しりぬぐい

与兵

なんなんだ?
しりぬぐい?

家への帰り道、与兵は吾助に言われたことが気になりました。

与兵

彼女を盗られたのは俺なのに、どうしてしりぬぐいになるんだ?それともあれは関係ないのか……。

鶴太郎

吾助になんか言われたの?

与兵

まあ、いろいろ……。

鶴太郎

「ガキに手を出す愚か者」
みたいな?

与兵

お前が言うな。

与兵

てかそこまで言われてない。

鶴太郎の言葉の方が、グサッときました。

鶴太郎

与兵は悪くないよ。
ボクがそうしてってお願いしたんだし。

鶴太郎

ボク、与兵が大好きだから。

与兵

……。

破壊力抜群です。

与兵

今まで……、
客を取らされたりしていたのか?

それなら納得ができます。
この恥じらいのかけらもない言動も、あのテクニックの高さも。

鶴太郎

客?

与兵

その……、お前が抜けたいって言っていた組織から……。

鶴太郎

…………。

与兵

すぐに答えないってことは
そうなのか?

与兵

でも、答えにくいこと聞いたかも……。

鶴太郎

ボクは、見ていただけ。
与兵が初めてだよ。

与兵

そうか……。

ちょっとほっとした与兵でした。

与兵

いやいや、何、ほっとしているんだ?
今までの彼女に、そんな感じのこと言われて、何度裏切られたと思っているんだ。

与兵くんだけだよ。
こんなに優しくしてもらったの。

と言っていた彼女も、

私、初めて人を好きに
なったかもしれない。

と、言っていた彼女も吾助を選びました。

吾助くんの方が、
私のことを理解してくれるの。

だいたいの元カノは、そういう捨て台詞を残して、いつの間にかいなくなっていました。

与兵

吾助はいいやつだし……。
昔から、大人っていうか老けてるっていうか。

与兵

吾助なら、悪の組織からこいつを守ってくれるかもしれない。

鶴太郎と一緒に旅をしていた仲間のことを「悪の組織」と言い切ってしまっています。

与兵

あれ?
もしかして、それがしりぬぐいってやつか?

吾助にがっつりぬぐってもらおうとしています。

与兵

もしかして、
俺って他力本願?

そういうところがあります。
今、住んでいる家も、診療所のおじいさんの物です。

でも、それで良いのです。
人はひとりで生きていけません。

鶴太郎

ねえねえ、与兵。

与兵

ん?

鶴太郎

与兵は吾助に
お尻ふいてもらってたの?

与兵

はぁ?
なんだ、それは!

鶴太郎

だって「しりぬぐい」って
言ってるの聞こえたし

与兵

違う!
そういう意味じゃない!!

鶴太郎

ボクも拭いてもらおうと思ってたのに。

与兵

自分で拭け!

鶴太郎

足、怪我してるから
お尻拭けない。

与兵

手は怪我してないだろ。
自分で拭ける。

与兵

今までだって、
自分でしてたじゃないか。

トイレまでは与兵が連れていきますが、そこからはひとりでしていました。

鶴太郎

いままでは我慢してたんだよ。これ以上、与兵に迷惑かけちゃいけないって。
でも、おトイレでお尻拭くの、大変だったんだから。

与兵

ケツくらい自分で拭け

鶴太郎

与兵は吾助にやってもらってたのに?

与兵

やってもらってないからな。

鶴太郎

じゃあ、お風呂。
全然入ってないし……。

与兵

…………。

言われてみれば、鶴太郎が与兵の家に来てから、お風呂に入っていません。

与兵

今日はダメだ。
治療したばかりだろ。
ちゃんと休め。

鶴太郎

じゃあ、身体拭いて。

与兵

まあ、それならいいかな……。

鶴太郎

綺麗にしたら、しよっ。

与兵

それはダメ。

鶴太郎

え~

与兵

また怪我が悪化したら
吾助にいろいろ言われるんだぞ。

鶴太郎

だいたいコツわかったから
次は大丈夫だよ。

与兵

そんなもん、
わからんでいい。

鶴太郎

やろうよぉ。

首筋をなめるような距離で鶴太郎が言いました。
微かに唇が当たって、くすぐったいです。

与兵

やっぱり遊び感覚で言ってやがる……。

与兵

ああいうのは、そんな軽い感じでするんじゃない。

鶴太郎

ほえ?

与兵

もっと厳かな気持ちで……。

与兵

そんな気持ちでやったこと、
一度もない……。

意外と自分がノリで生きていたことに、与兵は気づきました。

与兵

やっぱり俺、吾助の言う通り、
下半身で思考しているのか?

鶴太郎

よぉ~ひょ~お~。

与兵

怪我が治るまでしない!

鶴太郎

え~。

与兵

あ~、その……。

与兵

怪我を治して、完璧な体調の方が……。

与兵

もっと楽しめるっていうか?

与兵

何言ってんだ?
俺……。

鶴太郎

やっぱ与兵、
むっつりだね。

与兵

今晩はしない!
わかったな!

鶴太郎

ぷう。

でも、鶴太郎は、嬉しそうに与兵に抱きつきました。

鶴太郎

へへっ

その気持ちを表すかのように、白い羽根がキラキラと光り、白い雪の上にゆっくりと落ちました。

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