コンコンコンコンコン






羽鳥 弘継

ノックは5回で頼む。







数時間前に、羽鳥さんにそう言われたのでノックは5回で納めた。


だが、どうやら反応はなく…中に人の気配すらない。




念のため、もう一度だけ5回ノックした。






コンコンコンコンコン

羽鳥 弘継

あれ…
思ったより早かったな。

佐藤 紘

あぁ、羽鳥さん

佐藤 紘

呼び出すくらいなら
部屋で待っててくれればいいのに。



羽鳥さんは、どこへ行っていたのやら部屋の前に立つ僕の後ろに立っていた。

佐藤 紘

どこへ行っていたんですか?

羽鳥 弘継

……少し会いたい人物がいてな。
軽く話を済ませて来たとこだ。

佐藤 紘

そ、そうですか。

羽鳥 弘継

まぁ、とりあえず入ろう。



羽鳥さんが、両腕で押すように…
いや、突き押す(?)かのように扉を開く。

いろいろと音がおかしいとは思うけれど、この人にツッコミは無駄なんだと、昼間の件から察しはできた。

佐藤 紘

お、おじゃましまーす…。

佐藤 紘

やっぱり皆
部屋だけは現代的ですね。


これは、この時間になるまでの間
僕が自室に居た時に思ったことだった。

随分と古風な館かと思いきや
和室もあったりなど…自室に至っては現代的だ。

羽鳥 弘継

和室でよかったのに…

佐藤 紘

今何か…?

羽鳥 弘継

多分気のせい。

佐藤 紘

そ、そうですか。

佐藤 紘

それで…
話ってなんですか?

羽鳥 弘継

……率直な話
ゆきりn…田畑結城に、
何か変わったことはないだろうか?

佐藤 紘

ゆきりん?
あの人、変わったとこしか…。

羽鳥 弘継

…性格じゃなく。

佐藤 紘

あ、そうですね。

佐藤 紘

とくに…思いつきません。



何か変わったことはあるだろうか?

羽鳥さん、西園寺さんの友人(?)で
演劇部所属の自称…眉目秀麗18歳

変人、山の幸好き、ナルシスト…
陸上部掛け持ちで…恐ろしく足が速い。

たった一日も経たない時間で
知れたといえば、これくらいのことだろうか?

羽鳥 弘継

…………そうか。

佐藤 紘

あの…
それがどうかしたんですか?

羽鳥 弘継

………大したことじゃない。
長い付き合いだからな…。
悠長にしてるとはいえ…こんな状態だ。

佐藤 紘

あ、あぁ…
心配…?なんですね。

羽鳥 弘継

………。

佐藤 紘

え、えっと…
どれくらいの付き合いなんですか?

羽鳥 弘継

…………さて、何年だったかな。

佐藤 紘

この人、記憶力大丈夫か。

羽鳥 弘継

ふふふ。

佐藤 紘

だから何故嬉しそう!!!

羽鳥 弘継

話を戻そう。
君は…運命だとか…信じるタイプ?

佐藤 紘

運命…ですか?

羽鳥 弘継

……少し語弊かな。
奇跡だとか…幸運だとか…
それこそ幽霊でもなんでもいい。
不確かなものがあると思うか…だ。

佐藤 紘

そうですね…。
ないとは言い切れないと思います。

羽鳥 弘継

……なぜ?

佐藤 紘

………こう…僕はよく…
危機感に欠けてるって言われるんですよ。

佐藤 紘

いままで…
なんとかならない…
どうしようもないこと…

佐藤 紘

そういう思いをしたことがないんです。

佐藤 紘

それで、何があっても…
だいたいは何とかなると思ってます。

羽鳥 弘継

……そうか。

佐藤 紘

だから…
これも不確かな力が働いてるのかと。

羽鳥 弘継

かもしれないな。

羽鳥 弘継

………。

羽鳥 弘継

ふふふ。

佐藤 紘

なんなんだ、この人は。

羽鳥 弘継

……よし、決めた。

佐藤 紘

はい?

羽鳥 弘継

たまに、こうして話そう。

佐藤 紘

………?

佐藤 紘

は、はい。

羽鳥 弘継

逆に、君は話したいことはある?

佐藤 紘

そう…ですね。

佐藤 紘

あ、羽鳥さんの脚本に……

羽鳥 弘継

…………。

佐藤 紘

……?

羽鳥 弘継

……様子を見てくる。

佐藤 紘

あ、僕も行きます。

羽鳥 弘継

……君は来ない方がいいかもしれない。

佐藤 紘

え?

羽鳥 弘継

お留守番よろしく。

佐藤 紘

子供か!!!!

羽鳥 弘継

ふふふ。




まるで子供をあやすかのように、頭を撫でたかと思えば、もはや羽鳥さんは部屋を出ている。

悲鳴が聞こえたというのに、様子を見るなとはいったいなんなのだろう。

この古い館であれば、有名な黒い虫が出てきたとておかしな話ではない。

……幽霊だとか、不確かな存在がいてもおかしくはない。

僕は、別に…虫がダメなわけでも幽霊が怖いとも思ってない。

佐藤 紘

まったく…子供扱いされるとは…。

佐藤 紘

えっと…あっちの方かな…?


結局、羽鳥さんが出てすぐに僕も部屋を後にした。

佐藤 紘

反対の方だ!!!


















佐藤 紘

この部屋かな…?

佐藤 紘

え…?

羽鳥 弘継

…………。

宮代 奈々子

………。

七海 秋人

あ…あ…あぁぁ…。




そこに″あった″のは

つい数時間前には者であった物があった。




隣に立つ羽鳥さんはつぶやく



工藤 陽景(くどう ひかげ)だ







5話 動く秒針 完

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