カグヤはお爺さんとお婆さんのもとで、目に入れても痛くないほどに可愛がられてすくすくと育っていき、わずか数ヵ月後には絶世と評判になるほど美しく成長した。
カグヤはお爺さんとお婆さんのもとで、目に入れても痛くないほどに可愛がられてすくすくと育っていき、わずか数ヵ月後には絶世と評判になるほど美しく成長した。
だからといって、見た目通りに淑やかに育ったかといえばそうではなく、逆に好奇心はかなり強く、軍人上がりのお爺さんから武芸を習っては、近所のガキ大将を相手取ってみたり、お婆さんが収集した本を残らず読破したかと思えば、それだけでは飽き足らずに商人から新たに本を取り寄せては、随筆、小説、歴史書、兵法、思想書などなど多岐にわたり読み漁って知識を蓄えた。
だからだろう、容姿端麗、運動抜群、品行方正、博学広才と三拍子どころか四拍子もそろった女性として噂はたちまちのうちに広まり、周辺の村はもちろん、彼らの国の領主や有力貴族、果ては他国の領主までもが求婚に訪れるありさまだった。
それだけ引く手数多なのだからうれしい悲鳴なのだろうと思いきや、実際はそうでもなかった。
というのも、お爺さんとお婆さんがカグヤを可愛がるあまり、並大抵の男どもは門前払いを受けていたのだ。
か~~~~つ!!
この老いぼれより弱いとは言語道断!
そんなへっぴり腰の男にカグヤを任せるわけにはいかん!!
どわ~~~~っ!!
古事記のことも分からずにここへやってきたのですか!?
そんな貧相な頭の輩にカグヤは渡せませんね!
百回生まれ変わってから出直してきなさい!!
ひぃ~~~~~っ!
そんな不細工な顔で大事な娘を嫁にやれるか!!
ぶひぃっ!?
貴様は何か気持ち悪いから却下!
酷い!!
と、かわるがわるやってくる男どもをお爺さんとお婆さんが追い返した結果、徐々にカグヤへの求婚者の数は減っていった。
しかし、それでもやはり噂の美人を妻に迎え入れようとする男はいるもので、今、カグヤの目の前にはお爺さんとお婆さんの難題を(最強の武人を雇ったり、賢者に答えを教えてもらったりと反則技を使って)どうにか突破した男たちが五人、膝をそろえて座っていた。
お前さんがた……
良くぞわしらが出した課題を突破した……
じゃがお主らはまだまだカグヤを嫁にするための入り口に立ったに過ぎぬ!
これからお前さんたちには、カグヤ自らが出す課題を突破してもらう
そうしてその課題を突破できたものが、晴れてカグヤの夫となりうるのじゃ……
それじゃあカグヤ……
頼んだぞ?
はい、と静かな返事と共に現れたカグヤを見て、5人の挑戦者たちからどよめきが走った。
色香とあどけなさを程よく両立させ、まるで闇を照らす月のごとく美しいその姿を初めて目にしたのだ。
彼らの同様もむべなるかな。
一方のカグヤは、そんな彼らに構うことなく部屋の中央に歩み寄ると、固唾を呑んで一挙手一投足を見守る男どものまえに、それぞれ封をされた手紙を置いた。
そして、きょとんとする彼らへ語る。
わたくしからの課題は、その紙に書いてある通りです
それぞれの封書にはそれぞれ別の課題が記されています
それを達成できた方が、わたくしへの求婚を可能とします
その言葉を合図にしたかのように、男たちはそれぞれに顔を見合わせてから、ゆっくりと手紙に手を伸ばし、封を切る。
そして、中に入っていた紙を広げた瞬間、彼らの顔色が一変する。
επιστολή της πρόκλησης
Θέλησα τα εξής:
これは……?
文字……なのか?
絵……でしょうか?
おいおい……
これではそもそもどんな課題なのか……
それぞれの反応を見て、悪戯が成功したかのように笑うカグヤ。
そこに書いてあるのは、わたくしが独自に作り出した文字です……
これが……文字……?
カグヤの言葉と見たことのない文字に、挑戦者たちが戸惑う中、カグヤが告げる。
もちろん、文字ですから規則性もあれば解読も可能です
がんばって解読して課題に挑戦してくださいね?
あ、諦めるときはいつでもおっしゃってください
それでは検討を祈ります
そうして立ち去っていくカグヤとお爺さんたちを、男どもはぽかんと見送り、やがて我先にとそれぞれの家へと戻っていった。
カグヤや……
彼らの手紙にはなんて書かれてたんじゃ?
急いで帰宅する男たちを見送った後で、ふとお爺さんが訊ねると、その横でお婆さんも気になるとばかりに頷いた。
ああ……あれはですね……
「私は以下のものを所望します」って出だしの後で、それぞれにその品物を書いたんです……
ちなみにその品物は?
一枚目が「仏の御石の鉢」
二枚目が「燕の子安貝」
三枚目が「火鼠の皮衣」
四枚目が「龍の首の珠」
そして最後が「蓬莱の珠の枝」です
例えあの文字を解読できたとしても、入手困難なものばかりですわ……
ほっほっほ……
お主も悪よのぅ……
まぁ、その前にあの文字を解読できるかどうかも分からんがの……
かっかっか……
うふふふふ……
おっほっほ……
その日、カグヤ一家の不気味な笑いが、竹林に響いたという。