映画館を出た後の余韻。


渡斗真

面白かったね。

青木尚

どこがですか、




結果から言うと、面白くなかった。

これっぽっちも面白くなかったけど、
リトさんの顔をした渡くんとの距離はすごく近かった。


手をつなぐどころか、自ら腕を絡めていて。


渡斗真

いや、映画以上に青木さんが。




青木さんが、と
あざとい声で囁かれたと思うと、

してやったりとでも言うような表情を見せてくる。


青木尚

…、




何も言い返せない。


映画館を出た後も、
私の右手はちょこんと彼の服の裾を掴んでいる。


渡斗真

さっきみたいに腕組めばいーのに。




ま、それも可愛いからいいんだけど。
渡くんにそんなことを言われては泣きたくなった。


青木尚

今日の私は青木尚じゃないです。明日には全部忘れてください。




これだけ甘える私を許して、と私は呟いた。







これらは全部、見た映画のせい。


青木尚

…ホラーなんてチョイスするから悪いんじゃんか。




渡くんに連れられて入った三番シアターは、
怖いと噂のホラー映画を上映していた。



途中で何度も逃げ出そうとしたのを、


渡斗真

だーめ。耐えて?




そう言われた時に、
全て確信犯、彼の思い通りなのだと気付いた。



見終わった後の、私の反応に満足げな渡くん。



渡斗真

あー、誘ってよかった。

青木尚

渡くんが憎くて仕方ないよ。

渡斗真

謝らないけどね。この後の展開がさ、スムーズになるかなあって。




この後の展開、といった後に彼は


渡斗真

俺んち。誰もいないから安心して。




ニコリと笑って、ゆるゆると私の手を握った。


安心して、という言葉に何の価値はないものの、何となく、想像はついていた。


青木尚

…、




大好きだった、大切だったあの人のことを忘れさせてくれるなら、もうなんでもいいのだ。



手を振りほどかなかった私に、彼は笑いかけてくる。


たいそう、満足げに。


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