与兵のトン汁

そんな感じで一週間が過ぎました。

鶴太郎

与兵、与兵。

鶴太郎

だっこして。

布団も干して綺麗にして、鶴太郎のためにひいてあげましたが、鶴太郎は与兵の布団に入ってきます。
そして、鶴太郎は与兵を起こすのが日課になっていました。

与兵

…………。

与兵は布団から出て着替えると、鶴太郎を背負いました。

鶴太郎

だっこがいい。

与兵

黙れ。

鶴太郎

うん。

与兵

何が嬉しいんだ?

謎でした。

囲炉裏端に移動します。

鶴太郎

………………。

鶴太郎

………………。

鶴太郎

………………。

与兵

おい

鶴太郎

……。

与兵

……しゃべっていいぞ。

鶴太郎

うん。

鶴太郎が何を考えているのか、与兵にはよくわかりませんでした。

鶴太郎

とにかくいつも楽しそうです。

鶴太郎

今日もトン汁?

与兵

嫌なら食うな。

鶴太郎

食べるよ。
与兵のご飯、おいしいもん。

与兵はお椀によそって渡します。

与兵

ほら、食え。

鶴太郎

おいしい。

与兵

ふ……。

鶴太郎

与兵と一緒だと、
ご飯もおいしいよ。

与兵

いてもいなくても
関係ないだろ?

鶴太郎

あるよ。与兵のご飯はおいしけど、そこに与兵がいれば、もっともっとおいしくなるんだよ。

与兵

…………。

与兵にはよくわかりません。

鶴太郎

今日は何をするの?

トン汁をおかわりしながら鶴太郎が聞きました。

与兵

畑仕事だ。

鶴太郎

ボクも行く。

与兵

来ても何もしないだろ?

鶴太郎

うん。

与兵

…………。

鶴太郎

与兵の側にいたいんだ。

鶴太郎

後片付けが終わったら
連れて行ってね。

与兵

後片付けをするのは
俺なんだろうな……。

与兵がそう思っていた時です。

という音が聞こえてきました。

与兵

ん?

与兵は音のした方を見ました。

吾助

よぉ。

入り口に吾助がいました。

与兵

何しに来たんだ?

与兵の声がいつもよりも低くなりました。

吾助

そいつの往診だよ。
ジジイに言われたんだ。

鶴太郎

鶴太郎は自分に往診が来るなど、思っていなかったようです。

吾助

ジジイも心配してたぞ。

与兵

じいさん、帰ってきたのか?

吾助

あの後、すぐにな。
お前に会えなかったと、残念がってたぞ。

吾助

たまには会いに
帰ってやれ。

与兵

ああ……。

でも、与兵に帰るつもりはありませんでした。

吾助

お前にガキの世話ができるのかって。その様子見も兼ねた往診だ。

吾助は家の中に入ってきて、鶴太郎の足を診ました。

吾助

痛むか?

吾助が患部に触ります。

鶴太郎

っ……。

鶴太郎はビクっとして涙目になりました。

吾助

だろうな。

嬉しそうです。

与兵

……。

与兵はイラっとしました。

吾助

順調に治っているようだが、油断は禁物だ。まだ安静にしていろ。

吾助が包帯を巻こうとすると、

与兵

俺がやる。

と言って、吾助を鶴太郎の前から押しのけました。

吾助

独占欲か?

与兵

そんなんじゃねえし。

吾助

うまいな。

包帯を巻くのを見て、与兵の耳元で言いました。

与兵

こんなのにうまいも下手もない。

吾助を除けながら言いました。
そして、鶴太郎の方を向きます。

与兵

それ食ったら畑行くぞ。

鶴太郎

うん。

与兵

お前は帰れ。

吾助に言いました。

吾助

往診代を貰わないと、帰れないな。

与兵

勝手に来て勝手に診て
何、言ってるんだ。

吾助

払うもんは払えよ。

与兵

金は無い。
こないだ払ったので全部だ。

吾助

じゃあ、こいつでいいぞ。

鶴太郎

吾助は鶴太郎の腕を引っ張りました。

与兵

ダメに決まってるだろ。

吾助の腕を外し、鶴太郎を護るように吾助の前に入りました。

鶴太郎

与兵。

嬉しそうに与兵の背中にぴったりとくっつきます。

吾助

ずいぶん懐いたみたいだな。

与兵

なんでこうなったのか
よくわからん。

吾助

自覚、ないんだろうな
お前は。

与兵

あ?

吾助

往診代か、それに代わるものをもらわないと、居座るからな。

与兵

滞在費取るぞ。

吾助

それでもいいか。

与兵

……。

吾助

トン汁食っていいか?

与兵

……。

黙ってトン汁をよそって吾助に渡しました。

吾助

相変わらず美味いな。
お前のメシ。

与兵

後、片付けておけよ。

吾助にそう言うと、鶴太郎の方を向きました。

鶴太郎

あ……。

与兵

行くぞ。

トン汁を食べ終えた鶴太郎を、与兵は背負いました。

吾助

そいつ、置いて行ってもいいぞ。
俺が見ててやるから。

与兵

置いて行くわけないだろ。

鶴太郎

……。

吾助

何?
もう手を出しちゃったわけ?

与兵

出してない。
それに、こいつは男だ。

吾助

男だとダメなのか?

与兵

当たり前だろ。
そもそもこんなガキ、
ダメだ。

鶴太郎

…………。

鶴太郎はそれを聞いて、寂しそうな顔をしました。

吾助

いいんじゃないのか?
本人も望んでいるみたいだし。

鶴太郎

…………。

吾助の言葉に、鶴太郎は何度もうなずきました。

与兵

良くない。
こいつ、何を言われているか、わかってないんだ。

吾助

わかってんじゃないの?

与兵

あ?

吾助

頭、固いからな。
お前。

与兵

…………。

吾助

さてと……、

食べ終えたお椀を置き、吾助が立ちあがりました。

吾助

帰るか。

与兵

往診代、いいのか?

吾助

こいつでいい。

空になったお椀を指さしました。

吾助

じゃあな。

吾助は戸口に向かいました。

与兵

待てよ。

吾助

なんだ?

与兵

往診代、トン汁でいいんなら、
また来いよ。

言ってから、与兵は恥ずかしさで顔をそむけました。

吾助はそむけられた与兵の顔を、自分の方に向けます。

吾助

初回サービスってだけだ。
次はもっとイイもんもらってくぞ。

与兵

……じゃ、来るな。

吾助

また来る。

吾助は帰って行きました。

鶴太郎

ねえ、与兵。

背中にいた鶴太郎が言いました。

与兵

なんだ?

鶴太郎

あの人、ボクのライバル?

与兵

違うから。
絶対に違うから。

与兵

そもそもお前ら二人とも、
俺の恋愛対象じゃないんだからな。

鶴太郎

ぷぅ。

鶴太郎は与兵の首にぎゅっとしがみつきました。

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