冬の海だったけれど、まったく人がいないわけではなく、たまにそれなりの格好をした人がいた。

泳ぐ人ではなく、その遊歩道をハイキングする人のようだ。

海には人がいなかったけれど、遊歩道はわりと人がいた。

せっかくたどり着いた海岸をもう少し歩いてみたいと思い、遊歩道は通り過ぎ、波打ち際に向かった。

遊歩道は少し高いところを通っていて、海岸は少し下る。

エッセイの地図だと、遊歩道は海岸と並行して通っていた。

海だ。海だ。
嬉しいな、嬉しいな。

それまでずっと石でできたお家など、日本とは違う雰囲気の建物ばかりを見ていたから、海を観て、妙にテンションが上がる。

やっぱり海はどの国でも同じなんだ。この海水は日本につながっている。

どことなく地元の海とも似ていて、親近感のようなものを感じた。

この国にはすでに二週間ほど滞在していて、そろそろ故郷が恋しくなっていた。

う~み、う~み。
るるるんるん。

波がジャプジャプしているのが嬉しくて、海岸を歩いた。
とても穏やかな波だった。

もう少し
荒波でもいいな~。

海に近いところに住んでいて、「多少の波で驚いたりしない」という奇妙な自信があった。

それに、海に近い学校に通っていたので、小中は海岸をマラソンさせられていた。
だから、海岸を移動するだけで懐かしい気持ちになった。

遊歩道は少しずつ離れていたけれど、それでも海岸を歩いていたいと思ってしまった。

そして、気づくと

まわりがゴツゴツの岩場になっていた。

あれ?
おかしいな?

はじめは少しだけだった岩が、今は敷き詰められる感じになっていた。

岩の下では、波がちゃぷちゃぷしている。
まるで、積み上げられたテトラポットの上を歩いているようだった。

波があるから
海だよね。

予想に反した場所にはいないはずだ。

地図では遊歩道と海岸は並行していた。
横にある崖の上に遊歩道があることは想像できた。

遊歩道がどんどん上に向かっていたのは知っていた。
並行しているのだから、崖の上にあるのだろう。

目的地までその平行は続いている。

どこかでまた砂浜に戻るよね?

そう思って、ゴツゴツの岩場を進んだ。

どうしよう……。

飛び移ったりしがみついたりしながら進み、気が付くと、ゴツゴツの岩に囲まれていた。
足場がかなり悪く、思ったように進めなくなっていた。

はじめは大したことないって思ったけど、意外に体力を消耗する。

地図の上では目的のお城までまだ距離があり、しかも、遊歩道と海岸線の隙間がほとんどなくなっていた。

ってことは、このまま進むと、
歩ける場所がなくなるってことだよね。

崖の上の遊歩道が一番外側になるってことは、私が進んでいる平らなところは、そのうちなくなるということだ。

なんでもっと早くに
気づかなかったんだろう……。

まさか、自分が歩いているところが、こんな崖になるなんて思ってもみなかった。

家の近所の海岸は砂浜がずっと続いていて、歩いたくらいではなくならなかった。

ここはよく知っている
近所の海岸じゃないんだ。

それを、こんな形で思い知るとは……。

戻るのやだな。

けっこう進んでしまい、しかも、時間制限もあった。
知らない土地で暗くなってもフラフラすることは、極力避けていた。

お日様が出ているうちに、
バスが通っている道まで行かなきゃ。

目的のお城の近くに、町まで行けるバスは出ているはずだった。

あと、3時間以内に
人里に戻る。

自分でそう決めた。
たぶん、それくらいで日が落ちて暗くなる。

見渡す限り、人はいない。
これが耐えられるのは、明るい間だけ。

戻ってはいけない。
時間の無駄になる。

崖を登る以外の、私を満足させる選択肢はない。

急がば回れ

が、脳裏をよぎる……。

しかし、

登るしかない。

と、気合いを入れるために、口から言葉を発した。

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