木下遥香


私が思うに、うちの高校でいちばん可愛いと思う女の子だ。


柔らかそうな髪の毛、丸くて黒目が大きい瞳、甘いマスク。


男女ともに人気があって、私も話してみたいと思っていたのに。



青木尚

私、もう、ダメかもしれない。

渡斗真

なんで?

青木尚

敵視、されたよね。

青木尚

ここに来るってことは、木下さんもソーイウことなんですか?




あんな可愛い子まで、渡くんの、その、あれ、なのか。


渡斗真

んー。あの子は違うかな。

青木尚

え、そうなの?



あの子はそんなんじゃないよ、と、
そんな風に渡くんは笑った。


それがどうも切なげに見えたのはどうしてなのだろう。


青木尚

渡くんは、…木下さんが好きなの?

渡斗真

へ?

青木尚

いや、なんとなくなんだけど。




そんな気がしなくもなかったから。

すると彼は、


渡斗真

いや、全然違う。




わざとヘラヘラしたように否定をした。

渡斗真

あの子は幼馴染。保育園のときから一緒で、家まで徒歩15歩くらい。んな目で見たことないよ、お互い。




ないない、やめてよ。
そう言って渡くんは手をヒラリと振って見せた。



そういえば、木下さんには彼女と同じクラスに彼氏がいたんだっけ。


全く関わりのない私でも知っているような美男美女カップル。



渡斗真

あの子はね、俺が屋上にいるの知ってて注意しにくるの。変なことやめろって。

渡斗真

ま、無理だけどねそんなの。あいつの言葉に効力なんてないよ。ああでも、これからはそんな使い方しないかな。





不意に合わさる視線はきっと渡くんの武器。


渡斗真

青木さんと一緒に過ごすからね。




青木さん、と丁寧な低めの声がだだ甘くてゾクリと開いた。



でも、

青木尚

ごめんね、私なんかと関わったせいで。渡くんにも渡くんのファンにも…。





私にとっては、出会い系で出会ってしまったただのクラスメイトなのだから。



渡斗真

なあに、それ。まるで俺と一緒にいるのが不満みたいな言い方するんだ。

青木尚

不満だなんて、




と言いかけて、
佐藤とのお昼の時間を奪われたことや、女の子たちからやっかまれることを考えて、やはり不満だと思い直す。


青木尚

でもやっぱりさ、木下さんは渡くんのこと好きなのかもよ。私のこと睨んでたもん。




不満そうな声色と、
関係を持っているかのような対応。


17年間女子として生きて来た私の、間にしか過ぎないけれど。


青木尚

でも、放課後、って。




放課後に約束しちゃうほど、なんでしょう?
と私が言うと、

渡斗真

ああ、あの子、彼氏が一緒に帰れない日は俺と帰ってんの。家近いから送ってあげるってだけの俺の優しさ。




彼氏と俺の仲の良さ。わかった?と渡くんは息を吐いた。


青木尚

そうなのね。

渡斗真

もしかして、俺のことが気になってんの?




渡くんのその挑発的な言葉には、


青木尚

それだけは、ないよ。




と、本心で返した。


渡斗真

だと思った。やっぱり可愛いね、青木さんは。




からかわれることには、少しずつ慣れてきているのかもしれない。


pagetop