正太郎が訪れた数日後、百合はいつも通りに仕事をしていた。
あれ以来特に変わったことは無く、正太郎が来ることもなかった。

百合

結局は冷やかしだったんでしょうね……

百合は過去の客と照らし合わせる。

今までに優しくしてきた客はいたが、結局は皆、体が目当てで合った。

百合

もう彼は忘れましょう

百合は気合を入れ直す。
すると、タイミングを見計らったように戸の奥から女性の声がした。

百合、お相手の方です

百合

どうぞ

百合は戸のほうを向き直り扉の開く音に合わせて頭を下げる。顔を上げた百合の視界には……

正太郎

やぁ、久しぶり

百合

正……太郎さん……?

正太郎

あはは、覚えてくれてたんだね
ありがとう。

正太郎は以前のように微笑みながら目の前に立っていた

正太郎

今日もよろしくね

正太郎

やっぱり君と話をするのは楽しいね

百合

そう……ですか……

正太郎

なんか楽しく無さそうだね……

百合

そういうわけじゃないんですけど……

正太郎

あ、もうこんな時間か……
じゃあまた来るよ

この日も正太郎は特に百合に手を出すこともなく出ていってしまった。

百合

本当になんなんだろう……

百合には彼の目的が全く読めないままであった

百合

はあぁぁぁ……

百合は人生で一番ではないかと思われるほどの大きなため息をついた。
その隣では百合より少し大人びたような女性が座って微笑んだ

どうしたの?珍しく私の前でため息ついちゃって

百合

あぁお菊……ちょっと聞いてよ

お菊

百合が愚痴なんて
頼ってくれるなんて嬉しいわ
で、接客態度の悪さに定評のある百合を悩ませる相手なんてどんな人だったのかな?

百合

笑い事じゃないって……
しかも接客態度悪いって……

百合は納得がいかないといった様子で答える。
この吉原の中で百合が唯一心を許しているのがこのお菊である。

お菊

ほらほら、そんなところに食いついてないで、どんなお客さんだったの?

百合

それがさぁ……

百合は正太郎のことについて話をした。
その内容には愚痴も出る、不安も出る

ひとしきり話を終えたところでお菊は口を開いた

お菊

百合はよっぽどその正太郎さんのことが好きなのね

百合

なんでそうなるの!?

突然の発言に百合は大声を上げる

お菊

だって、百合がお客さんのことをしゃべったの初めて聞いたわよ。いいことにしろ悪いことにしろね
それだけ気になってるんでしょ

百合

それは……

お菊

とにかく、そのお客さんは大事にしないとダメよ?
あなたが好きかどうかは別として、いいお客さんであることは変わりないんだから
じゃ、私仕事だから

そう言ってお菊は部屋を出ていった
その姿はことわざ通り百合の花といった様子だった。

百合

そんなことあるわけないよ……

百合の頭の中には1日お菊の言葉が反芻していた。

第2章:変わる百合、寄り添う花

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