あれは、彼と付き合って3年目の記念日の日

雨の日だったのに、彼は私と会うと約束した

だけど、彼は来なかった
何分も何時間も待ったのに、彼が現れることは無かった

その翌日、彼が死んだとの連絡をうける

その日からだった
私は心を塞ぎこんでしまったのだ

御堂ミカゲ

……あっ

御堂ミカゲ

また、来ちゃった……

もう来る事は無いと思ってた
彼と出会った場所
町外れにある、小さな森の入り口

だけど私は
気が付けば毎日ここに訪れている

御堂ミカゲ

もう、1週間か……

彼を失って、1週間
まだ私の心の傷は癒えない
いや、一生癒えなくていい
私は、この傷を背負って生きていく

私は、心を捨てた
心さえ捨ててしまえば、誰かを愛することはない
誰かを求めたりしない
互いに笑いあったり、励ましあったり

そんな幻想……

御堂ミカゲ

私には、必要ない……

普段、この森はとても静かだ
森は危ないから近寄ってはいけない
みんなして声を揃えそう言うが
私は違う

ここは、私の死に場所なんだ
人が近寄らない、死ぬには適した場所
なのに、今日は違う

騒めく森が
いつもとは違う客を呼び寄せたと
私に合図を送る
誰か、いる?
いつもと同じ道を通る足は
今日は異常に速かった
真っ直ぐ伸びる道を歩き、辿り着いたのは森の中央部

木漏れ日が木々の間から射し込む場所に
招かれざる客はいた
正確には、眠っていた

御堂ミカゲ

男の人……?

アオイ

……スゥ……スゥ……

その人は、気持ちよさげな寝息をたてて
木漏れ日の広場で眠っていた

誰だろう?
戸惑いながらも、私はその人に近付く
すると彼は気配に気付いたのか
ゆっくりと目を開けた

私はその彼の顔を、じっと見る
彼もまた、私の顔をじっと見つめた

御堂ミカゲ

誰?

アオイ

あぁ……僕、寝ちゃってたのか

彼は起き上がって少し体を伸ばすと
さっきまで眠っていた人とは思えない程
勢いよく立ち上がった

身長はかなり大きい
かなり顔を上げて見上げないと
彼の目を見ることが出来ない程
そんな彼が私を見て、ニコリと笑った

アオイ

ごめん、君の場所だった?邪魔しちゃったね

御堂ミカゲ

そんな……事ない

私は首を横に振る
すると彼も、首を横に振った

アオイ

それでも謝らなきゃ……。僕はアオイ。君は?

御堂ミカゲ

……御堂、御堂ミカゲ

アオイ

ミカゲ……いい名前だね

その言葉に、思わず唇を噛む
ミカゲという名前、私は好きじゃない

影みたいな女

そう馬鹿にされてきたから

今となっては、怒りも悲しみもない
何を言ってるんだろ?
そう思う事しかできなくなっていた

アオイ

ミカゲ?

声をかけられ、私はようやく我に返る
心配そうに見つめるアオイの顔が、やけに近い

どうしてみんな、私をそんな目で見るの?

御堂ミカゲ

さようなら……

今は、1人になりたい

私は気が付けば、彼を置いて去っていた
振り返ることなく入り口まで戻り
森を出たところでようやく振り返る

彼の姿は無い
追いかけてくる気配もない
何だったんだろう?
あの人は、どこからこの森に来たのだろう?

それが、私とアオイの出会いだった

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