百合

ねぇ

正太郎

なんだい?

ここは百合の仕事部屋である
もう三度目になるのに全く迫ってこない正太郎に百合は訊ねた

百合

あなたはなぜ私に手を出そうとしないんですか?

正太郎

別に理由は無いよ
僕がそうしたいからそうしてるだけだよ

百合

でも……

百合の言葉から勢いがなくなる
別に手を出してほしいわけではないはずなのに急に不安になる。

正太郎

もしかして、僕が君のことを嫌いだと思ってる?

百合

別にそういうわけじゃないですけど……

正太郎

僕は君のことが好きだよ

正太郎は平気な顔をして言葉を紡ぐ
モヤモヤした感情が百合の中に湧き出る

正太郎

僕は君が好きだよ
結婚したいと思ってるくらいね

百合

!?!?!?!?

突然だった
今までに同じ言葉を発した人間はいたが、その人たちとはどうも毛色が違う

百合

じょ、冗談もほどほどにしてください

正太郎

冗談じゃないよ
僕は本気だよ
結婚してほしいんだ

百合

それは……

正太郎の目はまっすぐだった

いままでのどんな人よりもまっすぐな目立った

百合

私は……

すみません、お時間ですよ

正太郎

おや?もう時間か……
ごめんね、困らせちゃったみたいで

外からの声で百合は思考を取り戻した。
正太郎はいつものように荷物を持って扉から出る

その直前だった

正太郎

そうだ
あなたに渡したいものがあったんだ

百合

なんでしょう?

正太郎

これ
あなたにあげます

百合

花……ですか?

正太郎

山茶花(さざんか)の花だよ
君に似合うと思ってね

百合

はぁ……

困る百合に正太郎は近づき耳打ちした

正太郎

結婚の話、僕は本気だから

百合

えっ!?

正太郎

じゃ、また来るよ

正太郎は帽子を少し浮かせて会釈した後出ていった。

このような仕事柄、人から物をもらうことは多い
しかし……

百合

花……か……

自分の名前とは裏腹に百合は花に興味があまりないのだ。
それにしても……

百合

結婚なんて……

百合はボーっと天井を眺めながら呟く
いつしか彼女の頭から正太郎の影が離れなくなっていた。

第3章:そして歯車は回りだす

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