コンコンコンコンコン
コンコンコンコンコン
ノックは5回で頼む。
数時間前に、羽鳥さんにそう言われたのでノックは5回で納めた。
だが、どうやら反応はなく…中に人の気配すらない。
念のため、もう一度だけ5回ノックした。
コンコンコンコンコン
あれ…
思ったより早かったな。
あぁ、羽鳥さん
呼び出すくらいなら
部屋で待っててくれればいいのに。
羽鳥さんは、どこへ行っていたのやら部屋の前に立つ僕の後ろに立っていた。
どこへ行っていたんですか?
……少し会いたい人物がいてな。
軽く話を済ませて来たとこだ。
そ、そうですか。
まぁ、とりあえず入ろう。
羽鳥さんが、両腕で押すように…
いや、突き押す(?)かのように扉を開く。
いろいろと音がおかしいとは思うけれど、この人にツッコミは無駄なんだと、昼間の件から察しはできた。
お、おじゃましまーす…。
やっぱり皆
部屋だけは現代的ですね。
これは、この時間になるまでの間
僕が自室に居た時に思ったことだった。
随分と古風な館かと思いきや
和室もあったりなど…自室に至っては現代的だ。
和室でよかったのに…
今何か…?
多分気のせい。
そ、そうですか。
それで…
話ってなんですか?
……率直な話
ゆきりn…田畑結城に、
何か変わったことはないだろうか?
ゆきりん?
あの人、変わったとこしか…。
…性格じゃなく。
あ、そうですね。
とくに…思いつきません。
何か変わったことはあるだろうか?
羽鳥さん、西園寺さんの友人(?)で
演劇部所属の自称…眉目秀麗18歳
変人、山の幸好き、ナルシスト…
陸上部掛け持ちで…恐ろしく足が速い。
たった一日も経たない時間で
知れたといえば、これくらいのことだろうか?
…………そうか。
あの…
それがどうかしたんですか?
………大したことじゃない。
長い付き合いだからな…。
悠長にしてるとはいえ…こんな状態だ。
あ、あぁ…
心配…?なんですね。
………。
え、えっと…
どれくらいの付き合いなんですか?
…………さて、何年だったかな。
この人、記憶力大丈夫か。
ふふふ。
だから何故嬉しそう!!!
話を戻そう。
君は…運命だとか…信じるタイプ?
運命…ですか?
……少し語弊かな。
奇跡だとか…幸運だとか…
それこそ幽霊でもなんでもいい。
不確かなものがあると思うか…だ。
そうですね…。
ないとは言い切れないと思います。
……なぜ?
………こう…僕はよく…
危機感に欠けてるって言われるんですよ。
いままで…
なんとかならない…
どうしようもないこと…
そういう思いをしたことがないんです。
それで、何があっても…
だいたいは何とかなると思ってます。
……そうか。
だから…
これも不確かな力が働いてるのかと。
かもしれないな。
………。
ふふふ。
なんなんだ、この人は。
……よし、決めた。
はい?
たまに、こうして話そう。
………?
は、はい。
逆に、君は話したいことはある?
そう…ですね。
あ、羽鳥さんの脚本に……
…………。
……?
……様子を見てくる。
あ、僕も行きます。
……君は来ない方がいいかもしれない。
え?
お留守番よろしく。
子供か!!!!
ふふふ。
まるで子供をあやすかのように、頭を撫でたかと思えば、もはや羽鳥さんは部屋を出ている。
悲鳴が聞こえたというのに、様子を見るなとはいったいなんなのだろう。
この古い館であれば、有名な黒い虫が出てきたとておかしな話ではない。
……幽霊だとか、不確かな存在がいてもおかしくはない。
僕は、別に…虫がダメなわけでも幽霊が怖いとも思ってない。
まったく…子供扱いされるとは…。
えっと…あっちの方かな…?
結局、羽鳥さんが出てすぐに僕も部屋を後にした。
反対の方だ!!!
この部屋かな…?
え…?
…………。
………。
あ…あ…あぁぁ…。
そこに″あった″のは
つい数時間前には者であった物があった。
隣に立つ羽鳥さんはつぶやく
工藤 陽景(くどう ひかげ)だ
5話 動く秒針 完