亀の恩返し

29.玉手箱。























では、玉手箱を


私は玉手箱を選んだ。

やはり竜宮城と言えば玉手箱。
大丈夫、開けたらどうなるかは
承知している。

では授けよう

……


ベタなネタだ。
笑えない。

あ、違う違う。こっちだ

……


これも違うだろうとは思ったが、
いろいろと面倒になったので
私は黙って箱を受け取った。






ではさらばだ!

はあ……























重い箱を背負い
帰路につきかけた私の視界の端に
きらりと光るものがあった。



神様が去った後に
残されていたもの。








……あの、命。



……


命がなければ箱も運べまい。


私は命を取ると、再び足を進めた。




























































どうやって戻ってきたのかはわからない。
が、気がつくと竜宮城の前にいた。



夢だったのだろうか。
乙姫様に切られたはずの傷は跡形もない。




だが

甲羅に食い込む重さが
あの体験が現実のものだということを
物語っている。




……


しかしこの身は
乙姫様から「消えろ」と言われた身。

どのような面をぶら下げて
戻って来られると言うのだろう。


門から中に入ることもできずに
逡巡していると
出てくる人影が見えた。

あれ? カメ。こんなところにいたのかい?

太郎さん!


ひょうひょうと手を振りながら
やって来るその人は
記憶の中から抜け出て来たような
太郎さんだった。


竜宮城で飲んだくれていた
太郎さんとは違う。

どうなさったんです?
こんなところで!

どう、ってそろそろ帰ろうかなと思ってさ


太郎さんが帰る気になってくれた。

あの酒と女に溺れていた太郎さんが
元の太郎さんに戻ってくれた。




ああ。私は
どんなにこの時を待ったことだろう。

随分遊んだし、おっ母ぁも心配してるだろうしな


何故急に正気に戻ったのかはわからないが
嬉しい限りだ。




しかし、
乙姫様は首を縦に振ったのだろうか。

太郎さんを気に入って
私を切りつけてでも
帰すことを拒んだあの乙姫様は。

乙姫ちゃんに言ったら、お土産に玉手箱を用意するからここで待っててくれ、って……





太郎さんは私の背に食い込んでいる
宝箱に目を向けた。

……それ?

あ、ええと

これは玉手箱ではない。
だが、本来の玉手箱は
太郎さんを老人にしてしまうものだ。


玉手箱は本来、
竜宮城の秘密を知った者を
消すために使う暗殺道具。

それを太郎さんに
持たせようと言うことは……











ああ、乙姫様。
あなたは元からこうするつもりで
太郎さんを呼んだのですか?

人間という珍しい玩具で
楽しむだけ楽しんで

飽きたら、捨てるつもりで。


















私は宝箱を見上げた。


……本物の玉手箱を持たせるわけにはいかない

カメ?

いえ! これです!
行きましょう太郎さん!!

私は太郎さんを背に乗せると
全速力で竜宮城を後にした。


























































浜は出て行った時のまま
そこにあった。

数年の月日では
早々変わるものではないらしい。

ありがとな、カメ
重かったろう?

さて、それじゃあ玉手箱を開けるとしますか

は……はあ


これは玉手箱ではない。
それはわかっているものの不安がよぎる。


神様から貰ったこの箱の中身は
私も知らない。

さ、

はあ……


……その時は私も一緒に
老いてしまおう。


私は意を決すると箱を開けた。









これはー!!


箱から出て来たのは金銀財宝。
やっぱりあれは宝箱だったのだ。





すごいなあ! 
美味いもん食わしてもらった上にお宝まで!!

乙姫ちゃんにありがとうって言っといてな!

……








私は竜宮城を追放された身。

生き返ることはできたけれど
乙姫様の私への態度が
変わるとは思えない。





でも
それは太郎さんに言うことではない。

ええ。必ず

……

……

……

……一緒に暮らすかい? カメ

え?


太郎さんはぽつりと呟いた。

いや、なんか帰れなさそうな雰囲気を醸し出してるからさ

このお宝があればカメの1匹くらい養ってやれるだろ?


太郎さんは……

……太郎さん

ありがとう……ございます

おいおい
泣くほどのことじゃねぇだろ?














こうして私は
太郎さんと共に暮らすことになった。








ずっと……



















- おわり -

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