龍二

早速話に入りたいんだけど……
その殺人犯のお嬢さん
ナイフを僕に向けるのやめてくれないか

変態の意見に空は聞く耳を持ちません

ソーン

こンの女ァ……
リュージに手を出したら殺す……

羽美

はいはい、合法ロリは黙ってようね

廊下に集まった変人奇人の方々。
一人はロリコンと名高い学校でも有名なタラシ野郎、柳瀬龍二。
一人は転校早々タラシに攻略されて彼女になっている合法ロリ、ソーン・アブリャート。
一人は絶対的崇拝を誓っている下僕、氷室空。
一人は黒く覚醒した愉快犯、花園羽美。
本来交わらない殺し合いしかなかった彼らが今此処で話し合いの場を設けている。
それは羽美にとっては、あまり好ましくはないが、使わないこともない、半端な状況だった。

龍二

単刀直入に切り出そう
花園、僕達と一緒にきてくれないか?

羽美

嫌だ

即答される拒否の返事。
龍二は当然食い下がる。

龍二

無論、タダとは言わない
組んでいる時は手を出さない

龍二

更に、僕達をいつ切り捨ててもいい
その代わり、僕たちも君たちが使えないと判断したときは遠慮なく捨てる

龍二

でもこれだけは最低限宣言しよう
僕が例え君たちの敵になっても、情報を他の人間にはリークしない

龍二

これは君と僕の戦いだ
無粋な真似はしないよ

つまりは、簡易的な契約をかわそうというのだ。
彼らは彼女たちを利用する。
彼女達は彼らを利用する。
その代わり、破棄はいつでも自由。
でも、得られた情報は決して漏らさない。
隠そうともしないふてぶてしい発言に、羽美の興味がひかれた。

羽美

……へぇ……
中々、面白い条件を出してくるじゃない

羽美

わたしがトリックスターと知ってのコトだよね?
本物の村長の、柳瀬竜二

クスクス笑う羽美に知らされていない空は困惑する。

えっ?
羽美、村長じゃなかったの?

羽美

ん、そうだよ?
別に空に本当のこと言わなくても、空のことは見捨てないし

そかそか
必要ないもんね、相手が誰だろうと

悪びれもしない羽美の発言に、納得してしまう空。
自分には求められていないと知るや、あっさりと受け入れる異常性。
ソーンは見ていて寒気がした。

ソーン

こわ……
なにこの二人

龍二

気にしないほうがいいよ、ソーン
彼女達は元より、普通じゃない

龍二は以前から承知しているのでクールに流す。
羽美は、龍二の申し出に、一つ言っておきたいことがあると言う。

羽美

柳瀬
あんたならもう気づいているでしょ
わたしは人殺すのに躊躇いはないよ

空は羽美が殺せって言えば殺すし

羽美

空はわたしのモノだし、問題ないわ
つまり『第二』、『第三』、『第四』はやろうと思えば共存できるってこと

羽美

読めたよ、あんたの思惑
『第一』の探偵を殺す気なんだね、柳瀬

羽美がそう確信をもって言うと、彼は肩を竦めて肯定した。

龍二

ご明察
僕は探偵殺しをして、このゲームを終わらせる

彼の陣営は『第三』。
ゲーム終了時まで、生き残るのが条件だと説明する。

龍二

正攻法で勝てるゲームじゃないことは、確実なんでね
昼間に村長の役職を使っていた花園を見て、すぐに接触しようと思っていたんだ

龍二

ソーンに行ってもらった理由は、多分察してるよね花園

羽美

当然、ね
このロリが小悪魔、なんでしょ?

龍二の言いたいところを理解している羽美にソーンはびっくりしていた。

ソーン

えっ、ちょ……
何でこいつがこっちの詳細知ってるの?
今夜は攻撃系の役職だと思ってたのに

龍二

花園は最初から、僕一人を殺すつもりだったんだ
そこの殺人犯の彼女を使ってね
ソーンはアウトオブ眼中
君のことはどうでもよかったんだよ
今夜に限っては

ソーン

はいぃっ!?

『第四陣営』
小悪魔

勝利条件 全陣営の役職の妨害

能力
毎晩、二つの所有する能力のうち、一つを選択して使用する。
一つ目。
自分を、他の役職から選択できないようにする。
この場合、相手は小悪魔を選択しても効力を発動できない。
また殺人犯、テロリスト、人狼、野犬、蛇がこの能力を発動中に小悪魔の殺害に成功した場合、殺害した人間も死亡する。
二つ目。
相手を選択して、能力を封じる。
能力を封じられた相手は、能力を使うことができず、部屋から出ることも出来なくなり、殺害も不能になる。
この時相手は能力使用時まで感知できない。

ソーンからすれば、今夜は二人揃って殺しに来ると思っていた。
だから自分に小悪魔の能力を使用して、外部から選択をできなくして、いざとなったらお前も死ぬぞと脅して乗り切るつもりだったのに。
相手は最初から旦那一人を狙っていた。
旦那はそれを知っていて、自分を囮にした。
で、今回はぎりぎり勝った。
ソーンの気合は空振りだったのだ。

羽美は、自分をこの男が狙ってくるのは分かりきっている。
ソーンが嘘をついているのは明白。
あの幼女が協力者がいると聞いている時点でどうせこのロリコンが一枚噛んでると直感していた。
本当に、幼女には紳士よろしくな言動をするので。
だから名を告げられても大して驚かなかった。
故に小悪魔を使い、自分を守りながら空という攻撃手段で、厄介な本物を狙って殺そうとしたのだ。
相手の一手は無効化している。
こっちには良い武器がある。
これは勝てると確信していた。
が、計算外がひとつ。
無視できないどころか、全てを無駄にするほどの見落としがあった。
このドライロリコン、滅茶苦茶喧嘩が強い事を忘れていた。
信じられないような逸話をいくつか持っているが、学校の実習で出向いていた保育園に出没した猪を素手で駆逐したことがあるとかいうトンデモ男なのだ。
見た目はクールを気取っているだけの優男なのに。

龍二

今、僕の能力は選択権を失って無効化されている
一応、花園を選択しておいたけどね
意味はなくても、脅しにはなると思ったけど

ソーン

今ノーガードってこと!?
リュージ何してんのよ!!

龍二

そういうことになるね
まぁ、腕っ節には自信があるから、さっきみたいに返り討ちにはできるけど

龍二の場合も選択権を失っているから、実質彼は無防備である。
だが先程の通り腕っ節は強い。
あのままやりあっていたら、おそらく負けていたのは空だ。

羽美

お互い、やり口は知っているでしょ?
あんたが嫁を優先させ、身を挺していたのは計算済み
嫁がわたしに対抗できる何かをもっているのも何となくそうじゃないかと思っていたわ
だから空を使ったのよ
わたしも保身しながらね
これで勝てると思ったんだけどね……
あんたの腕っ節の強さを忘れていたわ

羽美

やれやれ
こんな幼女のどこがいいんだか

呆れている羽美と、肩を竦める龍二。
どうやら、空とソーンには見えない過去の因縁があるらしい。首を傾げるばかりだった。

羽美

今夜はわたしの完敗よ、柳瀬
負けたのだからその話に乗ってあげる

龍二

君が素直に負けを認めるなんて珍しいね

肩を落とす羽美。
余裕で微笑む龍二に、彼女はボソッと言った。

羽美

あんたの幼女趣味は本物だもの
それを侮っていたわたしが悪い

龍二

何度も言うけど、違うからね?

羽美

あんたの嫁が、あんたを護るためにルール違反覚悟で、空を殺そうとしているぐらいにはバカップル化してるのは分かったよ

はぁ、と溜息をつく。
小悪魔は殺しを行えない。
反撃以外ではルール違反で処罰される。
それでもソーンは襲われている龍二を庇うために飛び出して、加勢しようとした。
で、見事にコケて失敗。
九死に一生を得たのだ。
そんなことしなくても、龍二は強かったのに。

ソーン

リュージに死なれたら、わたし生きてけないもん……

龍二

心配性だなぁ、ソーンは
僕がソーンを残して死ぬと思うかい?
相手殺してでも僕は生き残るよ

ソーン

リュージ愛してるッ!

龍二

僕も愛してるよ

突然イチャこらするバカップル二名。
見てるこっちが小っ恥ずかしい。
また蚊帳の外の二人。

羽美、こいつら殺したい

羽美

ダメよ

こんな奴でも、有能と言えるし、使える。
羽美は完全敗北を味わいながら、この状況自体を楽しんでいる自分がいることにも気が付いた。
意外にこれは愉しい。
邪魔じゃないなら何でもいい。
そう感じて、彼らと手を組む。

今宵、厄介な四人が陣営を超えて新しいグループを作っている事を、他の陣営はまだ知らない。

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