因縁の幼馴染

町の診療所に着きました。

吾助

珍しいヤツが来たな。

診察室に入ると、吾助が居ました。
吾助は与兵の幼馴染です。

与兵

じいさんはどうした?

与兵の言うじいさんは、この診療所のお医者さんのことです。

かなりのお年なので、与兵の周りの若者はじいさんと呼んでいます。
身寄りのない与兵を、育ててくれた人でもあります。

この診療所は与兵が3年前まで住んでいたところでした。

吾助

急用ができたとかで、慌てて出かけて行った。
俺は留守番を頼まれたんだ。

吾助は医師免許を持っています。
留守番を頼まれてもおかしくありません。

しかも、それだけではなく、おじいさんの持っている怪しい外国の本も読んでしまい、怪しい知識も持っていました。

与兵

帰った方がいいか?

与兵は昔、吾助に彼女を盗られたことがあります。
それから吾助のことが大嫌いになっていました。

与兵

小さい頃は
そんなヤツじゃなかったのに……。

幼馴染に裏切られて、与兵は町を去りました。

女の子に騙されてダメージは受けましたが、いつものことだったので大丈夫でした。
でも、吾助に裏切られたのは耐えられませんでした。

鶴太郎

うぎゅっ
ひっく

背中にいる子供は、痛そうにしています。

吾助

せっかく来たんだ。
ゆっくりしていけよ。

与兵

ゆっくりするつもりはない。

吾助

そのガキ、怪我してるんだろ?
血のにおいがしてるぜ。

与兵

匂うか?

与兵

野生のカンはあるからな。動物なみに鼻が利くのかもしれない。

吾助

診せてみろ。
腕はジジイより確かだぜ。

家が医者というわけではなく、吾助は何でも器用にこなします。

もっと大きな病院に勤めてもおかしくないのに、この町から出て行こうとしません。

与兵はしぶしぶ子供を診察室のベッドに降ろしました。

鶴太郎

…………。

その子供は不安そうに与兵を見上げます。

与兵

腕だけは確かだ。
心配はいらない。

そんなこと言いたくありませんでしたが、その子供があまりにも不安そうにしていたので、与兵はそう言っていました。

それに、吾助の腕は疑っていません。

吾助

相変わらず面喰いだな。
このクセ、直した方がいいぞ。

その子を見て、吾助は言いました。

与兵

クセってなんだよ。
そんなもんねえよ。

吾助

フ……。
変わってないな、お前。

与兵

無駄口たたいてないで
とっとと診ろよ。

吾助

はいはい。

吾助は治療を始めました。
素行は悪いのですが、頭が良くて、いざとなれば頼りになります。

吾助

折れてたから、
後で痛むかもしれない。

吾助はそう言って、痛み止めをくれました。
与兵はそれを受け取ります。

吾助

全治三カ月ってとこかな?
二週間は安静だな。

治療を終えた吾助が言いました。

与兵

そうか……。

とりあえず、与兵も安心しました。

鶴太郎

…………

さっきまで泣きじゃくっていた子供も、少し落ち着いたようです。

吾助

連れて帰るのか?

与兵

…………。

本当は置いていこうと思っていました。

与兵

じいさんがいないとなると、置いていけないな……。

与兵

というか、吾助が出入りしているのなら、危険極まりない。

こんなにかわいい子を置いて行ったら、手籠めにされるかもしれません。
親友の彼女を寝取るような男です。

吾助に「幼女だからダメ」という認識もないでしょう。
もし、幼女がダメだとしても、この子供はとても可愛らしいです。

そんなものを超越してやってしまうかもしれません。
そして、その後、ブラックマーケットに売られてしまうかもしれません。

吾助にはそういうつながりがあると言われています。

与兵

どうする?

鶴太郎

あの……

それまで黙っていた子供が口を開きました。

鶴太郎

ぼ……、ボクを、
お嫁さんにしてください……

消え入りそうな声で、与兵に向かって言いました。

与兵

はぁ?

置いてくださいならまだしも、意味が解りません。

吾助

…………。

与兵

俺にそんな趣味は無い。

綺麗な女性は好きですが、ロリではありません。

鶴太郎

でも、ボク……
行くところがなくて……。

吾助

それなら俺がイイ所に連れて行ってやるよ。

与兵

こいつ、ブラックマーケットに売る気か?

それだけはやめさせなければと思いました。

与兵

ダメだ。
俺が連れ帰る。

鶴太郎

お嫁さんにしてくれるの?

嬉しそうにその子は言いました。

与兵

俺にそういう趣味は無い。怪我した子供を預かるくらい誰でもする。

吾助

しないだろ。
普通。

与兵

じいさんならする。

吾助

お節介なジジイだもんな。

与兵

いいから来い。
長居は無用だ。

鶴太郎

あ……。

与兵はその子を背負い、診療室を出ようとしました。

吾助

診察代、置いてけよ。

与兵

いくらだよ。

吾助

10万かな?

与兵

そんなに高いわけないだろ!

与兵

……。

吾助

持ち合わせがなかったら、
今度でいいぞ。

与兵

今はこれしかない……。

与兵は持っていたお金をすべて渡しました。

吾助

まあ、いいか。
近いうちに回収に行くぞ。

与兵

来るんじゃねえ。

吾助

借金
踏み倒す気か?

与兵

俺が持ってくる……。

吾助

待ってるぜ。

与兵

くっ

与兵は悔しそうな顔をしました。

与兵

じゃあな。

吾助

……。

吾助は答えませんでした。


そして、与兵は吾助に背を向け、診察室を出ていこうとしました。

けれど、ドアのところで幼馴染の方を向き、

与兵

吾助……。

と、言いました。

吾助

何だ?

吾助はじっと与兵を見ていました。

与兵

あ……

何かを言いかけましたが、与兵は唇を噛みしめ、前を向きました。

与兵

……なんでもない。

それだけ言って、子供を背負った与兵は、診療所を出ていきました。

吾助

ふっ

吾助は与兵が出ていくのをじっと見つめ、しばらくそちらを見ていましたが、少し嬉しそうな顔で、読みかけていた医学書を読もうとしました。

吾助

ん?

子供を治療していたベッドに、白い羽根が数枚落ちているのが目に入ります。

吾助

なんだこれ?

吾助はその羽根を拾いました。
小さいけれど、神々しい感じがします。

吾助

どこかで見た覚えがあるんだが……。

それがどこだったのか、思い出すことができません。
吾助はその羽根を医学書にはさんで、続きを読みました。

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