえば不可能です。

魔法なしの旅は不可能・・・?でも、スコアホルダーは魔法を使えないって・・・。
俺が疑問に思っていると、フロウさんはにっこりと笑って言う。

フロウ

そこで登場するのが、私たち妖精・・・パートナーです。

フロウ

妖精は、体が小さいので物理攻撃は不得意ですが、他種族より魔力に優れています。
攻撃魔法、補助魔法の得手不得手はありますが、イマガイを旅するのであれば、一人は仲間にいた方がいいでしょう。

フロウ

たとえばルナは・・・

ルナ

あたしは補助魔法が得意よ!中でもけがの治療ね!

ルナ

攻撃魔法はからっきしだけど・・・

フロウ

・・・という様子ですね。

アルト

確か・・・アミスたちと別れる前にも、パートナーを探せって言われました。

アルト

あの・・・ここでパートナーを探しても・・・?

フロウ

ええ、もとよりその予定でしたし、かまいませんよ。
パートナーが決まり次第、ここのノーツモニュメントにご案内いたします。

アルト

はい、ありがとうございます!!

フロウ

ですが・・・今日はもうお疲れでしょうから、パートナー探しは明日にしてーー

ルナ

そんなの、ソッコーで決まりよ!!

今までずっとうずうずしていた様子のルナがぴょんと跳びはねる。

ルナ

あたしがあなたのパートナーになる!ね、いいでしょ、長!?

フロウ

ふむ・・・確かに、ルナの補助魔法は旅にとても役立つでしょう・・・どうですか、アルトさん?

ルナが期待のまなざしをこちらに向けてくる・・・
そういえば、イマガイを旅することが夢だって言ってたな。それに、けがの治療が得意だって言ってたし、こっちにとっても向こうにとっても不利益はない・・・つまり、断る理由はない。

アルト

はい、是非彼女にお願いしたいです!

ルナ

ほんと!?

フロウ

そうですか・・・では、しばらくの間、ルナをよろしくお願いします。

アルト

はい、こちらこそ、お世話になります!

ルナ

ええ!存分にお世話してあげるわ!!

フロウ

ルナ、呉々もアルトさんに迷惑をかけすぎないように。いいですね?

ルナ

わかってるわかってる!長は心配性ね!!

フロウ

そういうところが心配なのですが・・・

ルナ

それじゃ、アルト、これからよろしく!

アルト

うん、よろしく、ルナ!

こうして、俺に初めての仲間ができて、イマガイでの1日目は幕を閉じたーー。

ーー妖精の森・ノーツモニュメント


次の日の朝早く、フロウさんとルナに連れられ、妖精の森のノーツモニュメントまでやってきていた。
ノーツモニュメントは、音符を象った石像だった。ちょうど胸の高さくらいのところに、スコアを置くための台があった。

フロウ

アルトさん、ここにスコアを置いて、バトンで軽くスコアをたたき、振り上げてみてください。それで、スコアに音が刻まれるはずです。

ルナ

アルトアルト!早くやってみて!!

アルト

う、うん・・・

正直、ちょっと緊張していた。
俺はスコアを台に置き、バトンをふわりと、軽く振ったーー。

少し高い乾いた音が響き、バトンを振り上げる・・・するとーー。

アルト

うわあっ!?

ルナ

なにこれ!?

文字通り、白紙だったスコアに音が吸い込まれていく・・・音がすべて納まると、モニュメントの周囲に静けさが戻った・・・今の、俺がやったのか・・・?

フロウ

おめでとう、これで、妖精の森での作業は終了です。

アルト

い、いまの・・・!!

ルナ

すごいすごい!!なんかすごいかっこよかった!!音がばばばーって!!ばばばーって!!

フロウ

これを、これからイマガイを回ってやっていくわけですが・・・大丈夫ですか?

アルト

え、えっと、ちょっとびっくりしちゃって・・・

フロウ

最初なら無理ないですよ・・・そうだ、これを渡しておきますね。

そう言うと、フロウさんは俺に一本のナイフを差し出した。

フロウ

どうしても戦いを避けられなくなた時、これを使ってください。護身用くらいにはなると思います。

アルト

はい・・・ありがとうございます!

俺はナイフの鞘についていたひもをベルト穴に通して固定した。なんか冒険感が出てきたぞ・・・!

フロウ

この先に、少し開けた場所があります。そこで転移魔法を使って、次の目的地「アルバス村」に向かってください。

ルナ

え!歩いて行かないの?

フロウ

歩いても行けますが・・・そうすると、「深浴の森」を通らなければなりません。あそこは気性の荒いモンスターが多いので、今のあなたたちが通るのはおすすめしません。

ルナ

なるほど・・・

アルト

忠告ありがとうござます。助かります!

フロウ

いえいえ。私はこれ以上ついて行くことはできませんが、旅の無事を願っておりますよ。

アルト

はい!何から何までありがとうございました!!

ルナ

長、いってきまーす!

フロウ

行ってらっしゃい、ルナ。

俺たちはフロウさんに見送られながら、妖精の森を後にしたーー。

フロウ

・・・・・・・・・・・・

フロウ

・・・・・・・・・・・・

フロウ

・・・すべてを知ったら、あの子たちはいったいどんな顔をするのでしょう・・・
・・・ルナ・・・。

・・・・・・どうか、あの子たちの旅路に、希望がありますように・・・。

第1楽章
ルナ、夢を見る  ~Fin~

終わりだと思ったか!
残念!!
次回予告だ!!!!

あたしルナ!ごくごく普通のありふれた妖精さんφ歳!!
ある日、普通に森の周りを散歩していたら、不思議な男の子に出会って、そんなことやあんなことが起こっちゃってもう大変!!

あたし、どーなっちゃうの-!?

僕と契約して、スコアホルダーになってよ!!(慣れた)

そいつぁギルティだ・・・!今すぐ消さなきゃなんねぇ!!(いつも通りノリノリ)

ルナ

みんなが幸せでいてくれれば、私は絶望しないもの・・・!!(いい笑顔で)

アルト

ちょーさーくーけーんー!!!!!
そして二番目のお前、それなんか違う!!

次回
「アルマ、羽ばたく」
こうご期待!!

アルト

最後まじめなら最初からまじめにやれ!!

第1楽章 ルナ、夢を見る 2

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