信也との賭けに負けた俺は、約束通り、冷えていない炭酸水(味のしない奴)を買うために、体育館を出た。
何故かこの学園の自動販売機の一つには、ぬるい炭酸水が売っている。
しかし、その自動販売機は、体育館から一番離れた場所に設置してあるので、少し時間が掛かる。
言っておくが、これは、何よりも親友である信也の頼みだから、わざわざ一番遠い自動販売機まで買いに行ってあげるのであって、信也の憎たらしい満面の笑みに報復してやろうということではない。うん。
信也との賭けに負けた俺は、約束通り、冷えていない炭酸水(味のしない奴)を買うために、体育館を出た。
何故かこの学園の自動販売機の一つには、ぬるい炭酸水が売っている。
しかし、その自動販売機は、体育館から一番離れた場所に設置してあるので、少し時間が掛かる。
言っておくが、これは、何よりも親友である信也の頼みだから、わざわざ一番遠い自動販売機まで買いに行ってあげるのであって、信也の憎たらしい満面の笑みに報復してやろうということではない。うん。
とは言うものの、正直、信也のためにという考えで、あの遠い自動販売機まで行くのも気持ちが進まない……。
俺は、そんなことを考えながら廊下を歩く。
ほかのクラスが授業中のせいか、廊下は静まっていて、たびたび他のクラスの発言や先生の声が聞こえてくるくらいだ。
俺が、その廊下をしばらく歩いていると、廊下の先に、さっき学園長室に案内した生徒、つまり、明日編入してくる編入生がこちらに向かって歩いてきている。
また道に迷ったのか、地図を見て歩いている。
どうやら、こちらには気づいていないようだ。
よっ! さっきの編入生だろ?
俺は、軽く手を上げ、挨拶をした。
あ、さっきはありがとうございました
編入生は軽くお辞儀をして挨拶を返してきた。
また迷子?
俺は、少し笑いながら聞いた
ち、違います!
編入生は顔を少し赤くして俺を睨んできた。
どうやら、編入生を怒らせてしまったようだ。
ごめん、ごめん。そんなに怒らないでくれ。
俺は怒っている編入生をなだめ、取り敢えず校舎の外に出ることを提案した
ああ、そういえば、自己紹介してなかったね。
俺、神裂 優斗。これからよろしくな。
すると編入生は、あっけに取られた顔をして、固まってしまっている。
……。
お、おい。大丈夫か?
俺は編入生の顔の前に手をかざし、反応を伺ってみる。
少しすると、編入生は我に返り、慌てて自己紹介をし出した。
あ、あの。
私の名前は……、その……、希って言います。
これから……、よ、よろしくお願いします。
深々と頭を下げられ、俺は慌てて頭を上げるよう言った。
えーと。
希さんは、どうしてここに編入してきたんですか?
……。
俺が聞くと、希は黙ってしまい、少しの沈黙が流れた。どうやら、言いたくない事情だったらしい。
あ、ああ。無理に答えなくていいよ。
誰だって言いたくないことはあるからね。
編入生との初交流でまさかの地雷を踏むとは思わなかった。
何とか笑ってごまかし、他の事を考える。
だが、しかし、こんなときに話題が一切出てこない。
普段であれば、何でもない話を思いつくのだが、初交流でまさかの地雷を踏んだせいで、話題が一切出てこない。
あ、あの……。
希が話し出したとき、体育館二階から俺を呼ぶ声が聞こえた。
おーい。第二試合始まるぞ。俺の不戦勝かー?
声の主は信也だった。
今行くよ。
俺は信也に返事を返した後、希に「ごめん。また明日!」と言って体育館に戻った。
体育館に戻ると、信也が待っていた。瑞希と静香は既に二階席に座り、何かを話しているようだ。
何してたんだよ。怖気づいたか?
信也がニヤニヤ笑いながら、俺を挑発してくる。
信也の挑発的な発言はいつものことなので、軽く流すようにしている。
ああ。今、編入生と会ってさ。
そこで少し話してたんだよ。
とは言っても、まともに話ができたわけでもない。
へえ……。
っておい!
抜け駆けとは良い度胸してるじゃねーか!
そう言って俺の胸ぐらを掴んだ信也の表情は、笑顔のままであったが、その笑顔の裏には怒りが見られた。
編入生は俺が口説く!
どうやら、信也がやる気を出したようだ。
若干の勘違いが生じているようだが、あまり気にしない。
体育館の中央に立った俺は、いつものように深呼吸をし、精神を落ち着かせる。
信也にいたっては、俺の方を睨んでいる。
あー、お前ら、準備はいいか?
新道が、やる気の無い声で聞く。
いいぜ!
オーケー!
俺と信也が同時に答える。
模擬戦第二試合、はじめ!
新道が試合の開始を叫んだ。