廊下を出た羽美。
アホな連中だ。
下らない因縁を付けてくるからああいう風になる。
鼻で笑う羽美の後を、誰もついてこない。
まぁ、羽美が適当に歩いている結果、追っていた妹と親友は見失ってしまっただけだが。
そんな中、後から出たにも拘らず、追いついている人物がいた。

ソーン

Подождите!

羽美

ん……?

聞き慣れない言語を叫びながら、目の前に舞い踊る影がひとつ。
……よくわからないけど、銀髪碧眼の女の子だ。
ちっこくて可愛い。捲し立てるように何か言ってる。

ソーン

Тылжец!
Убийцы!

……何語だこれ、と羽美は首を傾げながらわからないけどどうやら外人さんのよう。
制服着ていないけど、っていうか分厚い格好してるけどそれはいいとして。
通じるかわからないけど、昔見た映画の真似をする。

羽美

shutup

ソーン

Заткнись!?

黙れ、と発音は適当だが英語で言うと、更に怒り出す女の子。
地団駄を踏んで、悔しそうにまだ何かを叫んでいる。

羽美

……あのさ、日本語通じる?

埒が明かないので聞いてみた。
すると女の子は、

ソーン

ッ!!

ソーン

っと……いけない、いけない
興奮するとすぐに母国語出てきちゃって大変だわ

我に帰ったらしい。
普通に喋れるようだった。
仕切り直すように、ごほんと咳払いして、改めてこちらに指をさす。

ソーン

やいっ、この偽物ッ!!
あなたは、「トリックスター」ねっ!?

いきなり、核心に迫る事を問うてきた。
大体察した羽美。なぜこんなことをするのかは不明だが。
このちびっこが言いたいことは分かった。

羽美

…………そういうあんたは、「村長」?

肯定も否定もしないで逆に問い返すと、彼女は実に堂々と名乗り出た。

ソーン

そうよ
わたしはソーン・アブリャート
村長はわたしの役職

『第三陣営』
村長

勝利条件 ゲーム終了時まで生き残る。

能力
昼間の投票、及び夜間の自身への襲撃を他プレイヤーに移すことができる。
発動の有無は任意。
対象にされたプレイヤーが狩人、警備兵、野犬、蛇、トラップマスター、小悪魔の場合身代わりは失敗、自分がそのまま死亡する。

ソーン

勝手に人の役職を模倣するなんて……
本当にゲスなマネをしてくれるわね

ソーン

あなたはわたしに戦争を売ったわ
そしてその戦争、わたしは買った
つまりわたしとあなたは敵よ

という効果音が聞こえてきそうなほど堂々と、腕を組んで前にふんぞり返るソーンと名乗る少女。
先程の言動が気に入らないようであるが、羽美としても色々困る。

羽美

……売った?

ソーン

わたしの役職を勝手に使った
それは十分宣戦布告と取れるわ

ソーンはそうやって、幼児体型の薄い胸を張る。
ちっこいのに態度はでかかった。

羽美

……そう
お互い手の内はバレているなら、殺し合いになっても、仕方ないよね?

羽美

そのとおり、わたしはトリックスター
お互いに透けているなら、遠慮することもない
戦争がお望みなら付き合ったげるよ

二人の間に緊張した空気が走る。
睨み合いながら、ソーンが挑発する。

ソーン

わたしを殺したければ殺しに来なさい
ただ、わたしが死ねばあなたも死ぬわ

羽美

ハッ、よく言うよ
後手に回ればわたしのほうが余程融通がきく
つまり死ぬのはお前ひとりだよ

羽美

死にたきゃ勝手に死ね

ソーン

あら、大した自信
協力者がいるようなことを言うのね?
でもご生憎様
わたしにも手を貸してくれる人はいるわ

羽美

へぇ……面白い
じゃあそいつも殺せばいいんだね

ソーン

殺せるものなら殺してみなさい
あの人は早々死ぬようなタマではないわ
今夜を楽しみにしているわ、偽物さん

ソーンは言いたいことだけ言うと、そのまま踵を返して去っていった。
羽美は次のターゲットを見つけて、舌舐りをしていた。
村長の能力は体験してしった。
リスクありの無制限身代わりということだ。
どうせ対象はこちらにするのだろうし。
さて。
じゃああの娘に早速助力してもらおうとするか。
この勝負は羽美の勝ちは最初から決まっていた……。

ソーン

ただいま……

龍二

……おかえり
どうだった?

ソーン

案の定だったわ……
彼女は間違いなくトリックスターよ
あっさり認めたもの
それに、かかって来いとはいったけど……
多分、本当に彼女は来るわ

龍二

だろうね……
花園の目が、昨日見た時とは全然違う
恐らくは理性も良心も振り切ってて、邪魔なものは全て殺しに来る……

龍二

前はああじゃなかったんだけど……
相手が悪いかもね
あの子は凄く危険だ

ソーン

どうするの?
何か策があったから、わたしを彼女に嗾けたんでしょう?
生き餌のようなマネしたんだから、責任とってよ……?

龍二

わかってるさ
いきなり狙われたのはよくわからないけど……
少なくても、あちらに先手を打たれてしまった以上、僕達は既に不利だ

龍二

どうにかして、彼女をこちら側に引き込まないと……
既に一人、彼女は確実に殺している
油断していたら、首を持っていかれるね

ソーン

わかってるならどうしてわたしに行かせたの?
完全に矛先がわたしに向いているじゃない……

龍二

僕と花園は過去に揉めていてね……
自分で出向くと、今度は僕が確実に狙われる
それじゃああんまり意味がないし
だから比較的彼女と相性の良いアブリャートに行ってもらったのさ
ヘイトも稼げて一石二鳥だしね

ソーン

それってわたしを身代わりにしたってことよね……?
随分と酷いことしてくれるじゃない

龍二

ごめんごめん
後でお詫びを支払うよ
それだけのリスク、背負わせた分は僕がアブリャートをサポートするから
今は目の前の目的に集中して?

ソーン

……
そのへんは、任せるわ……

龍二

大丈夫
アブリャートのことは僕が護るからね
死なせないし、誰にも殺させない
君は罪の十字架を背負わなくていいんだ

ソーン

……気障なセリフ
でも、信じてるわ

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