サフィラさんは不適な笑みを浮かべ、この洋館と隣接する森に纏わる御伽噺をし始めた。
サフィラさんは不適な笑みを浮かべ、この洋館と隣接する森に纏わる御伽噺をし始めた。
昔々、一人の旅人が森に迷い込んだ……。
蝋燭の消えた部屋は真っ暗で、サフィラさんの持つ一本の蝋燭が、その身を揺らしながら踊っている。
旅人の目的は、この森を抜けた先にある隣町に行くことだった。
旅人は、この森に迷い込む前、村の人に忠告を受けた。
「この森には、魔物が住んでいる。夜は近づくな」と……。
しかし、旅人はその忠告を破った。それは、彼自身が魔物や、もののけの類を信じていなかったからだった……。
夕方、旅人が森に入ると、辺りは静まり、動物の声すらしなかった。
やがて、日が落ち、辺りは暗くなった。
しかし、旅人は依然、森を彷徨っていた。
旅人は思った。
この森は何かがおかしい。
旅人は急いで引き返した。
一刻も早くこの森から抜け出さなくては……。
旅人は一目散で引き返した。まるで見えない“何か”に追われているかのように。
しかし、引き返しているはずなのに、なかなか森を抜けることができない。
それどころか、村の明かりさえ見えてこない。
彼は、森の中を無我夢中で走った。
しかし、どの方角へ行っても森は果てしなく
続いていた。
旅人は、疲れ果て、その場に座り込んだ。
そして、旅人は村人の話を思い出した。
「この森は魔物が住んでいる。夜は近づくな。」
村人の忠告を素直に聞くべきだった。
彼は、後悔した。
そのとき旅人は、すぐ後ろに、気配を感じた。
彼は、その場に動けなくなった。
何かわからない物への恐怖。
彼の全身はそれによって支配された。
そして、一夜が明けた。
朝になり、村の人々は、旅人が宿から姿を消したことに気づいた。
そして、彼を探しに森へ入った。
森は太陽の日が差し込んでいる。
村人たちは森を進み、やがて森を抜けた。
そして、隣町の人に旅人の話をした。
しかし、そのような旅人は見ていないと隣町の人は言った。
それっきり、旅人は姿を現さなかった。
それ以来、この森は旅人を飲み込む森として、広く恐れられるようになったとさ。
お・し・ま・い。
サフィラさんは、蝋燭の火をフッと吹き消した。
うーーーー。怖かったーーー。
マリーさんはさっさと自分の前の蝋燭に火を燈した。
あー、面白かった。
ユースも蝋燭に火を燈す。
え、面白かったんですか?
今の話。
いやいや、マリーさんの反応だよ。
正直、この話をするときの楽しみは、マリーさんの反応以外ないよ。
ユースくんの目的は怖い話ではなかったようだ。
そもそも、この話は作り話ですからね。
クロードさんが蝋燭に火を燈しながら、サラッと襲撃的なことを言う。
えっ? そうなんですか?
私はサフィラさんに聞いた。
クロード。それは言わない約束でしょう?
サフィラさんがクロードさんに怒っている。
サフィラ。マリー様も大人になられているので、そろそろよろしいのでは?
うーん……。
しょうがないですね。
私の楽しみがまた一つ消えてしまいました。
えっ? どういうこと?
マリーは突然のことに驚いている。
では、私からこの昔話ができたきっかけをお話させていただきます。
そう言ってクロードは話始めた。