奈々

朝のアレは一体どういうつもりなのか
はっきり説明してもらおうか、小田

奈々

どうして、私の身内を狙ったのッ!?

彼女達が攻防している頃、同じ建物内の違う部屋に残されていた探偵二人は、口論に発展していた。

海音

何怒っているの?
わたしは怪しい人を狙っただけよ?

奈々

嘘をついてまで?
桐山は昨晩調べた内通者よ!?
こちら側には一切関係ないわ!
その時点で向こうには余計な情報を与えているじゃない!

奈々

結果を見て何を思ったわけ?
排除しようとして結局彼女は村長だったじゃない!
おかげで貴重な村人が半分近く死んでいる!

奈々

この責任……どう取ってくれるの?

憤る奈々は、もう一つの空いているベッドに腰掛けて、悠然としてる海音を睨め上げる。
海音はしれっと言い返す。

海音

将来の義妹を狙われて怒ってるのなら、ナンセンスね
家族に甘いと、足元をすくわれるよ

海音

わたしはルールに則り、怪しいと思った人を排除しようとしただけ
それらしい情報を教えたのは、あなたでしょ?

海音

草薙姉先輩を殺したのは花園さんだと
妹さん直々の情報なら、少なくても役職持ちだと思ったから、狙っただけよ
そしてその結果、村長だと分かった
これだけでそれなりの収穫だと思うけど?
あと、どこかの役職に他の役職を模倣するモノもあるって知れているから、まだいいじゃない

奈々

あの子が悪い、とでも言いたいようね?

海音

事実そう言っているわ
彼女が目立つようなことを言うから目障りで殺そうと思ったのもあるけれど?

奈々

小田……しまいにゃあんたも殺すよ?
『ファースト』の時に何があったのか、連中から聞いてないけど、あんまその時のこと引っ張り出して私の身内にちょっかい出すなら、こっちも本気出すからね

海音

やれるなら殺してみなさい『セカンド』
その呪われた身体が二度と蘇らない方法で抹殺してあげるだけよ

海音

純粋な願いが裏返って苦しみの呪いになっているようなバケモノが人間の社会にいるなんて、虫酸が走るわ

奈々

ほざけ
無様に負けて本家から摘み出された出来損ないが、何を偉そうに

二人は不毛な罵り合いをしながら、互いに軽蔑し合う。
生産的ではないことは分かっている。
ただ、互いの過去が過去だけあり、そして共通の居場所に身を置いていたこともある。
同族嫌悪とでも言おうか。
二人は、この相方が大嫌いだった。

奈々

まあ、いいよ
話をまとめよう

海音

ふんっ……もういいわ
このゲームが終わるまではチームでいてあげる

互いに鉾を引っ込めて、舌打ちしながら情報をまとめる。

奈々

まず、村人の残り人数は6人
内通者は死んでいるから、『第二』の連中は手探りの状態での襲撃を余儀なくされている
私達と人狼の数は同じ
分かっている役職は優子さんだけ
これは共存可能
他の二人は昨晩死なれている、と……

海音

第一の問題は『第三』と『第四』が思っていた以上に活発に動いてることね
一人は蛇に毒殺され、内通者は噛み殺された
恐らくトラップマスターも小悪魔も、動いていると思うわ

奈々

テロリストは大江さん
殺人犯は氷室さん
これは恐らく正しいと思う
実際武器を向けてきたし
あの子達は村人を昨晩殺していると思う
最悪、放っておいても私は平気
蛇だと思われているから……

海音

問題はトリックスターよ
アレが恐らくは模倣能力だと推察するわ
でも、迷わず人狼を殺しに行っているんだもの
経験上、この手の便利能力は生き残るためにまず保身能力を真似して使うと思う

海音

なのに……
そいつは、護りを捨てて攻撃に走った
まるで住吉のようね……
死を望んでいるか、恐れていないのよ

奈々

あぁ、『ファースト』を引っちゃかめっちゃかにしたっていう、死にたがりのこと?

海音

えぇ
代理をしていたあなたの後釜で、いいように使われていたと聞いているわ
一年ほどその身体を拝借していたとかなんとかって
知らないの?

奈々

無茶言わないでよ
知ってるわけ無いじゃん
この身体スペアいくつあると思っているの
私いた時だって68だよ?
私だってスペア貰っただけだし
いくらボタン一つで作れる粗悪品とはいえ、一応これマジものの身体だからね

海音

ま、身体は同じでも中身は別人だものね
話ずれたから元に戻すけど

海音は一度話を区切り、一呼吸おいて再開する。

海音

推論で悪いけれど、恐らく一人目の人狼は草薙光先輩
これがトリックスターに殺された狼ね
で、昨晩内通者は自分を狙われないようにしているだろうからこの際、割愛しておくわ
もう死んでいるから

奈々

で、花園さんは村長で、残りの役職及び人狼の位置は不明、と……

今日一日の動きをまとめて、これからの方針を決める。

海音

今夜はどこを調査しようかしらね
昨日みたいに無駄なのが増えないようにしないといけないし
幸いこちらには死ににくい便利な女がいるわ
今夜も見てきてもらうから

奈々

人をゾンビみたいに言うのやめてよ
そういう作りなんだってこれ

海音

半分ゾンビでしょ

奈々

ひど……

海音

ほかの連中の動きはランダムでしょうね
わたしは狙われても、きっと『第一』の護衛職が護ってくれているはず
裏をかいて殺しに行くには人数がまだ23で確率は低すぎるから
素直に狙うしかないでしょう

奈々

『第二』はどうでもいいんだけどさ
問題は野犬と蛇
あとはトラップマスターとトリックスターだよ

海音

こうも人数が多いと、初日はともかく誰に罠を仕掛けたのか、わからないから
わたしに仕掛けて、ほかの護衛職を殺されたらたまったものじゃないわ

奈々

ケダモノシリーズも読めないね
誰を襲うのか、陣営が違うから何とも言えないし

海音

それでもってトリックスターもいるし
条件もわからない
誰にどう真似るのかも読めない
挙句には恐らく中身が狂っている可能性が高い

海音

こいつに関しては最早お手上げかもね
あまりにもセオリーから外れすぎていて関わりたくないわ

奈々

放置決め込むほど弱くないからねえ……
名前通り、引っかき回す役職か……
あー面倒だなぁ……

海音

それに関しては同感ね……
取り敢えず、昼間騒いだ連中から調べていきましょ
こっちは定石通りにやるわよ

奈々

……だね

このゲーム、参加者の数も多いだけあり読み合いは難しい。
こういう時こそ基本に立ち戻り、怪しいものから調べていく。
それが数多のゲームの経験者たる、彼女達の流儀である。
探偵は即席チームにしては、良く出来ている。
後ろめたい過去を背負いながら、本位ではないゲームのクリアを目指して、彼女達は今宵も動き出す。
全ては、生き残る。
そのためだけに。

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