あの日から、私はあの場所に行くのをやめた
1人きりになれる、たった1つの場所だったのに
彼のせいで失った

アオイ……
澄んだ瞳で見つめてきた彼は
一体誰だったのだろう
でも私にとって、彼は邪魔でしかなかった

またあの場所に行きたいのに
あの人に会う気がして行けなかった
人に会いたくないのも理由だけど
頭ではわかっている

アオイは、失った彼にそっくりだから

だけど私は、ここに来ていた
森の入り口
いつもの場所
やはり、アオイはいた

アオイ

あぁ、ミカゲちゃん。ずっと来なかったから、もう会えないかと思った

御堂ミカゲ

何で?私は別に、貴方に会いたくない

アオイ

あっ、まだ怒ってるよね。本当ごめん

アオイ

でもここ、本当に居心地良くて……

だから私は、この場所が好きなんだ
世界から切り離されたかのような
静かで、異質な空間
だけど……

御堂ミカゲ

ここは、他の人に入られたくない

1人だからよかった場所
1人じゃなくても
ここは、彼との場所
汚されたくない、入られたくない

アオイはそれを聞いて、少し寂しそうな顔をする

しばらく漂う、重い空気
沈黙したままの2人
聞こえるのは、木々の揺れる音だけ

そんな中、口を開いたのはアオイだった

アオイ

ねぇ、僕の我儘を1つだけ聞いてくれない?

それは、彼からの突然のお願いだった
突拍子もない言葉に
私は思わずアオイを見つめたまま固まってしまう

アオイ

このお願い聞いてもらえたら、僕はこの場所に二度と来ないよ

二度と森に来ないと約束
その代わり、アオイのお願いを聞く

それで二度と顔を見ずに済むのなら……

御堂ミカゲ

いいよ

2つ返事で、私はそれを承諾した
軽い気持ちだった
どんな願いでも叶えるつもりでいた
何が来ても驚かない自信はあった

なのにアオイのお願いは……

アオイ

1日、ここで一緒にいてくれないかな?

それはとても簡単で
予想外で
また私は、気が付いたら固まっていた

木々が、うるさく揺れる
私を嘲笑うように、激しく揺れる

それと同時に、失った彼との想い出が重なり

気が付けば私は、涙で頬が濡れていた

『俺と一緒にいようよ』

彼の言葉が重なる
出会った場所も、付き合い始めた場所もここだから
嫌でも思い出す

あの時の彼の顔
仕草に、声に
私は押しつぶされそうになって
枯れ果てたと思っていた涙が
一筋の線を描き、頬から伝い落ちていた

アオイ

だ、大丈夫?

御堂ミカゲ

ごめん……平気

アオイは私を座らせ
ハンカチを手渡してくれた

涙を拭うと
話す事は無いと思っていた
彼を、語っていた

御堂ミカゲ

私は、数日前……恋人のユウを亡くした……

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