風呂屋への道を歩きながら、メルトさんとおしゃべりをする。
入り組んでいる道だけれど、慣れているというだけあってメルトさんの足取りは軽かった。
アオイちゃんはどこの世界から来たの?
あたしはね、リリーディアっていう世界でアルカナの魔女を多く輩出してる世界なんだけど
風呂屋への道を歩きながら、メルトさんとおしゃべりをする。
入り組んでいる道だけれど、慣れているというだけあってメルトさんの足取りは軽かった。
日本っていう国からきたんですけど、世界の名前までは……
えぇ!? あの日本からきたの!? それはますます興味を持っちゃうわね!
日本から来る子は珍しいんですか?
もちろん。あのアニメとマンガの本場からきたってだけで、この国ではもてるわよ?
もてるって女の子から……だよな?
それはちょっと嬉しいような気がしたけれど、よく考えると今の俺は女のふりをしてこの世界にいるわけで。
冷静になればあまり嬉しくない気がする。
さっ、ついたわよ!
着いたのは怪しげな建物の前。
先ほど見た風呂屋とあまり代わり映えはしない。
この世界のお風呂屋さんはみんなこんな感じなんだろうか。
とりあえず大切なのは料金だ。
看板を確認したら……一部屋、日本円にすると三千円くらいだった。
これはちょっと高い……
まぁ、個室風呂だからね。こんなものよ?
これじゃ毎日風呂なんて……
ふっふっふ!
そんなアオイちゃんに朗報です!
あたし、プレミアム年間会員だから、毎日一部屋無料なの。
あたしの個室でアオイちゃんは風呂に入ればいいわ!
いいんですか?
もちろん!
あたしと交互に入れば、他人に肌を晒してはいけないっていうさっきの話しも問題ないでしょ?
毎日の風呂はお金がかかるでしょうし、折角のいいお風呂をひとりじめも勿体ないしね
毎日待ち合わせて一緒にいきましょうと、メルトさんはウインクをしてくる。
物凄くいい人だ!
わかりました。すみませんが、よろしくお願いします!
じゃあ、さっそく入りましょう!
メルトさんが嬉しそうに俺の腰に手を回してくる。
……!
メルトさんの手が……俺のお尻を撫で回してるような?
どうかした?
いえ、なんでもないです!
目が合えば、メルトさんはにっこりと笑ってくる。
きっとこれは、俺の気のせいなんだろう。
女の子同士のスキンシップみたいなもので、俺が意識しすぎてるだけだ。
こんな美人が俺の尻を撫で回す理由なんて、一欠片もないしな。
そんなことを考えていたら、ぐいっとヒカルが腕を引いてきた。
おいアオイ、本当に信じていいのか!?
なんかこいつ胡散臭いぞ!
というか、なぜお前は尻を撫で回されてニコニコしているんだ!
胡散臭いって……親切にしてくれてるのに失礼だろヒカル。
全くお前は疑り深いな
お前は昔から、タダという言葉と甘い話しに弱すぎるんだ。
それで何回誘拐されそうになったか覚えてないのか
それは子供のときの話しだろ。
もう俺もいい年だし、お菓子や玩具に釣られたりしない
不本意な話しだが、美少女然とした俺は昔から誘拐にあうことが多かった。
しかし今はそんな甘い罠に釣られるほどアホではない。
現に今釣られてる真っ最中のくせに何を言ってるんだこいつは……
ヒカルがまだ何かブツブツ言ってるが、聞こえなかったことにした。
ほら、二人とも早く!
はい! 今行きます!
メルトさんに呼ばれて、俺も店へと入る。
ヒカルもしぶしぶといった様子で後に続いた。
いつもご利用いただきありがとうございます
メルトさんがカウンターへ行きカードを見せれば、店員が頭を下てくる。
ここは一番学園に近いから、本当よく使うのよ
メルトさんが渡してきたのは風呂の種類が書かれたメニュー表だ。
二人はどの風呂に入りたい? それぞれで選んでね
すっと差し出されたメニュー表には、薔薇風呂にミルク風呂、日本風の風呂といっぱいの趣向が凝らされていた。
これは……色んな種類があるんだな!
えぇ、そういうお風呂屋ですもの。ちょっと興味が湧いてきたみたいね
目を輝かせたヒカルに、メルトさんが笑う。
ヒカルちゃんはどんな風呂がお好み? 風呂だけじゃなくて、部屋までばっちりこだわっているのがここの特徴なの。
お姫様風のこの部屋ならドレスのレンタルサービスがついてるし、こっちのステージ部屋ならラブ●イブ!の衣装があるわよ?
私はやっぱり乙女として……薔薇風呂に入ってみたい!
少し恥ずかしそうにヒカルが主張すれば、メルトさんは嬉しそうに笑った。
なら決まりね。店員さん、こっちの子にシングルプランの薔薇風呂、プリンセスコースで。
今日はあたしのおごりだから、プリンセス気分を心ゆくまで堪能してちょうだい!
……いいのか?
もちろんよ! ここのプリンセスコースは可愛い服に侍女そして、美味しいお菓子もついているわ。
あたしのお気に入りだから、ぜひ楽しんでね♪
胡散臭いなんて思って悪かった。メルト先輩はいい人だったんだな!
がしっとメルトさんの手をとり、ヒカルがキラキラとした目で見つめている。
ものに釣られやすいのはお前のほうじゃないかと、心底ツッコんでやりたい。
女の子なら誰だって可愛くなりたいし、薔薇風呂は好きなものよ。
『愛』を司る魔法少女メルト、誰よりも乙女心を理解しているつもりよ?
メルト先輩……いや、師匠と呼んでも構わないですか?
ふふっ、くすぐったいけどいいわよ? ヒカルちゃんは素直で可愛い子みたいね。そういう子、嫌いじゃないわ
満足そうにメルトさんは笑い、店員に合図する。
かしこまりました、メルト様。さぁこちらです、プリンセス。侍女がお部屋までご案内します
プリンセス……
その響きにヒカルがぽーっとなっている。
似合わないことこの上ない言葉だ。
騎士様、のほうがヒカルにはしっくりくると思った。
店員さんが合図をすれば、双子の女の子がやってきて、ヒカルにぺこりとお辞儀をする。
よろしくお願いします、プリンセス。
プリンセスの侍女・ラピスとラズリと申します
か、可愛い……
ふりふりの服を着た双子の少女に手を引かれ、ヒカルはまんざらでもない様子だ。
二人に導かれて、廊下の奥へと消えていった。
プリンセスコースは侍女に隅々まで体を洗ってもらえるコースなの。
その後マッサージにお茶までついてるから、二時間は戻ってこられないわ……これで邪魔者はいなくなったわね
えっ? メルトさん何か言いました? 後半聞き取れなくて……
ただの独り言だから気にしないで!
私達も行きましょうか!
えっ!? ちょっとメルトさん!?
強引に手を引かれ、俺はメルトさんと一番奥の部屋へ足を踏み入れた。