若田 詩穂

ナギ……。

 
 
菜美が消えてすぐ、後ろから詩穂の声がした。


いつからそこにいて、
俺や菜美がどう見えていたのかは分からない。

俺は袖で涙を拭いてから、笑顔で振り向く。
 
 

三崎 凪砂

あははっ、菜美のヤツ、
笑ってあの世に逝ったみたいだ。
満足そうだった。

若田 詩穂

……ナギには菜美の姿が
見えていたんだね?

三崎 凪砂

うん。

若田 詩穂

そっか……。

若田 詩穂

私には見えなかったけど、
ずっとすぐそばにいたような
そんな気はしてたんだ。

若田 詩穂

私も会って
直接お別れを言いたかったかも。

三崎 凪砂

今だから話すけど、
俺、最近になって昔の夢を
何度も見ていたんだ。

若田 詩穂

…………。

三崎 凪砂

もしかしたら菜美が
俺を呼び寄せたのかもな。

若田 詩穂

どうなんだろう。
それは菜美にしか分からないよ。
単にナギの自惚れかもよ?

 
 
詩穂は悪戯っぽく微笑んだ。


こうして気兼ねなく話せて、
それを親身になって
聞いてくれる相手がいるというのは
ありがたい。



再会したばかりなのに、
詩穂はブランクを感じさせないよな。

そういう親しみやすさがコイツの魅力かも。
 
 

三崎 凪砂

でもさ、宝物を見つけて
菜美に渡してあげられた。
それは良かったよ。

若田 詩穂

じゃ、ナギの気も晴れた?

三崎 凪砂

あぁ!

若田 詩穂

そっか……。

 
 
フッと息をついて静かに頷く詩穂。

そのあと、俺に視線を向けて
どこか寂しげな笑みを浮かべる。
 
 

若田 詩穂

じゃ、もう未練はない?
これで旅立つ決心はついた?

三崎 凪砂

……は?

若田 詩穂

落ち着いて聞いてね。
実はナギも
あの時の交通事故で――

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
あぁ……俺は知ってしまった……。

世界の真実を……。


耳にはやけに潮騒の音だけが残っている。
ハッキリ言って、詩穂の話は
途中からよく聞こえなかった。


だっておかしいだろ?
俺がもうあんなことになっているなんて。

ここに俺はいるのに……。



自分以外の存在は証明できなくても
俺自身の存在は証明できるんだよな、菜美?

だったら今の俺はなんなんだよ……?
教えてくれよ、菜美っ!


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 

三崎 凪砂

っ!? あれ?

三崎 凪砂

俺、いつの間に海岸に?

少し前からですよ。

三崎 凪砂

っ?

 
 
後ろから声をかけられた。
俺はそちらの方向へ振り向く。


そこには――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

篠山 菜美

なーちゃん……。

三崎 凪砂

あ……あぁ……。

篠山 菜美

また……会えたね……。

篠山 菜美

これからはこっちの世界が
私たちの世界。
ずっとずっと一緒だね。

篠山 菜美

これならなーちゃんの
お嫁さんになるって約束、
守れそうだね。

篠山 菜美

ねっ?

三崎 凪砂

っ!

三崎 凪砂

菜美……。

 
 
そうだ、俺の意識はここにある!
だから俺はここにいる!

そして菜美がすぐ隣にいる!



世界のことなんてよく分からないけど、
俺がこうして存在し続ける限り、
想いはずっと変わらない。


――菜美のことが好きだッ!
 
 

三崎 凪砂

菜美、俺はお前のことが
好きだから。

三崎 凪砂

たとえここが
どんな世界だろうと、
そんなのは関係ない。

三崎 凪砂

俺が俺でいる限り、
俺は菜美のことを愛し続ける。

篠山 菜美

あ……っ……。

 
 
俺は菜美とキスをした。


ほんのりと甘い味。
菜美がいつも持ち歩いているという
あのアメの味だ。

この味、俺が忘れるわけがない。



昔からずっと、そしてこれからもずっと……。

 

 
 
 
~fin~
 

第16片(最終片) この想い、ずっと……

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