じゃあ、好き?

与兵はまだ雪が残っている畑に行って、土を耕しました。
そうすることで、土の中の虫がいなくなるそうです。

町育ちなので、あまり農作業をしたことはなかったのですが、昔おじいさんがやっていたことを思い出したりしてやっていました。

鶴太郎

……。

鶴太郎は畑の横の道に座り、与兵の様子を嬉しそうに見ています。

与兵

何が楽しいんだ?

と、与兵には謎でした。

お昼頃に作業を中断し、鶴太郎のところに戻りました。

鶴太郎

ごはん?

与兵

ああ。
家に戻るぞ。

鶴太郎

うん。

鶴太郎は背を向ける与兵に、喜々としておぶさります。

与兵

きっと、治っても何もしないんだろうな……。

そう思いながら、与兵は家に向かいました。

鶴太郎

足、治ったら、
はた織りするから。

まるで、与兵の気持ちを察したかのように鶴太郎は言いました。

与兵

言っただろ。
ガキが余計な心配するんじゃないって。

与兵

怪我を治して、元気に走り回れれば……。

与兵

そうなったら、コイツ
面倒くさそうだな。

悪魔のように走り回る鶴太郎を想像して、与兵はぞっとしました。

鶴太郎

何?

与兵

いや、なんでもない。

与兵

余計な気を回すなってことだ。

与兵

それでもきっと、
元気になった方がいいんだ。

与兵

……。

与兵はふと、元気になって走り回る鶴太郎を想像して、そのまま、どこかに行ってしまうような気がしました。

与兵

もともと旅をしていたんだし……。

なんだかそれは、とても寂しいことのように思えました。

鶴太郎

でも、悪いよ。ごはんもらって、動く時は背負ってもらって。

与兵

気にするな。

鶴太郎

……うん。

鶴太郎は、嬉しそうに与兵にそっと抱き着きました。

与兵

……。

ほんの少しだけ、鶴太郎の怪我の治りが遅くなれば……と、思いました。
でも、すぐに、

与兵

そんなことを望むもんじゃない。

と、思い直しました。

鶴太郎

ボク、与兵とずっと
一緒にいるからね。

与兵

…………。

心を読まれたような気がして、むっとしました。
でも、少し安心していました。

ごはんを食べていると、鶴太郎が言いました。

鶴太郎

ねえ、与兵は……、
吾助のこと、好き?

さっきのことが気になっているようです。

与兵

大っ嫌いだ。

鶴太郎

どうして?

与兵

……。

本当のことは言えません。

与兵

ものすごく嫌なやつだからだ。

鶴太郎

じゃ、どうしてさっきは「また来い」って言ったの?

与兵

いや……、別に、
そういうつもりで……。

与兵

お前の往診に来るっていうから、仕方がなくだな……。

鶴太郎

ボクは来てもらわなくても大丈夫だよ。
与兵がいてくれれば、動く必要もないし。

与兵

そういうわけにもいかないだろ。
お前、怪我してんだぞ。医者に診てもらえば、早く治るんだぞ。

鶴太郎

早く治らなくてもいいよ。
そうすれば、ずっと与兵と一緒にいられるもん。

与兵

ダメだ。
お前は早く怪我を治すことを考えるんだ。

与兵

元気に走り回りたいだろ?

鶴太郎

与兵がいてくれたら、
このままでもいいのに。

与兵

お前、このまま一生
俺に背負わせる気か?

鶴太郎

ボクはそれでもいいよ。

与兵

俺がいいわけないだろ。
自分で歩け。

与兵は厳しい顔で言いました。

鶴太郎

与兵が吾助に会いたいだけなんじゃないの?

与兵

それはないぞ!

鶴太郎

どうして?

与兵

彼女を、盗られたんだ……。

結局、言ってしまいました。

鶴太郎

吾助に?
与兵の彼女を?

与兵

そうだ……

鶴太郎

彼女って、女?

与兵

他に何があるんだ?

鶴太郎

与兵、女の人、好きなの?

与兵

好きだから。男より、女の方がずっといいから。

鶴太郎

……。

与兵

何が言いたい?

鶴太郎

意外だなって……。

与兵

意外でも
何でもない。

鶴太郎

男の人とやったことある?

与兵

…………。

鶴太郎

与兵?

与兵

…………ない。

鶴太郎

それなら、どうして女の人の方がいいってわかるの?

与兵

……。

与兵はちょっとだけ考えました。

鶴太郎

ためしにやってみようよ。

与兵

…………。

与兵

やらない。

鶴太郎

そう……。

与兵

やらないからな。

鶴太郎

うん……。

与兵

そんな顔してもダメだぞ。

鶴太郎

わかってるよ……。

与兵

別に、お前が嫌いだからってわけじゃないからな。

鶴太郎

じゃ、好き?

与兵

同性としてだ。

鶴太郎

うん。

与兵

それだけだぞ。

鶴太郎

えへへ。

与兵

違うぞ。
そういう意味で好きってわけじゃないからな。

鶴太郎

あと、もうひと押しかな?

と、鶴太郎はこっそり思っていました。

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