願いと現実というのは全く別のもので噛み合うことは少ない。
いつまでも続くと思っていたものは瞬きをしている間に消えてしまうかもしれない。こうなればいい、ああなればいいと夢に思っていたものも実際には叶わない場合の方が多い。
いつだって欲しいと思っていたものは欲しい時になくて、今まで当たり前に持っていたものは指先からこぼれ落ちた後になって大切さに気付く。
――僕はそれを知っていて、僕の友人は今正にそれを実感している。
ついでに言えば友人なんて叫んでいる。
願いと現実というのは全く別のもので噛み合うことは少ない。
いつまでも続くと思っていたものは瞬きをしている間に消えてしまうかもしれない。こうなればいい、ああなればいいと夢に思っていたものも実際には叶わない場合の方が多い。
いつだって欲しいと思っていたものは欲しい時になくて、今まで当たり前に持っていたものは指先からこぼれ落ちた後になって大切さに気付く。
――僕はそれを知っていて、僕の友人は今正にそれを実感している。
ついでに言えば友人なんて叫んでいる。
何故!どうしてなんだ!オレが何か悪いことをしたか!単純に!下心なく!美しいものを愛でていただけだ!
……分かった、分かったから静かにしてジョッシュ
鬱蒼とした木々の中に響く友人のうるさい言葉。今僕達が十分にヤバイ状況に居るのを知りながらそれだけ堂々と叫べるのはある意味尊敬に値するが……
どこ行ったのアイツ等!見付かった!?
いいえ、全然。そんな遠くに行ったはずはないんだけど
今は、そんな場合じゃ全然ない。
はぁ
……見つかりなんてしたら僕達は袋叩き間違いなしだ。
どうしてこんなことになったんだろうか、どんなに悔いても僕には悔いたりなかった。
――少しだけ、時間を遡って思い出す。
……僕らが通う学び舎は名を王立魔導研究員付属アカデミー『普通科』という。
前半の名前は立派だろうけど、最後の三文字だけで全てのすごさを全否定している。
『普通科』所属。
同じ敷地内にある『魔術科』とは天と地程も開いた存在の場所で、何の特徴もない僕達のような一般庶民でも通えるいわゆる普通の学び舎だ。
基本的な算術や社会を学び、卒業した者の多くは商人や街の守衛となって国の為に働く事となる。
それが普通、普通だ。
アカデミーからの帰り道で友人が見付けた変な物を紹介されるまでは確かに普通だった。
どうだガラ、すごいだろオイ!この明らかな不自然さ、風貌!正に由緒正しき怪しい場所というやつだ!
あ、ああ
ロマンあふれるな!
あ、ああ?
ジョッシュが見付けて来たのは彼の言う通り本当に怪しすぎる道だった。
草と土とに隠された木製の扉……まぁ恐らく学園の倉庫だとか、ゴミ置き場とかそういうオチだろうけど。扉を縛り付けるかのように幾重にも張り巡らされたテープの数々、黄色と黒色のインクによるご丁寧な「入るな」という短い注意文、全く開けられた形跡のない埃と砂の山。
僕個人としてはロマンを感じる以前に近付きたいとすら思えない代物だったがジョッシュにとっては全く別の印象を受けたようで。
入ろう!
実にすばらしい笑顔でそう言い切ってくれた。
は、はは……いやぁジョッシュ、入りたいけどさ、でも人が入れないようにこんなにテープの山――
ふんぬ!
気迫溢れる言葉と指先。友人の手に握り締められたテープ達は無残にもその役目を終えて宙へとバラバラに引き裂かれた。
……でも、入るなって文字がさ
ふんぬ!ふんぬ!ふんぬ!
連続する鼻息、幼児真っ青な見事なジタバタにより上から踏み潰される文字達。革製の靴により足蹴にされたインクの多くは正確に読み取れない程汚くなったがどうしても残ってしまう文字もある……それらはご丁寧に上から砂を被され無かったものへと変えられていく。
あー……いや、問題は扉だよな。長い間放置されていたなら簡単に開くとは到底――
ガラ!見て!開いた!
…………
やった!入れるな!
ああ、うん……おめでとう
ジョッシュが余りに怪力だったのか、それとも木の扉に根性が足りなかったのか。厳重そうに見えた戸は見かけだけ、僅かにさえ軋む音を立てずに完全に開き切った。
暗い入口の奥、僅かな光に照らされて見えたのは奥へと続く長い階段。長期間開けられていなかったのは本当だったのか、溜まった埃と澱んだ空気とがコンビをなして鼻を突き、暗い穴蔵のような見た目が少しだけの恐怖心と好奇心を掻き立てる。
そして、全身の肌へと突き立てられたフォークのように昔懐かしくて胸をざわめかせる感覚。
よっし行くぞ、ガ――
……ちょっと待った
なんだ?あ、先にトイレ行っておくか?仲良く一緒に行っておくかー
……やめてくれ。そうじゃなくてな
久しぶりに味わう感覚は、長い時間忘れていた事が嘘のように鮮明だった。色濃く目に映る多数の色、例え見ずとも、聞かなくても、鼻や口を塞いでも勝手に流れ込んでくる情報の山。
催す吐き気を堪えるのにかなりの労力を強いられ、ようやく落ち着いた所で口を開く。
この奥、魔導罠だらけだ。行かないほうがいい
勝手に浮かび上がってくる不機嫌な顔を、隠す事すら僕には出来なかった。