ガガガガガガガガ
ドン、ガチャガチャ

巧みに動かされる腕は、もはや集まってきた野次馬には見えていない

彼はくるくると弧を描くように、二つの銃を使いこなしていた

ただ、そのスピードの速さとあることを除けば単なるゲームプレイ者なのだが

そう、彼は目にアイマスクをして画面を見ずに的確に敵を撃っていたのだ

ここはとあるゲームセンター
どこにでもあるような小さなゲームセンター

その中に、この地きっての凄腕ゲームプレーヤーがいた

ガガガガガガガガ
ガチャガチャ

周りにいる人々はもはや言葉も出ず、唖然と画面を見つめる

ちっ・・・。

不意に彼は呟いたかと思うと、次はおもむろにアイマスクをとった

・・・。

そのアイマスクの下からは燃えるような赤い目が現れ、その場にいた女性をみな虜にする

くそっ、やっぱここからは感覚だけじゃわかんないね・・・!

なおも得点は壊れた計算機のようにありえない速度で跳ね上がる

そんな中、ゲームの騒音に負けないぐらいの声を張り上げて、男たちがやってきた

使用人

漣<レン>坊ちゃま!

うるさい!
僕のことを坊ちゃまって言うなって何回言えばわかるわけ!?

彼は、突然現れたがたいのよい男たちに叫び声をあげるかのような勢いで怒鳴る

使用人

漣坊ちゃま、今日は西園寺<サイオンジ>家のご令嬢の成人の儀のパーティーに招待されております!
ご出席のため、屋敷へのご同行願います!

うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさーい!!!!!!!!

彼はひときわ大きく怒鳴り散らした

今まで通り過ぎていた人も、なんだなんだと集まってくる

僕は今スコアを伸ばし中なんだ。
ご丁寧にすべてのゲームで僕のスコアを抜いたやつがいてね!
そんなくだらない要件ならさっさと帰って伝えてくれる?
漣様は大事な『仕事』中ですってね!!!

目は変わらず画面を見つめ、彼は追い打ちをかけるかのように男たちに吐き捨てた

使用人

くっ・・・仕方ありません。
漣坊ちゃまのお兄様から無理やりでも連れて帰れとご命令されておりますので、多少のご無礼お許しを・・・!!!

体格のいい男たちは周りから見ると大人げないくらいな人数で、男たちの新潮の三分の二に満たないくらいの彼にとびかかった

野次馬たちは今度は喧嘩か何かかとどよめきだす

君たち確実に兄上に遊ばれてるね!
多少の手荒・・・?
本気でかかってこないと君たち怪我じゃすまないかもよ・・・!

今まで画面に向けられていた鋭い赤の眼光が男たちに向けられる

しかし、彼の両手は画面に向けられたままでなおも画面上の敵を撃ち続けていた

容疑者B

危ない・・・!

野次馬の女性の一人が叫んだ気がした

はたから見たら、両手がふさがった無防備な少年に男たちが複数で襲い掛かっていて危険だという認識かもしれない

しかし、彼は―

使用人

ぐあ・・・!

目を疑うかのような速さ、威力で自分よりはるかに巨体である男を蹴り飛ばした

蹴られた男は数メートル先まで吹っ飛ばされ、苦痛に顔をゆがめながら呻いている

それを見た残りの男たちに焦りの色が見られた

どうしたのー?
かかってきなよ。
兄上の命令なんだろ?

ガガガガガガガガ
と、画面に発砲し続けている銃の音が響く

まぁ、僕はゲームができるなら君たちの相手をしなくても困らないけど。

そして彼は戦意を失った敵に用はないというように画面に目を戻した

しかし、それを狙ったかのように男の一人がとびかかった

使用人

覚悟・・・!

一瞬、男の拳が彼に当たったかのようにみえたがー

背後から狙うときはね。

彼が無駄のない動きで振り返らず銃を持った拳を男の顔面にたたきつける

声なんかあげちゃいけないんだよ。

わっと歓声が上がるが、彼はこれといって気に留めた様子はなく画面に集中した

ぱちぱち

歓声の中、けだるげな拍手が彼の耳に入った

兄上が直接来るなんて、今日のパーティーってやつはそんなに重要なのかな・・・!

ガガガガ

振り返りもせず彼は拍手の主に向かって話しかけた

いやぁ、相変わらず漣はつよいなぁ。
俺、関心を通り越して嫉妬しちゃうよ。

兄弟、なのか
兄上と呼ばれた男は彼とは違い、深い深い深海のような青色の瞳を細める

漣、今日のパーティーはとっても重要なんだ。
俺の頼み、聞いてくれるよね?

彼の兄はなおも巧みに銃を操る弟に向かって諭す

仕方ないな・・・。

ガチャ

彼の動きが止まり、画面にはGAMEOVERの文字が現れた

ちょうど・・・僕の腕が疲れた頃なんだ。

先ほどの男たちにとは違い、屈託のない笑顔を兄へと向ける

疲れた、という割には軽やかな動きで兄のもとに歩み寄った

それに僕も・・・、兄上を見張らなくちゃいけないから、ね?

・・・嫌な弟だね。

彼の陰のある笑いに対抗するかのように兄も皮肉な笑いを浮かべたのだった・・・





つづく

その挑戦者陥落につき1

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