平家は好きか?
平家は好きか?
今までどこに
いたんですか?
どうしてそんなことを
おぬしに言わんといかんのじゃ?
ずっと気になってたって言うか……。
だって、義経も探してたし……。
見つかっても今更なんだけど……。
言わん。
そうですか。
…………。
おい……
はい?
「そうですか」って、
なんでそんなにすぐに諦めるのじゃ?
諦めたとかじゃなくて、言いたくないのに、無理に言ってもらわなくてもいいかなって。
言いたくないわけではないぞ。
じゃあ、教えてくれるんですか?
嫌じゃ。
それならいいです。
だから、知りたいのなら、
もっとしっかり聞けばいいじゃないか。
…………。
面倒くさいな……。
教えてください。
知りたいです。
とりあえず、そう言ってみた。
まったく
近頃の若いもんは。
海の中じゃ。
…………。
もうちょっと反応せんか!
あ、はい……。
「そうだったんですか~
へ~。」
棒読みすな。
だって、二位の尼様と
海に落ちたんですよね?
うむ。
順当な場所なんじゃないですか?
「なぜ、そんなところに!!」とか「竜宮に行ったのか?!」とか、ないのか?
竜宮城に行ってたんですか?
行ってない。
じゃ、八百年間ずっと
海の中ってことですか?
うむ。
よく、飽きませんでしたね。
寝てたからな。
寝てたんですか?
人の近くにいると、騒がしいでの。
海の中は心地よくて……。
ちと寝過ごしてもうた。
寝過ごした?
ん……。
天叢雲剣は、持っていた本体(?)を鞘のような入れ物から抜いて地面に投げた。
ずっと海水につかっていたからな。
いくらわらわでも、こうなってしもうた。
オリハルコンって、錆びないって聞いた。
でも、錆びてた……。
あと少し海の底に居れば、
跡形もなくなったであろう。
そのまま朽ち果てても
わらわは構わなかったのだがな……。
…………。
皆と共に
楽しい世界に行くのも手じゃろう。
じゃが、人の願いが
聞こえてくるのじゃ。
もう、聞こえんでもいいと思っていた声が、じっとしていると、聞こえてくるのじゃ。
うるそうてかなわん。
どんな願いですか?
昔は「勝たせてください」というのが圧倒的に多かったが、最近はたまに「平和」をというのが混じる。
わらわにそんなものを
願ごうても……。
「平和を得るためには、戦わなければ」
という考え方が増えているのかもしれません。
人というのは、
不可解な生き物じゃ。
戦をするのに理由をつけて、自分の正しさを主張したがってるんですよ。
ふむ。
「自分は平和のために戦っているのだ」
と言えば、争いを好まない人たちから賛同を得られます。
争いを好む者たちは
どうするのじゃ?
それで戦になるんですから、争いを好んでいる人たちは大喜びですよ。
おぬしは戦いを好むのか?
まさか。
ボクは嫌いです。
力でぶつかれば、どちらも傷つきます。
でも、実際に傷つくのは
立場の弱い人たちです。
戦いたがるのは、
安全な場所にいて、
利益を得られる人たちです。
おぬし、
歳はいくつだ?
17です。
おばばより若いのぉ。
……そうですね。
そこと比べる?
二位の尼さまとは、
立場も育った時代も違うので。
おぬし、
おばばを知っておるのか?
あまり
知りません。
義経が会ってたとしても、かなり小さい頃だし……。
めんこい子じゃのぉ
ほほほほ
ほほほほ
という景色が
浮かぶんだけど……。
清盛さまの奥さんと義経が、そんなにこやかに会ってるわけないし……。
二位の尼さまからすれば、自分の旦那の妾の連れ子なわけだし……。
それとも、やっぱりボクは義経じゃなくって、平家の人間だったとか……。
そうだとすると、静香の元旦那という立場じゃなくなるんだよね……。
ボクは平家の人間で、貴族相手に舞っていた静御前に憧れを抱いていただけだったのかもしれない……。
それだと静の態度も
納得できる……。
私があんたみたいな
なさっけない男
好きになるわけないでしょ!
と、よく言われた……。
ボクが義経じゃなくって、
平家の人間だったからかも……。
だって、義経って、なんだかんだで英雄だよ?
それと恋仲だったんだよね?
お慕いもうしております……。
みたいなことを、しおらしく言われた覚えが、一度もない………………。
ったく、ばっかじゃないの?
あたしはあんたが好きってだけなのよ!
大人しく慕われるより、こっちの方がゾクゾクするけど……。
ツンデレ、
最強だよね。
ボクは彼女のことが好きだったけど、たまたま近くにいた、義経と同じ時代を生きた平家の人間を、義経と思い込んでいるだけなのかも……。
あ、でも「平家の人間じゃない」って知ったとき、ものすごいショックを受けたの覚えてるか……。
それで鞍馬山に預けられたんだった。
あのまま母上の元で育てられてたら、平家の人間として源氏と戦ってたかもしれない……。
天狗さんから修行も受けずに都で暮らしてたら、瞬殺だったんだろうけど……。
それに
兄上と戦うなんて……
考えたくもない。
おばばは……、
面白いおばばだった。
…………。
たぶんだけど、ユーモアセンスみたいなのはあったと思う……。
よく笑い、よく怒って
平家の皆を大切に思っていた……。
きっと、そういう人たち
だったんですね……。
うむ。
叢雲さま、
嬉しそう……。
でも、大事なのは平家だけで、その他の人たちのことはどうでも良かったんだ……。
うっすらとだけど、覚えている。
ほんのひと時、ボクはそこにいたから……。
居心地は、悪くなかったんだ……。
清盛さまがいるときは……。
ほほほほ。
かっかっか。
そんなに笑わなくても……。
すまんすまん。
お前は将来
大物になるやもしれんのぉ。
……。
平家のために
働いてくれるかのぉ。
はい!
…………。
?
それまで和やかだったのに、清盛さま以外のところに不穏な空気が流れて「あれ?」と思った。
少しずつ少しずつ、何かが変わっていった。
幼い頃は蝶よ花よと育てられたが、成長するに従い、悪意をぶつけられるようになった。
理由は「平家の人間ではないから」だったのかもしれない。
……。
彼らは、平家以外の人間を、本当に人間だと思っていなかった。
おぬしは、
平家が嫌いか?
なぜそう思うのですか?
単純にそれが知りたいだけじゃ。
好きでもキライでもありません。
どうでもいいか?
ボクには彼らを嫌う、
資格がありません……。
好き嫌いに資格があるものか。
……。
じゃ、
キライです。
あの人たち、
平家以外の人には
情け容赦がなかったので。
ふむ。
なら源氏が好きなのか?
大嫌いです。
ボクが好きになる理由があるなら、それが知りたい。
源氏よりも平家が好きなのか?
え?
平家がキライで
源氏は大嫌いなのじゃろ?
それならば
平家の方が好きなのだろう。
そうだったのか?
ちと考えちょれ。
あれ?
叢雲さま、
今日はよくおしゃべりになりますね。
なんじゃ?
わらわがしゃべったらいかんのか?
いえいえ
ご機嫌がよろしいようで何よりです。
ご機嫌よろしゅうない。
全っ然、全く
よろしゅうはない。
だいたいおぬし、
なんで今日は面なのだ?
初対面の相手には、
きちんと正装をしないと。
何が正装じゃ。取れ。
表情が見えんと気味が悪い。
……。
翔さんは面を外した。
面って蒸れるんっすよね~。
軽っ
翔さんは、思っていた以上に若かった……。