佐藤藍

ねえ尚、どうなの?




朝、おはようよりも先いん佐藤が私に飛ばしたセリフ。


青木尚

なにが。

佐藤藍

斗真くん!一緒にご飯食べてさ、いい感じすぎて気になる!




キラキラ、興味津々です!という目で佐藤は私のことを見る。


青木尚

なにって…。本気でなにもないの。本気で。本当になんだあろうね、あの人。




まさか、恋愛しようと言われたことなんて言えない。

出会い系で出会ったことなんて、もっと言えるはずもなく。


佐藤藍

どうなのかな。




ニヤニヤとする佐藤を
前に苦笑いを浮かべていると、


渡斗真

青木さん、おはよ。




後ろから奴の声が聞こえた。


佐藤藍

あっ、おはよう斗真くん!

渡斗真

ん、佐藤さんおはよ。




朝から王子様の声色に漏れてしまったため息。


青木尚

おはよう、渡くん。




あまりにもタイムリーすぎるよ、
今渡くんの話をしていたところ。


佐藤藍

今ね、尚と斗真くんの話してたんだよ!

青木尚

ちょ、佐藤!




お願いだから余計なことを言わないで、と
クッと佐藤を睨むものの彼女は気付かない。


渡斗真

へえ、なんの話してたの?

青木尚

なにも話してない。




佐藤が答える前に私が答えて見せたのに、



佐藤藍

最近二人いい感じだよねって、何かあるのかなって!





佐藤はそれをぶち壊してくる。



渡斗真

へえ、そんな話してたんだ。

佐藤藍

尚は何もないっていうんだけどね。実際どうなの?




ああもう、佐藤なんて嫌いだ。
いらないことを言わないでほしい。



渡斗真

そうだね、




渡くんは見せつけるように、
クルリ、私の髪を指で梳いた。



渡斗真

内緒かなあ。




ね?青木さん。

ふと笑った渡くんの
あざとさったら、この上ないと思う。

変なことを匂わせて、
私の周りを散らかすのはやめてほしい。



佐藤藍

わ、何それ!あやしい!



佐藤の視線が私をグサグサと刺すので、
私は全力でそれをそらす。



内緒、というわたありくんの発言は、教室中に響いたらしく、シンとみんなが静まる。



私は消えて仕舞えばいいのだろうか。
敵が増えたことだけは、わかる。

ぜんぶぜんぶ、渡くんのせいでしょう?



あの女何様なの?内緒ってどういうこと?
身体で縋ってるんでしょどうせ。それ以外考えられない。



そんな声が聞こえる錯覚。


被害妄想などではないだろう。




渡くんと同じクラスであることが
辛くて苦しくて泣いてしまいそうだった。
















青木尚

もう、本当にやめてください。渡くんの言動で、私の高校生活が左右されるんです。



メロンパンを食べる彼に対して、
少し怒り気味で私は言う。

渡斗真

事実、じゃん。





そう言った後に、渡くんは反して笑う。



渡斗真

まさか俺らが、してるだなんて思わないだろうね。キスだの恋愛だの、そういうの。

青木尚

恋愛はしてない。




ピシャリと全否定する私を
彼は面白がっているようだった。


渡斗真

するんだよ、恋愛。




渡くんは渡くんで、
自信満々に言い切ってしまうので、私は熱が出てしまいそう。


青木尚

のね、渡くんと私が恋愛なんて、おかしいの。不釣り合いなの。わかりますか?




なんそれ偏見じゃん。と渡くんは言うのだけれど。

あなた以外みんなそう思うよ。と私は返す。


青木尚

たまたま私なんかと出会っちゃったから、渡君は私に構うのかもしれないけど…。渡くんにはもっとふさわしい相手が絶対いるんだから。

渡斗真

本当に卑屈で頑固。

青木尚

そうだよ、私こんなだから。




だから私にこれ以上的が増える前に渡くんから離れてしまいたいし、
恋愛だなんて深入りをする前に渡くんから逃げてしまいたい。



青木尚

王子様の隣にはお姫様が並ぶべき。それこそ木下さんみたいな。



私がそう言った瞬間だった。

本当に一瞬、渡くんの表情が歪んで。


渡斗真

遥香の名前、出さないで。





低い声で彼はそう言った。



青木尚

へ、




思わず怯んだ私に彼は気付くとニコリといつもの顔に戻って、


渡斗真

あの子生意気なんだよ。やだやだ。




うわべだけの面で、一息ついた。


青木尚

…仲良くしなよ。幼馴染がいるだなんて、素敵なことなんだから…。




元に戻った彼を見て、私はため息をつく。



渡斗真

あいつの話やめてよ。




だるい、と笑った渡くん、
どうしてか様子がおかしいと思ってしまう。


青木尚

渡くん、木下さんと何かあるの?




なんとなく、なんとなく聞いただけなのに。


渡斗真

次さ、遥香の話したら、俺、怒るから。





切なげにそんなことを言うものだから。
少しだけゾクリとした。



青木尚

ご、ごめん。




怯んだ私が落とした謝罪を、渡くんが拾うことはなかった。

渡くんと木下さんはきっと、
きっと何かがある。


こういうことに疎い私でも、
流石に、気付いてしまうものがある。



pagetop