お嫁さんにして?

与兵は自分の家に向かって歩いていました。
背中には例の子供がいます。

与兵

なんでこんなことに……。

とは思いましたが、放っておけるわけでもありません。

鶴太郎

お嫁さんにしてくれるの?

与兵

するわけないだろ。

鶴太郎

ボクがヘンだから?

与兵

そういう問題じゃない。
嫁っていうのはな……
まず……

与兵

……。

「愛情がなければいけない」

と、与兵に言うことはできませんでした。

与兵

俺は何を言おうとしていたんだ?

口から出してはいけない言葉だと思いました。

鶴太郎

お嫁さんになれば、追い出されないって聞いたんだけど……。

与兵

お前、バカか?

鶴太郎

え?

与兵

嫁であろうとなかろうと、
怪我人を放り出すわけないだろ。

鶴太郎

…………。

与兵

くだらねえこと言ってんじゃねえぞ。

鶴太郎

うん……。

その子は嬉しそうに与兵にしがみつきました。

与兵

肉付き悪いな。
もうちょっと太らそう。

与兵はそんなことを思っていました。

しばらく歩いていると、与兵はまだその子の名前を聞いていないことに気付きました。

与兵

お前……
名前はなんて言うんだ?

鶴太郎

名前?

与兵

ああ、
俺は与兵だ。

鶴太郎

鶴太郎

与兵

あ゛?

鶴太郎

鶴太郎だよ?

与兵

……。

与兵

性別は?

鶴太郎

男?

与兵

……なんで
そんな格好してんだ?

女の子が着る様な、レースやフリルがいっぱいな可愛らしいスカートをはいています。
しかも、そんな恰好をしていても、まったく違和感がありません。

鶴太郎

ボクの……国だと
これが普通だよ。

与兵

旅の途中だって言ってたな……。

鶴太郎は金髪碧眼で、与兵と同じ人種ではなさそうです。

与兵

……いや、それでもどうして鶴太郎なんだ?

鶴太郎はこの辺りでもありそうな名前です。

鶴太郎

「この国で誰かにお世話になる時は、お嫁さんになれば、お金を持っていなくても大丈夫よ」って、言われた。

与兵

その常識おかしいから。
勝手にウチの国の常識変えんな。

鶴太郎

違うの?

声変わりしていないのか、声もかわいらしい女の子みたいです。

与兵

当たり前だ。

与兵

だいたい男が嫁っておかしいだろ。
せめて婿だ。それに、その場合、相手は女性でなければならない。

与兵

俺は男でお前の嫁にもなれない。

鶴太郎

男の人っぽい女の人っているし。

与兵

いまだかつて、女に間違えられたことなどない。どこをどう間違えればそうなるんだ?

背も高く無駄がない筋肉にピンと伸びた背筋。
与兵はどちらかと言えば、女性にもてるタイプの男性です。

鶴太郎

そんなことないだろうなって
思ったけど。

与兵

このガキ……。

鶴太郎

そっちの趣味は……

与兵

ない!

かぶせ気味に否定しました。

鶴太郎

ボクはどうやって
恩返しをすればいいの?

与兵

ガキがそんな心配すんな。
怪我を直して、元気になるのが恩返しだ。

まだ与兵が子供だった頃、診療所のおじいさんに言われた言葉です。

気付けば自分が言うようになっていました。

鶴太郎

今どきそんなこと
真顔で言う人間がいるんだ。

与兵

落とすぞ
クソガキ。

鶴太郎

あー、ハイ。
すみませ~ん。

与兵

やっぱり助けるんじゃなかった。

見かけ通りのクソガキだったと与兵は思いました。

鶴太郎

へへっ

それがわかっているのか、鶴太郎は嬉しそうに与兵にくっついていました。

鶴太郎

与兵、
いい匂いがする……。

与兵の背中で、鶴太郎はいつの間にか眠っていました。

与兵

…………。

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