私は、一晩だけこの洋館に泊めてもらえることになった。

マリー

それにしても、ジャスミンちゃん。

こんな夜遅くまで、この森で何をしていたの?

 マリーさんが、赤ワインの入ったグラスを片手に、私に聞いてきた。

ジャスミン

それがですね……。

 私は、この洋館に行き着くまでの経緯を皆の前で話した。

クロード

それは、お気の毒に。

では、この森の噂についても記憶が無いということですか?

 話に入ってきたのはクロードだった。

ジャスミン

噂って、この森に何かいるんですか?

 森に居たとき、他に動物に出会わなかったことを思い出した。

 あの異様な静かさは、森に居る“何か”の仕業なのか。

 私はクロードに聞いてみた。

クロード

いいえ。この森に、いわゆる動物と呼ばれるような生き物はいません。

ですが……。

 クロードが次の言葉を言い出そうとしていると、それを、マリーが止めさせた。

マリー

ちょっと、クロード。

いきなりこの森の話をされたら、ジャスミンちゃん怖がってしまいますよ?

 マリーが言うと、クロードはクスクスと笑い始めた。

クロード

クスクス、怖がっているのは奥様では?

奥様は小さい頃から、こういう話が嫌いでしたよね?

 クロードが、マリーに笑いながら言う。

 クロードさんは、ドSまでは行かないが、性格が少し意地悪みたいだ。

マリー

わ、私は怖くないわよ。

 明らかに動揺している。

 マリーさんは怖い話が苦手らしい。

ジャスミン

怖い話なんですか?

私はクロードに聞いた。

クロード

いいえ、昔からこの森に伝わる御伽噺ですよ。

 クロードが微笑みながら言う。

サフィラ

そう、これは昔からこの森に伝わる御伽噺……。

 不敵な笑みを浮かべたサフィラさんが、御伽噺を話し出す。

 サフィラさんはこういった話がすきなのかな?

マリー

ちょ、ちょっと。サフィラまでー。

アーサー

マリー、良いじゃないか。

食事は楽しくした方が、料理も美味しくなるって言うからね。

 アーサーがマリーに言って、食卓の蝋燭の火をフッと吹き消した。

マリー

ちょっと、アーサーまで。

誰か止めてよー。

私はこの話が苦手なのにー。

マリーさんは両耳をふさいで目を瞑った。

ユース

この話は久しぶりだね。

 ユースが、手に持っているナイフとホークを置き、アーサーと同じように蝋燭の火を消す。

シルビア

では、私たちも。

クレア

そうですね。奥様、どうか少しの間、辛抱を。

 そう言って、皆が自分の前に灯っている蝋燭の火を消していく。

マリー

 怖くない、怖くない、怖くない、怖くない……。

 マリーさんの立場って……。

 私は、マリーさんが少しかわいそうに思えた。

 でも、私の記憶喪失の手掛かりになるかもしれないので、マリーさんには申し訳ないけど、自分の蝋燭の火を吹き消した。

マリー

ひぃっ。ジャスミンちゃんまでー。

ジャスミン

す、すみません。

個人的に聞いてみたいので、私も雰囲気作りに加担します。

サフィラ

ではでは、御伽噺の始まり始まりー。

 サフィラさんの顔が蝋燭の明かりでさらに不敵な笑みを醸し出している。

サフィラ

フフフ。

これは、この洋館と隣接する森に纏わる昔々のお話……。

 御伽噺が始まった……。

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