どうしてこうなったのか。





そんなことを問いただしても無駄だろう。




だが、問わずにはいられない。




皆が寝静まったと思われる時間。

午前2時


女子の悲鳴が廊下まで響き、眠っていた者も目が覚めて駆けつける。



羽鳥さんが留守番よろしくと言ったが、結局僕は悲鳴の元へ駆けつけてしまっていた。


その先にあった″もの″
その正体に触れて息をのんだ。
胸に刃物を立てるそれは
既に硬化が始まった人の器だ。


羽鳥さんがつぶやく名

工藤 陽景(くどう ひかげ)

目の前に横たわっている、金色の髪をした青年。
僕の記憶が正しければ…
彼は小野さんに手を差し伸べていた記憶がある。


…………。


そうだ、シチューのときに…。


田畑 結城

騒がしい、どうし…

田畑 結城

………………………。

西園寺 詩乃

あのねぇ、一回ならまだしも
二回も騒がないでもら…

西園寺 詩乃

え………。

千堂 旭飛

これはいったい…。

日向 瑞樹

ひ…かげ…?
……………陽景!?

佐倉 百恵

…………陽景…くん…?



次から次へと人は駆けつけた。

次から次へと悲鳴、絶叫といった声が上がる。

小野 ゆかり

そんな…。

日向 瑞樹

なぁ…本当に死んで…?

日向 瑞樹

なぁ……!

西園寺 詩乃

え…いや…。

羽鳥 弘継

………生きてる人間の硬さじゃない。

日向 瑞樹

いい加減なこと言ったら…。

田畑 結城

やめろ。
今はとりあえず…
これ以上人を入れるな。

羽鳥 弘継

………俺は廊下に出て
人払いをしておこう。

田畑 結城

頼む。

日向 瑞樹

陽景……。

佐藤 紘

……………。

田畑 結城

佐藤くん
君も一度、廊下に出ているといい。

佐藤 紘

……いえ…。
あの……どうしたら…。

田畑 結城

…………。
じゃあ、佐藤くんは…
佐倉さんと宮代さん、小野さん…
ここに来てしまった女性達を頼めるか。

佐藤 紘

別室に移動…ですよね?

田畑 結城

あぁ。








こうして指示されるまま、僕は泣きじゃくる女生徒を連れて部屋を後にした。


部屋を出た際に羽鳥さんの視線が、こちらに向いていたが話す気分にもなれず別室へと向かった。








存在しているかわからないほどに
よく透き通った窓ガラスがある部屋だった。


風はガタガタと窓を鳴らし
雨は激しさを増すばかりに降り続けている。


佐藤 紘

そういえば…
迷った山道でも雨が降ってたっけ。



まるで弾丸でも打ち込んでいるかのような音が響く。

これはいったい誰の涙だというか。

天が代弁するかのような雨だ。


だとすれば、この雨はいずれ嵐へ変化を遂げる。


何故か無意識にそう思った。

小野 ゆかり

あの…佐藤くん…
取り乱してごめんなさい。

佐藤 紘

いえ…無理もないと思います。

佐倉 百恵

あの……あれはいったい…。

佐藤 紘

……わかりません。

宮代 奈々子

私…なにも知らないから。

佐藤 紘

え?

宮代 奈々子

…………ちょっとアイツに呼ばれて…
行ってみたら死んでた…それだけ。

佐藤 紘

……?

宮代 奈々子

そういえば…
アンタに自己紹介してなかったっけ。

宮代 奈々子

宮代奈々子(みやしろ ななこ)

宮代 奈々子

とりあえず…
私、何も知らないから。

佐倉 百恵

何も知らないって…そんなこと!

宮代 奈々子

言ったでしょ
私は呼ばれたから行った。

宮代 奈々子

そしたら…
勝手にアイツが死んでて…。

佐倉 百恵

勝手に死ぬわけないでしょ!!

佐藤 紘

ちょ、ちょっと…
二人とも落ち着いてください。

小野 ゆかり

………何故…亡くなったのでしょう…。

佐藤 紘

あ…。

佐倉 百恵

…………………。

宮代 奈々子

さぁ?自殺じゃないの?

佐倉 百恵

そんなわけ…!

宮代 奈々子

ないって言いきれる?

佐倉 百恵

……………。

小野 ゆかり

考えても仕方ないわ…。
事故とは考えられないし…
他殺だなんて考えたくないわ。

佐藤 紘

他殺の可能性…。
もしも他殺だったとしたら…。








もしも他殺だとしたら。

それは誰かが手を下した殺人鬼ということだ。

たったそれだけの話。





けれど、たったそれだけが大きな問題。

工藤さんの死を受け入れたくないかのように、宮代さんへ反論しようとする緑の髪の彼女は、自殺ではないと思うほどに知った人物だったのだろうか?

万が一他殺と考えるとなると…



疑わしい人物とは誰なのだろう。


それを考えるには、僕は皆の挨拶を聞くどころか、会話すらしていない。
他人の関係や性格…まったくと言っていいほど無知だ。



考えたって仕方ない。



わかっていても、どこからか湧いてくる好奇心は、僕をじっとはさせてくれないようだ。


佐藤 紘

僕、田畑さん達のとこへ行って来ます。

小野 ゆかり

え?

佐藤 紘

宮代さん達をお願いします!




小野さんの承諾は勿論もらっていないが、どうやら僕は待てなかったみたいだ。













佐藤 紘

羽鳥さん!!




廊下を駆け、部屋の前に立っている羽鳥さんに声をかける。

羽鳥 弘継

遅かったじゃないか。
…小野に任せて残るとばかり思ってた。

佐藤 紘

どの道、僕がここに居る…と?
なんで…そう思ったんですか。

羽鳥 弘継

さて…なんでだったかな。

佐藤 紘

相変わらずですね…。

佐藤 紘

あの…唐突で…
変なこと言ってるかもしれませんが…

佐藤 紘

…………他殺…ですよね?

佐藤 紘

こんなこと…
なんだかんだ縁のある羽鳥さんにしか…。

羽鳥 弘継

…………。

佐藤 紘

こういうことを考えるのは…
あまりいいことではないですけど…。

羽鳥 弘継

……………。

佐藤 紘

変なこと…言ってすみません。

羽鳥 弘継

それを言う相手は俺じゃない。

佐藤 紘

え?

羽鳥 弘継

今なら中に居るのは…
ゆきりんだ…話してくるといい。

佐藤 紘

え…なんで田畑さ…




トンッ  



佐藤 紘

え、ちょ…うわっ…。

田畑 結城

佐藤くん…?


無理やり部屋の中へ押し込まれたと思えば、部屋の中では田畑さんが部屋をゆっくり見まわしていた。

佐藤 紘

あ、えっと…すみません…。
えっと…羽鳥さんが…。

田畑 結城

弘継が…。
まぁいい、どうかしたのか?

佐藤 紘

……………この人にどう伝えろと…。

佐藤 紘

あ、えっと…
なにをしてたんですか…?

田畑 結城

………なにか手掛かりはないかと…
部屋の中を見て回っていた。

佐藤 紘

え…手がかり…ですか?

田畑 結城

そうだ。
驚かないで聞いてほしい…。

田畑 結城

俺は…他殺の線を疑っている!

田畑 結城

ドヤァ

佐藤 紘

台無しだバカ!

佐藤 紘

何故…そう思ったんですか?





真面目な話であるか、そうじゃないかの中途半端な境に戸惑うも、周囲の人間のように叫ぶわけでもなく、ただただ冷静に工藤さんの死について考える田畑さんの考えが気になった。



田畑さんも問いに合わせ、口を開いてくれた。











田畑さんが言うには
彼には自殺の動機がなかったこと
また、彼が倒れていた場所は舞台だったが
その裏方が荒れていたことから推測したらしい。

まるで争ったのだろうか?というほど。
そして自殺動機…これは彼と同じ学校の者が口々に言ったのだという。


それだけでは他殺とは決められないし、そもそも犯人の手掛かりというもの自体が見つからない。



佐藤 紘

僕の場合、好奇心と
勘だけだから…根拠になることは…。

田畑 結城

まぁ、まず…
死体の状態をまとめるべきだろう。

佐藤 紘

そう…ですね。

田畑 結城

立ち話もなんだ…
どこか座れる場所へ行こうか?
弘継も巻き込んで。

佐藤 紘

巻き込まれ…なんだ。

田畑 結城

さ、行こう。
ひ~ろ~つ~ぐ~お前もな~!









羽鳥 弘継

………………。













6話 友の最後 完

pagetop