彼の家に着く。


部屋、生活感の無さが特徴的だった。

渡斗真

青木さん、ねえ。おいで。

青木尚

えっ、




ベッドに座った渡くんが、
この上なく妖しい声でそう言った。


渡斗真

早く、おいで。




なんで彼はこんなにも色っぽいのだろう。

私がふいと目をそらしてからおずおずとベッドに向かうと、


渡くんは胸ぐらを掴むようにして、
下からキスをしてきた。







映画館デート

彼のお家

キス



まるで恋人みたいなことをする渡くんに少しだけクラクラする。


体制が崩れてベッドに膝をついた形になる私は、
自然と渡くんに体重をかけてしまう。


申し訳なくて、恥ずかしい。



渡斗真

キス、しちゃった。




ね?
と私のことを下から覗きこむ渡くん。


青木尚

…ごめん。




私なんかと、という謎の罪悪感に思わず謝ってしまったのだけど。

渡斗真

はは。なんで青木さんが謝ってるの。




そう言い返されて、その通りであることを知る。
当たり前だ。



どうして、こんな恋人らしいことを彼はするのか。


自分のことを大切にしてと言ったくせに。



渡斗真

…ねー、青木さん。




動けずにいて30センチ。
その先で渡くんは、ふと笑った。


渡斗真

俺と、恋愛しようよ。






耳を、疑った。




青木尚

は…い?何を言ってる

渡斗真

だから、俺と恋愛。しよーよ。




渡くんがニコリと笑いながら吐いた言葉が飲み込めなかった。


渡斗真

青木さん可愛いし面白いから。青木さんと恋愛したいなって思った。




だからキスした。

その笑みはたいそう意地悪そうで。
私のことを可愛いし面白いだなんて、嘘を吐いた。


青木尚

渡くん、別に恋愛とか言わなくていいよ。…そんなことしなくても、身体目当てならそれでいいから。




渡くんはきっと身体を重ねるために、関係を作るために恋愛だなんてワードを出した。


そんな遠回りしなくても、私は大丈夫なのに。
利用するなら、してくれればいいのに。


青木尚

私だって、それで翔太さんのことを忘れられるなら、いいから。




渡くんが私に思い入れてくれなくたって大丈夫よ、と、キチンと伝えるべきところは伝える。


渡斗真

やっぱ青木さんって気に食わない。




そう言ってもう一度襟をグンと引かれ、
渡くんと私の距離間0センチメートル。


さっきよりも長くて深いそれに、
頭と心臓がチカチカした。


渡斗真

元彼がいい男だなんて言うからだよ。青木さんと恋愛して、落とそうって。




あんなサイトで出会ったことを忘れるくらい、俺に夢中になって。俺を好きになって。


青木尚

ーっ、




余裕そうに、でも真剣そうに彼は私にそう吐く。


その時の彼の目があまりにも鋭くて、
私のことを飲み込んでしまいそうなものだから。



思わず目を伏せた。



渡斗真

覚悟、しててよ。




一言一言が、全身に響く。


青木尚

なんか…




怖いです。

目を合わせることを出来ずにそう呟いた私に、


渡斗真

そこはときめいたって言ってよ。




って言って私を離す渡くん。


余裕そうでどこか切なげで、
どうしてそうも挑発的なのか。



私と渡くんの恋愛だなんていうありえない言動に、渡くんの思惑は見えてこない。








彼がそこにこだわる理由を知るのはもう少し後の話。


恋愛をするなんていう、意味を。



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