もう何年前のことだったか。
あれは僕が、まだ小学校3年のとき。
父は……俳優だった。
鬼月翔(きづき かける)
19という若さで俳優業につき
その演技力は、神が宿るとまでに言われていた。
そんな父は、大の仕事馬鹿で母にはお構いなし。
挙句の果て…女癖も悪いほうだった。
母はそんな父を見限って別居することにした。
もともと僕と父は、顔を合わせた回数が片手程度のことで、出ていく際は特に悲しいという幼心はなかった。
ひろ…。
お父さんと離婚することにしたの。
え…。
なんで…そんな突然。
お父さんは、お仕事が忙しいの。
だから一緒にいる必要はないの。
同じ時間を共有できないのだから。
そ、それでも…。
もう、話はつけたの。
だから…さっさと出ていくの。
明後日までに荷物をまとめなさい。
そ、そんな急な…!
ひろ…。
いつもと何も変わらないの。
出て行ったとこで変わらないの。
だから出て行っても問題ないの。
嫌なの?
嫌…というか…
…母さんは働くの…?
母子家庭として…
きちんと国の援助を受けながら…
母子家庭として…暮らしていくの。
母さん…。
…………っ…。
………………夢?
もう何年前のことだったか。
あれは僕が、まだ小学校3年のとき。
父は……俳優だった。
鬼月翔(きづき かける)
19という若さで俳優業につき
その演技力は、神が宿るとまでに言われていた。
そんな父は、大の仕事馬鹿で母にはお構いなし。
挙句の果て…女癖も悪いほうだった。
母はそんな父を見限って別居することにした。
もともと僕と父は、顔を合わせた回数が片手程度のことで、出ていく際は特に悲しいという幼心はなかった。
今更、なんでこんな夢を…。
まさか、ホームシックなんてそんなこと…。
そう考えて嘲笑した。
…………まだここへ来て1日くらい。
そして…その1日で人が…亡くなった。
不安…?
これも違うや…。
………。
昨日、羽鳥さんと…話したからかな。
もとより、そこまで感情は豊かではなかった。
父の仕事を見て…
感情はその場で作るものと、学んだからだ。
鮮やかな絵を描くには、白い紙がいい。
それと同じだ。
ただ、僕もやはり人間である以上
天才肌である父のようにはなれなかった。
顔に出やすい…。
希薄にしろ、出るものは出るのだ。
昔から母に言われてきたことだ。
僕が今…演劇部に入らず脚本を書く理由も、ここに一理ある。
顔に出やすい。
俳優業にしか興味のない父。
でも、父を憧れの対象として見る僕。
それが…僕が脚本を書く理由だ。
そしてまた…
母と二人で暮らすこととなり
それなりに苦労もあった…。
だが、やろうと思えばできないことの方がたかが知れた。
収入が足りないときだって、バイトもして学校も特別待遇をもらって、紙とペンさえあれば物語は書けたし、それが出来れば贅沢はしたいと思わなかった。
だから危機感が足りない。
頑張ればなんとかなるから。
周りの人は、ちょっと楽をしているだけ。
僕はそう思う。
はぁ…
今何時だろう。
時計をチラリ。
時は6時30分を刻んでいた。
……10時に食堂…だっけ?
まだ早いけど…
見張りに行ってる羽鳥さんに…
あれ、それって…
羽鳥さん寝てないんじゃ…。
………僕もとことん気が回らないなぁ…。
今からでも行って…
見張り役を変わろうかな…?
少しでも休んだ方が…いいよね。
今更ながら、羽鳥さんが寝ていないことに気付いて、慌てて部屋を出る支度をする。
スー……………。
…………………。
なるべく早く変わろうと、走った先だった。
羽鳥さんはやはり、部屋の前にはいたのだが、どうやら相変わらずの様子で寝ていた。
この場合…起こさない方がいいのかな。
………………なんちゃって。
え…?
ふふふふふ…イカにはタコが合う。
…………起きてます……?
スー…………。
どうやら寝言のようだ。
どんな寝言で
どんな夢を見てんだよ!
ぱちっ
あ、起きた…。
………。
羽鳥さん?
随分早くに起きたな…。
寝れた…のか?
あ、よかった
本当に起きてた。
おはようございます。
あまり…気持ちのいい目覚めではありませんでしたが…寝れましたよ。
…そうか、無理もない。
羽鳥さんが寝てないと思って
早めに起きて来たのですが…
寝て……ましたね。
………ぐっすり快調、目覚めは最高ダヨ。
立って、目を開けた状態だったのに…?
だから、気持ちは嬉しいけど…
もう少し休んでくれても構わない。
そ、そうですか…。
…でも、寝れそうにもないので
僕もここで見張ってますよ。
……そうか、ありがとう。
あれ…誰か…
…………。
少し離れた場所から、足音が聞こえる。
コツコツと鳴る足音は、こちらへ向かっているようだった。
おはよう、羽鳥と……
あ……日向さん…ですよね?
あぁ…そうだ…紘くん…だったかな?
はい、佐藤紘です。
よろしく。
日向瑞樹っていうんだけど…
……すでに羽鳥から聞いてるか。
はい。
それで………
ひとついいかな?
………なんだろうか。
……羽鳥
君の先日の行動について聞きたい。
……………。
羽鳥…答えれるな?
…………はぁ。
そうだな………
人と会っていた、無論…工藤じゃない。
…………………。
…………その相手に確認をとっても?
…………構わない。
田畑なら知っているだろう。
田畑なら、もう起きている時間だ。
俺はやることがあるので失礼する。
羽鳥さん…?
………………………。
…ふぅ。
……聞くだけ無意味か。
あの…
日向さんは…
……みんなの行動を確認して…?
……それ以外になにか?
えっと…それなら僕も…。
……紘くんは構わないよ。
え?
それじゃ。
俺は田畑のところへ行って来るよ。
え、あ…はい。
…………日向さんも、犯人を捜しているのだろうか?
この状態に、不思議と動じていない自分も大概ではあるのだが、日向さんも大概だ。
この閉じ込められた状態で、仲のいい友人が亡くなっているというのに…。
それにしても…。
少し状態をまとめないと…
頭がパンクしそうだ…。
先日の夜中に工藤さんの遺体を見つけて…
それで…僕が駆け付けた時に、その場にいたのが…
宮代さん
七海くん
羽鳥さん
の合計3人。
僕の後に駆け付けたのは…
西園寺さん
千堂さん
日向さん
緑の髪の女性…
小野さん
田畑さん
の合計6人。
僕を含めて…10人もの人が見た…んだ。
そういえば…
女性たちを任されたものの…
西園寺さんがいなかったのはなんでだろう…。
そういえば、千堂さんや七海くんについて…田畑さん達は何も言っていなかったな。
…………………僕の知る限り、一番錯乱しているように見えた七海くんが騒いでいないはずがないと…思う。
これは…あとで、羽鳥さんに聞くべきだろう。
田畑さんでもいいだろう。
それで…話を聞いた人たちについて…
日向さんは動揺もしていたし、錯乱していた。
それに…
さっきの様子を見ると…
彼も他殺と思っている一人なのだろう。
………僕のアリバイを聞かなかったあたり…
疑いをかけている相手は…絞っているのかもしれない。
……………日向さんが疑っているのは…羽鳥さん?
田畑さんは…まだ聞きまわってはいないだろう。
チラッ
あ、おかえりなさい?
ふぅ…ただいま。
日向にも困ったものだ。
えっと…大丈夫ですか?
彼は俺を疑ってるだろうから…
安易な発言や真似は出来ない。
こういう時は…
田畑に任せるに限る。
あの人に任せて大丈夫なんだろうか。
そういえば…
君は、俺を疑わないのか?
羽鳥さんを…ですか?
………………。
君と俺は…アリバイがないだろう?
実際のところ…会っていないのだから。
それに俺は…
誰にも誰に会ったかまで…
直接的に伝えていないだろう?
さっきも、疑問に思わなかったか?
やっぱり…会っていなかったんですね。
ですが、なんででしょう…
確かに回りくどいとは思いますが…
最初から、自分を犯人候補から外してアリバイすら言わない田畑さんも含めて…さほど気にならないというか…。
…………君は危機感がなさすぎる。
ですよね…自覚はあります。
それで、何を考えていたんだ?
ん?
あぁ、それは…ですね…
千堂さんや七海くん
西園寺さんはどうしたのかと。
………あの二人は…
まぁ、七海はお察しの通り…というやつだ。
錯乱してたんですね。
あぁ。
おうちへかえしてくださいおねがいしますあああせんどうせんぱいおいてかないでああああさいおんじせんぱいまでえええ
まだしにたくねえっすよ
つぎはぜったいおれっていうながれになるぱたーんじゃないですかああ
どらまでみましたもんそういうながれでよおおおお
こんな感じだ。
…………目に浮かびます。
千堂は…どうだったかな
七海を置いてさっさとどこかへ行った。
西園寺は………。
……………彼女も
千堂とは変わらないんだけど…
恐らくは、特に日常と変わらないだろう。
え?
…………そういう子なんだ。
そ、そうなんですか…。
さて…
ぐだぐだしてるうち…
なんだかんだで9時を回ってる。
もうそんな時間ですか!?
少し早いけど…
食堂へ早めに行っておこう。
そう…ですね。
あ、見張り…どうします?
あー………。
えいっ。
この張り紙でok
逆に怪しいわ!
気になるわ!!
あー……。
じゃあ、さっき隠れてる間…
中で鍵を見つけたから使おう。
最初から使え!
ふふ、元気でよろしい。
これでよし、さ…行こう。
…これ以上…
疑いをかけられる訳にはいかない。
ゆきりんの動きが早ければ…
あの場に居たものは…他人を疑うだろう。
殺人鬼…捜し…
鬼捜しとはよく言ったものだな。
8話 鬼捜し 完