気付けば意識を取り戻していた。
気付けば意識を取り戻していた。
だけどそれはまだ半分夢の世界で。俺は起き上がれない。心地よく死んでいるような感覚。
遠方から、夕焼け小焼けのメロディーが聞こえる。
きっと夕方。心地いい雰囲気に俺は幼いころを思い出す。
そう、ちょうどあの公園で。遊んでいた。沙希と。他にも、もう思い出せない友達と。
夕焼け小焼けを頭の中で唄いながら帰った。毎日が楽しかった記憶。そして。
拒絶されるヒーロー。
次に目を開くと、夜空が映った。
まどろみのうちに夕刻は終わり夜になったらしい。
………元の世界?
ムンドゥスからこっちの世界に戻って来たのか。
仰向けの体に力を入れて起こす。
見渡してみるとここは公園の広場の端。ムンドゥスで帰還した場所と変わらないようだ。
屋外で仰向けに寝てても誰にも起こされなかったのは、ちょうど茂みに隠れて歩道から見えない位置だったためらしい。
そして辺りには救済者も水夜も見当たらない。時間のせいか通行人も見当たらない。
俺は公園に一人取り残されてしまったようである。
他の救済者達はまだムンドゥスにいるのだろうか。
あるいはこっちの世界での接触を極力避けているのかもしれない。
眠る俺だけを残してそそくさと日常に帰っていく救済者たちの姿が脳裏をよぎる。
救世主様はお疲れだから。そっと休ませてあげよう。
そんなことを俺は夢見心地に聞いたのかもしれない。
草陰に隠れるように眠っていたのも、彼らが移動させてくれたのか。
そんな想像でふと笑みが浮かんでしまう。
まぁいずれにしろ。向こうの世界に行けば会えるはずだ。
ムンドゥスでの戦いは終わらない。近いうちに俺は再び水夜から麻薬をもらい、向こう側に行くことになるだろう。
歩き出そうとして何かに躓いた。見下ろして足元に俺の学生鞄が置いてあることに気付く。
救済者のうちの誰かが持ってきてくれたのだろうか?
ありがたく思いながら俺はその鞄を持ち上げる。
ぐっ
ムンドゥスでの出来事のせいか、体のあちこちが疲労を感じている。
救世主が筋肉痛って、なんだよ。情けなさに苦笑いする。
とりあえず今日はもう帰って寝ることにする。
公園の出口に向かって歩き出したけれど。
……ん?
小さく黒い物が落ちていることに気付いた。
膝を落とし目を凝らす。
これは………物じゃない。黒くもない
………血?
そう、血だ。
ほんの数滴分の血痕が、俺の影で黒く見えたのだ。
誰かが転んで怪我でもしたのだろうか。そんな、たった数滴の。
この公園ではよく子供を見かけるから、彼らのうちの誰かが転んだか怪我したか、そんなところだろう。
転んだにしては大怪我と呼べるレベルの出血量だけど。
ここは彼らが遊ぶ広場から離れているけど。
……帰るか
大して気にするようなことでもない。
ちょうどそこが、俺がモルタリスを殺した場所であったとしても。
俺がやつを殺したのはムンドゥスだ。だからこちらの世界に血痕が残るはずもない。量も桁が違う。
偶然だ。質の悪い。偶然。
俺は何かから逃げるように公園を後にする。