結局ジョッシュに押し切られて僕達は扉の奥に入る事になった。明らかに怪しい通路、不自然な程に多い罠、本当なら行きたいなんて微塵も思わない場所だろうけど……
右に三歩、そのまま壁伝いになるべく離れないで歩いて
はいはいはい
しばらくはまっすぐでいいよ、また何かあったら言うからゆっくり進んで
りょうかーい!
はぁ
結局ジョッシュに押し切られて僕達は扉の奥に入る事になった。明らかに怪しい通路、不自然な程に多い罠、本当なら行きたいなんて微塵も思わない場所だろうけど……
いきーたーいー!いーきーたーいー!ねーねーガラーー一緒に行こーー!
……子供か。
ふっふっふ、この厳重な警備。奥には一体何があるんだろうなー、楽しみだなー
警備、ね
ん?どうかしたか?
……あ、いや
――自分で言うのもなんだけど、僕は『変』だ。
魔導罠なんて普通の人には見えはしないし、実際に僕自身だって正確に罠が見えているわけじゃない。
僕が見ているのは罠に使われた、その魔力の残滓だけだ。
黒と灰色の絵の具を混ぜ合わせたような不愉快な塊。
罠を設置した人間はそれでみかなりの実力者なのか無駄な構成漏れは少なくあくまでコンパクトに丁寧に作られている……逆にそれが余計罠本体の場所を浮き彫りにし僕に教えてくれている。
考えてみて欲しい。
微かな明かりに照らし出された人工の通路内、ポツポツポツと暗い肉塊のようなものが壁や地面に張り付いて脈動しているような感じだ、気にしないという方が無理な気がするが……でも
その、本当に罠なんてあると思うか?僕が適当な事を言ってるのかもしれない
僕は変だ、そしてジョッシュは正常。
きっと友人には何も見えていない。見えるわけがないんだ。
きっとジョッシュからしたら僕は一人奇行に走っている危ない奴に見えるだろう。嫌われるかもしれない。
だけど、だからと言って進みたいというジョッシュを放っておくことは出来ないし、見えていて素性も分からない罠に友人を突っ込ませる訳には行かない。
例えどんな風に思われても僕にはうまく誘導していくことしか……
何を言ってるんだ?だって罠はあるんだろう?
え?ああうん、まぁ
なら頼むぜ!
え
誘導だよ!信じてるぜガラ
……
ん?
……分かった
僕の『友達』は馬鹿だ。
馬鹿だけど、それだけじゃない事もよく知っている。
それに、こういう怪しい場所には罠がたくさんあって当たり前だぞ!ロマン!冒険!危険!やっぱこういうものがないと盛り上がらないからなー
……
やっぱりただの馬鹿かも知れない
通路入口から地下へと下りた後はまっすぐな道が続いていた、それこそ罠というスパイスがなければ何の面白みもない地下道のように。
全く、一体どこまで続くんだろうといい加減思い始めたところで通路の奥。最果てとも言っていい場所に僅かな変化が見えた。
次は、また左側の壁まで戻って。なるべく小さな歩幅でゆっくり……あれ?
ん?おおおおお!
道の先に見えたものは小さく区切られた石の積み重ね、斜め上へと続く道、日常生活の中でも何度となく見続けて来た建造物。
つまり階段だった。
う、おおおお!出口!?
え、あ、おい、ちょっと待てよジョッシュ!
突然走り出した友人に追従し僕も慌てて走り出す。
元からの運がいいのか、罠に嫌われているのか、幸いにも駆け抜けるジョッシュの足が罠を踏む事はなかった……まぁ、わずか手のひら一個分という、あわやというものもあったが何も見えない友人は気にした風もなく走り続け、そのまま階段へと飛び付いて行く。
あっはっはー、一番はこのオレだー!
いつから駆けっこになった!いや、じゃなくてな多分、この上!
……なんとなくここまでの道中で考え付いたものがあった。
うちの学園の敷地は思った以上に広い。それこそ端から端まで走らされたら足が棒になって一歩も動けなくなる程に。
こんな中、罠だらけの地下通路のみで学園外まで出るというのは難しい。単純に歩いた時間をけいさんしてもそこまでの距離を通ったとも思えない。
王立の名が示す通りに広大な土地。その中で多くの場所を占めるのは一般庶民の居場所である普通科ではなく、それ以外の場所だ――
邪魔をするなー!扉ごときがー!
ああもう、こんな時ばっか、馬鹿力出すんじゃない!
ジョッシュの蹴り一発で階段上にあった木の扉は内側から開かれた。
飛び散る木片、砕ける音、転がり落ちる金具。
外から入り込んで来る空気の流れはたくさんの木々の香りと、そして僕の苦手なあの感覚を運び込む。
とっと……あれ?ここ
やっぱり
通路入口と同じ深い木々。
整えられた緑地の中、ひっそりと隠された出口を通り抜けると背中越しには大きな壁が見える。
別名『恩恵の壁』。
天から授けられた魔術と言う名の能力、絶対的な才能を持つ神に愛された者と、愛されなかった者とを隔てる高い壁。
まずいな
僕達が入り込んだのは『魔術科』の敷地内だった。