２

　結局男子寮にすでに用意された部屋に泊まり――そりゃそうだ――、翌日学校で彼女たちと顔を合わせた。
　おはようみんな。

　宇宙でも朝の挨拶は地球と変わりない。天体による朝昼晩はないが、同じだ。
　それはそうと昨日言ってたあれ、ほんとだったんだね。

　蛇塚さん大活躍だった模様。
　昨日のあれ、とは。男子が女子寮に侵入しようとして撃退されるという話だ。もちろんぼくは参加しなかったが、誘われはしたし、その後の男子諸君のボコられた姿もしっかり目撃した。
　しかし彼らはボロボロになりながらも、

　

　実に喜んでいた。
　そんなんだから女子に相手にされないんじゃ……。
　いやでも、宇宙人男性は惚れられたら殺される常識を受け入れてるわけだから、これが普通なのか。よくわからない。

　と天童さんの苦言。
　ぼくもその意見に賛成だ。追い払っているつもりでむしろ引き寄せている。
　そこに黒上さんも、

　おどおどしながらも、正論を言う。
　……正論、か？
　この人らは殺すのはＯＫなわけだから異端な意見かもしれない。

　天童さんはぼくに言う。

　例外あること前提なので安心できないし、基本のままでも安心できない。
　ところでぼくってクラスの男子に嫉妬される立場なのか？　彼らは殺されたいのに殺されず、ぼくが命狙われてるわけだから。

蛇塚さんは軽く言う。

　どう気を付ければいいんだ。そして気を付けて欲しいなら、わざわざ挑発的なこと言わないでください。男子たちにも聞こえてるっぽいし。
　耳を澄ませば……、

　……安心した。

と黒上さん。

　天童さんは疑問なようだ。蛇塚さんも同様なよう。
　まあ、みんながみんな一緒なわけないし、黒上さんが言うように、関心持たない男子もいるだろう。

　ぼくのまとめに対し、黒上さんは微妙な沈黙をしただけだった。

＊

　ぼくの学年は高校二年で、こちらでも同じ学年に該当するクラスに入っている。学校システムは日本とところどころ違うものの、地球内の国々で異なるのと大差なく、ほとんど一緒だ。
　授業内容としても、劇的には違わず、数学なんかは共通と言える。広い数学のどこを優先して勉強するのかは実用性で変わるものだが、それがほぼ共通ということだ。

　一応学力平均は宇宙のほうが高いのではという予想――ぼくの予想はある。
　地球では、優秀な子孫――社会を支えるのに必要な人材として優秀さ――が残りやすいことはない。教育を与えられる人が子供を育てる、あるいは遺伝的に才能ある子供が多く生まれる、ことはない。むしろその逆で、優秀ではない子孫のほうが多くなっていく。高度文明社会の大きな問題だ。

　宇宙の場合は、まず志を持って宇宙人になった人が多い。決してランダムで選ばれたのではなく、あくまでも本人の意思だ。そういう人たちの子孫なのだから、地球上のいかなる地域とも異なり、平均値の高い子孫になりやすいのではないだろうか。
　まあ、平均がどうかなんてぶっちゃけどうでもいいんだけどね。優秀な人を一定数確保できるかどうか、低過ぎない人を一定割合維持できるかどうか、なわけだから。

　授業は地球と同じでも、成績査定については、地球ではありえないユニークな方法が取られている。ぼくはまだ体験していないけれど、単純なペーパーテストや技能テストや面接試験ではない、『どんな優秀さであっても認める』方法が取られていて、ぼくも楽しみにしている。

　学力面以外では、言語的な意味で付いていけないことはない。
　蛇塚さんたちがそうだったように、ここでは日本語を話している。別にぼくに合わせたという無茶ではなく、最初から。
　この地域は宇宙での日本に該当する地域で、国の形こそ違うものの、日本人と変わらない人たちが住んでいる。国の形というのは、国体という意味でも国土形状という意味でもどっちでも正しい。ぼくが元々いた日本は、こちらの地域からすると、『本場の日本』ということになるらしい。

　言語以前に、宇宙人たちは、地球人そのものだった。生物的な違いはほぼゼロ。もっと何世代も経れば差異も生まれるかもしれないが、少なくとも今のところは差異などないに等しい。
　地球人宇宙人の違いはやはり、後天的なもの――常識といったものになってくる。といっても、この地域が『宇宙における日本』であるように、その違いもさほどではないようだ。
　今のところぼくが体験した、劇的な違いは……、女性が恋したら男性を殺す、というものくらいかな。関連して子孫の残し方も異なってはいるが、インパクトはこっちのほうがはるかに強い。
　生殖行為抜きで子孫を生むことくらい、地球でも割と想定の範囲だろう。殺すのは、さすがに範疇にない……。