そんなこんなで、やっこも着替えてきて、仕切り直し。
 くっ、それにしても、やっこを目の当たりにするとどうしてもあの衝撃の映像が脳内リピートされて、仕切り直しなんて……。

蛇塚弥津子

あれれ、どうしたの明人。なんだか私のほう見ないようにしてない? もしかして、さっきのやり過ぎで、嫌われちゃった?


 やり過ぎなのはその通りだけどな!
 でもまさか嫌うだとかそんな、むしろ反対な意味というか。やっこは隠してるから大丈夫だと思ってたかもしれないが、横からちょっと見えてたっていう。

蛇塚弥津子

…………え!?


 大声で吃驚し出した。

蛇塚弥津子

う、うそ。ほんとに見た……の?


 顔がみるみる赤くなっていく。
 なんだこの反応。やっこってまさか、口だけエロだったとか? いや裸エプロン実践しておきながら口だけも何も。

蛇塚弥津子

~~っ


 下を向いて、無言になってしまった。
 うーむ、よくわかない人だ。
 さて今度こそ仕切り直し。
 料理対決ということらしいけど、やっぱり食材なんてないし、ここはロビーで調理できそうもないぞ?

蛇塚弥津子

宇宙料理には火も包丁も使わないんだよ~


 やっこ、一瞬にして立ち直っていた。まさか、さっきまでの演技だったんじゃないだろうな。

天童瑞佳

やっこちゃんは打たれ弱いけどしぶといから


 そう瑞佳が教えてくれた。
 なんだ、打たれ弱いけどしぶといって。防御力は低いがヒットポイントは高いみたいなものか?
 まあそれはいいや。
 しかし火も包丁も使わないでどうやるんだ?
 瑞佳が応える。

天童瑞佳

宇宙での料理は、粉と液の配分どうするかで栄養や食感をよくするの


 ああ、いつも食べてるものみたいのを作るのか。

天童瑞佳

うん。あのね明人くん、包丁は人を殺すための道具だよ。他の使い方するなんて、包丁に対する冒涜じゃないかな


 …………。
 とても真剣な表情で諭してくるので、反論できない。
 地球人代表として反論すべきかもしれないが、ぼく別に地球人代表じゃないからそんな責務負いたくないや。
 三人の女子は道具を用意して、粉や液の調合(?)を始めた。なかなか白熱した戦いが行なわれている雰囲気はあるが、具体的にどうなのかは地球人のぼくにはさっぱりわからず、全然面白くない。
 それにしてもこれ、エプロンより白衣のほうが似合う作業だなぁ。
 ……薬調合みたいだから毒殺のイメージがどんどん膨らんでいく。ほんとに大丈夫だろうか。



 ついにやってきた、実食の時。
 見た感じ、とても不味そうな物体がシャーレの上に置かれている。半分液状で半分固形な、ぶよぶよした、紫やら青の物体。無臭であることが唯一の救いか。
 正直な話、みんなこれ、自分で美味しそうだと思うのか?

蛇塚弥津子

え、全然


 やっこは素で応えやがった。
 他二名は……、

天童瑞佳

美味しいもの作る対決だったの?

黒上輝里菜

……基本を押さえつつ個性的な料理になるよう心掛けただけで、味はちょっと

 駄目だ。こいつら駄目だ。
 まあでもせっかく女の子が作ってくれたわけだし、食べないわけにもいかない。さっそく食べてみよう。



 …………。
 …………。
 …………。
 食べた瞬間のことは覚えている。順番はどうでもいいので、適当に、ぼくから見て右側にあった瑞佳のものから食べた。
 それが、いきなり大当たりだった。
 いや、やっこのでも輝里菜のでも一緒だったかもしれないから、当たりかどうかは知らないが。
 ともかく、ぼくは数秒意識を失ったらしい。

天童瑞佳

ごめんね明人くん


 目覚めてすぐ、瑞佳は謝っていたのだが、ぼくは見逃していない。
 ちょっと悦ってたぞ、この子。
 不可抗力とはいえ気を失わせたことが、どうも快感を呼んだようだ。
 輝里菜は安堵のため息をつき、

黒上輝里菜

意識戻ってよかった……。地球人は血を抜けば治るって聞いたけど、どうやって抜くのがいいかわからなくて


 おい待て。それは確かに地球に存在したやり方だが、何故古代の知恵を持ち出す。体の造りは同じなんだから、宇宙の最先端医療のほうを参考にしてください。
 ……輝里菜もやっぱり宇宙人だったか。今更なこと言ってるけど。

蛇塚弥津子

明人……その、私たちのこと嫌いにならないで


 やっこが珍しく沈んでいる。企画者として責任を感じているのかもしれない。
 嫌いになんかなるはずないよ。
 ただちょっと警戒の度合いを強めるだけで。



 結局何故意識飛ぶ事態に陥ったかというと。
 免疫のない人が突然高濃度の栄養宇宙食を食べると、刺激が強過ぎるかららしい。宇宙人はすでに慣れているからちょっとくらい過剰でも何ともないが、地球人だからこうなった、と。
 後遺症があったりはしないとはいえ、怖いし危ないから事前に説明して欲しかった。彼女たちはもちろん知らなかったことなので、これは日本政府やら宇宙側政府やら何やらへの不満。
 これからもこういうことって頻繁にありそうだなぁ。
 宇宙はとても魅力的だが、いつかマジで死ぬかもしれない。まだホームシックにもかかってないのに、地球帰りたくなってきたかも……。

美少女が調合すると爆発する風潮

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