嫁になれば……
嫁になれば……
鶴太郎は与兵と同じ布団で寝ていました。
満月から少し欠けた月が、辺りを照らしています。
ねえ、与兵……。
鶴太郎が、ぱっちりと目を開けて、与兵の方を向いています。
与兵、与兵。
あ?
起きてる?
嫌な予感しかしませんでした。
寝てる。
起きてるし。
寝るから。
眠れなくしてあげようか?
寝る
与兵……。
俺はお前と違って働いてるから、夜はきっちり休みたいんだ。
うん……。
ごめんね。
……お前が謝るなんて、
気持ち悪いな。
だって、ボク、
与兵に迷惑ばっかりかけてるから……。
迷惑だなんて、思ってない。
そう言って、抱き寄せました。
ホント?
鶴太郎は、与兵の温もりに包まれて、嬉しそうです。
ああ……。
よく考えたら、お前が来る前は、ずっとひとりだったんだ。
お前がいると、飽きないよ。
与兵はそう言って、鶴太郎に笑いかけました。
与兵……。
鶴太郎は、上半身だけで与兵に抱き着いてきました。
バカ、重いだろ。
でも、退けたりはしませんでした。
やっぱりボクを、
お嫁さんにして。
俺にそんな趣味はないと、
何度言えばわかるんだ。
でも、いつもよりも優しい声で言いました。
そうすればボク、
ここにいても良いことになるんだ。
?
与兵のお嫁さんになれば、
ボクはずっとここにいられるんだ……。
なんだ? それは。
どういう意味だ。
あの場所に、
戻らなくても良くなるんだ。
怪我が治っても
ボクは与兵と一緒にいられる……。
……お前。
そんなに嫌なところなのか?
……。
鶴太郎は首を傾げました。
お前がいままでいたところ……。
……。
鶴太郎は首を振りました。
あ?
意味が解りません。
嫌じゃなかった。
とっても素敵なところだよ……。
嬉しそうに鶴太郎は言いました。
けれど、すぐに哀しそうな顔をします。
でも、ボクはみんなと違うから
ずっとそこにいられるわけじゃなかったんだ。
とても悲しそうに鶴太郎は言いました。
…………。
与兵は深いため息をついて、しばらく黙っていました。
「嫁になる」って、どういうことか、わかってるのか?
知ってるよ。
見てたから……。
見てた?
ボクは、みんながしてるのを
見てたんだ。
なんだ?
それは……。
鶴太郎のような子供が、
そういうのを見ていた?
与兵はそれを聞いて、嫌な感じがしました。
どうしても与兵にはそれが悪の組織に思えてしまいます。
こんな子供にそういう行為を見せて、しかもそれで誰かの嫁にしようとしているのです。
そういうことで金儲けをしているのかもしれません。
というか、もう、そうとしか思えません。
…………。
そんな場所に、こいつを戻すわけにいかないか……。
何か他の方法を……
与兵はそう思っていました。
けれど、
やったことないけど、
見てたからできるよ。
鶴太郎はそう言って、腕だけで起き上がり、そっと与兵の唇に自分の唇を重ねました。
う……。
柔らかい湿った唇が、与兵の肌に触れ、小さな音を立てます。
ダメ?
不安そうに聞いてきます。
いや……
ダメとかそういう……
問題でも……
なくて……。
与兵、ボク、
与兵のお嫁さんになりたいんだ。
…………。
ホントにいいのか?
与兵は鶴太郎を仰向けに寝かせました。
ボク、与兵が大好きだから。
いいよ……。
鶴太郎は、ポロポロ涙をこぼしました。
ホントにいいのか?
俺……。
どちらかというと、その思いの方が強かったです。
それでも、与兵はそっと、口づけをしました。
与兵、大好き……。
与兵には、自分のような人間が、触れてはいけないような、清らかな笑顔に見えました。
手を伸ばせば、それが自分のものになるのです。
魔にとりつかれたような、そんな気持ちになっていました。
壊れ物に触れるように、与兵は鶴太郎を抱きしめました。
与兵……。
すると、白い羽根が、フワっと降ってきました。
鶴太郎はそれをぼんやりと見つめていました。
暗闇の中、白い羽根は、ゆっくりゆっくりと落ちてきます。
後で、集めておかないとかな?
与兵にみつからないように……。