■新人賞公募の欠点と、ネット小説の利点

 筆者が小説賞応募原稿を書いていた時に感じた、公募の欠点の話です。
 実はこの欠点が、イコール、ネット小説形式の利点と繋がっています。ですので、欠点を挙げるだけで、利点の説明にもなっています。
 なお下読み制度が機能していないことについては以前に語ったので再度は述べません。

○規定枚数の不確かさ

 稀な例外を除き、公募では規定枚数が定められています。
 まずおかしいのは、未だに『原稿用紙何枚分』という考え方を出版界ではすることです。現在のライトノベル公募では応募者にわかりやすく説明――『何文字何行で何枚』という親切な書き方もしてありますが、これは最近の話なのです。
 出版される本は、原稿用紙ですか? あるいは作家の執筆は原稿用紙ですか? 違います。『何文字何行で何枚』です。原稿用紙で考えるのは、単なる慣習に過ぎません。意味ないのです。

 そればかりか混乱をもたらします。筆者が経験あるのは、原稿用紙換算の換算法が公募ごとに異なり、その説明が一切ないために、規定違反とされたケースです。
 400文字原稿用紙で書いたものと、そうでないものを原稿用紙に換算(倍率で換算)したものでは、劇的に枚数が異なります。ならば、前者か後者か明記しておかねばなりません。それなのに、『原稿用紙枚数だけで伝わらない奴は作家になる資格はない』とばかりに、伝えないのです。では常識なのかといえば、先ほど述べたように、公募ごとに異なっているので、常識ではありません。
 ただ、繰り返しになりますが、現在ラノベ公募においては、まず倍率換算であり、明記もしてあるのが普通です。混乱はまずしないでしょう。
 同時に、そうでない賞では未だはっきりしないので、枚数に不安ある場合は問い合わせて確認しましょう。(筆者もつい最近、問い合わせてよかった、というケースありました。知らずに多数派の換算法でやっていたら違反でした。)

○規定枚数に収めろと言うが

 公募に規定枚数がある理由としては、

・単に、短かったら長編小説ではなく本に出来ない。
・無限に枚数あっては、審査できない、短めでないと無理。
・一冊の本に近い分量で話をまとめてもらう。プロ作家になればどの道指定枚数に収める技術は必要。

 といったものがあるでしょう。どれも正しいのですが、しかしライトノベルにおいて、『規定枚数分にすべてを書いてしまったら、続きがなくなる』が起こります。わかりやすくいえば、ラスボスを倒してしまわないのが、ライトノベルの第一巻(応募原稿)です。
 ならそのあたりを選考では考慮してくれるのか。必ずしもそうではなく、持っているものはすべて枚数に収めて出せという公募もあるのです。ラスボス倒してないからとマイナス評価受けることもあります。無理言うなって話です。
 そして一巻分までは素晴らしかったとして、では続きも安泰かといえば、そんなことわかるはずがありません。

 ラノベの代表的な作品、ソードアートオンラインは、みなさんご存知のように、受賞作ではありません。そして、既定枚数の都合で応募しなかったものです。
 同作者が他の作で賞をとったのを契機に、出版化されたネット小説。もし応募をしてこなかったら、もし下読みがすぐ弾いてしまっていたら、もし受賞あるいは編集者に注目されなければ、SAOはヒット作になれなかったのです。
 つまり、公募の規定枚数という縛りは、少なくともラノベとは相性悪いものだと言えるでしょう。

○続きを書きたいのに書けない!

 これはラノベ応募者に結構見られる現象です。
 自分では面白いと思っていて、応募原稿の続きを書きたくて仕方なくなるのです。こんなイベントのアイデアがあるんだ、初期のあれは伏線になっているんだ、サブヒロインに人気出そうなキャラまだいるんだ、と。
 しかし、当然落選したら、すべて無意味になってしまいます。勝手にネット公開すればいいといえばそうですが、その原稿に関してはそれでいいとして、落選するのであるならば、新作を書かなければいけません。
 受賞するかわかりもしないものの続きを書くか、受賞しないことを前提として新作を書くか。受賞を狙っているのなら後者一択です。
 しかし受賞は、受賞者たちが口を揃えて言うように、『運』なのです。新作のほうがよっぽど面白いのならいいでしょう。しかし落選したもののほうが面白かったら、続きも書かれずに、この世に生まれることもなくなるというのは、『もったいない』の一言です。

○選考が大変過ぎる、そしてあてにならない

 選考って大変ですよね。読者が短期間に何冊も読むのだって大変なのに、賞選考では、複数人のプロ編集者や作家が吟味して読み込み、ああだこうだと議論するのです。
 そして、そうやって日の目を見ることになった本が、失敗。何度も繰り返されてきた光景です。
 こんな非効率なことをするくらいなら、すでにネット小説で読者を獲得しているものを出版したほうがいい――そう考えるのは自然なことです。

〇ネット小説万能論ではない

 こうやって語ってはきましたが、ネット小説書籍化にも普通に欠陥があります。
 例えばポイント・ランキング制度に頼っているために、『知ってもらえさえすればヒットする』ものが埋もれる、ポイント中途半端に高いだけで書籍化を先走れば失敗する、ポイント・ランキング不正を防ぐ手立てが現状存在しない。
 今後出版(ラノベ)業界がどうなっていくのか、筆者も注目していきたいと思います。
 ちなみにオチというわけでもないですが、筆者は現在、新作はショートショートばかりなので、そして電子書籍個人作家になったので、以上のことは他人事です。みんな頑張ってねー。

新人賞公募の欠点と、ネット小説の利点

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