走っている方角から察するに、恐らく光明寺駅へと向かっているのだろう。
直感に頼ってとにかく真っ直ぐ走り続けた。
だが道は一本ではない。
途中で曲がったかもしれない。
僕の脳裏に諦めがよぎり始めたとき、制服を着た女子の姿を目で捉えた。
遠くてはっきりとは見えないが、どうやら花束を抱えている。
僕は足をさらに早めて、遠くに見える女子の方へと急いだ。
走っている方角から察するに、恐らく光明寺駅へと向かっているのだろう。
直感に頼ってとにかく真っ直ぐ走り続けた。
だが道は一本ではない。
途中で曲がったかもしれない。
僕の脳裏に諦めがよぎり始めたとき、制服を着た女子の姿を目で捉えた。
遠くてはっきりとは見えないが、どうやら花束を抱えている。
僕は足をさらに早めて、遠くに見える女子の方へと急いだ。
山根さん
もうはっきりわかる距離までやってきた。
わ、渡利さん
今日は僕の呼びかけにすぐ気づいたようだ。
僕は山根さんの前までたどり着き、次のセリフを言おうと思った。
だが息が切れてしまい、声が出せなかった。
琴葉のお友達かしら?
膝に手をついてゼーゼー呼吸を整えている僕に誰かが声をかけた。
息も絶え絶え顔を上げると、山根さんの隣に大人の女性が立っていた。
見た目でなんとなく僕の母くらいの年齢だとわかるが、品のある綺麗な人だ。
琴葉。
お母さん、先に帰ってるわね。
今日は卒業パーティーもあるんでしょう。
せっかくだから楽しんでいらっしゃいな
山根さんのお母さんはそう言ったあと、僕に優しい笑顔を向けて丁寧にお辞儀をした。
それ、預かっておくわ
山根さんが抱えている花束を受け取り、山根さんのお母さんは立ち去っていった。
僕らが立っている場所のすぐ側には、ちょっと広めの公園があった。
僕と山根さんはその公園の中へ入り、ベンチに座った。
公園の中には大きな池があり、水面に反射した日の光が僕らを照らす。
地面に散らばる木の葉が風に吹かれて飛ばされる様を眺めながら、どう話を切り出したらいいか考えた。
山根さんは、進路ってどうするの?
えと。東京の大学に。
漫画学科があってですね……
そっか。
とことん漫画を頑張るつもりなんだね。
すごいよ
い、いえいえ。
滅相も……
でも東京か。
ちょっと遠いね
そ、そうですね。
ちょっと……遠いです
山根さんはうつむいた。
僕は彼女の横顔を眺めた。
素直な気持ちがポロっとこぼれ落ちた。
山根さんはうつむいたまま動かなかった。
できれば僕と付き合ってほしい
僕は恥ずかしさと緊張で、一気に顔が熱くなるのを感じた。
しばらく黙っていた山根さんが口を開いた。
あの、私。
もうすぐ東京行くので。
でも、大学を卒業したら……帰ってくるから。
その時になっても……お、同じ気持ちなら……その。
だから、今は……まだ
山根さんが何を言っているのか、しばらく理解できなかった。
えっと、それって。
僕は振られたってことだよね
そ、そうじゃなくて。
今、驚いてて。
ちょ……ちょっと信じられなくて。
その、自信がないんです。
わ、渡利さんが、その……本当に私を……好きでいてくれているのか。
遠距離になったら……す、すぐに別の好きな人が出来るんじゃないかって
そんな……そんなこと言われるくらいなら、はっきり振って欲しいかな。
せっかく告白したのに中途半端すぎるよ
山根さんは口を閉ざした。
僕らの間に気まずい空気がまとわりつく。
僕のこと、なんとも思ってないなら……
す、好きです!
僕の言葉を山根さんが遮った。
好きです。
で、でも……いつから好きだったのか。
な、なんで好きなのか……わからないんです。
ハッキリとした理由が答えられないのに。
そ、そそ……そんな気持ちでいいのかって
山根さんの声は少しずつ震えていった。
はは
僕はつい笑ってしまった。
可笑しかったんじゃない。
嬉しかったのだ。
僕たち、似たようなことで悩んでたんだね。
僕も同じだよ。
理屈で考えてたんだ
は、はあ。
そうなんですか?
なんだか拍子抜けしてしまい、気まずさやドキドキした緊張感が抜けていく。
山根さんのネームを読ませてもらってたときのような、あの心地よい時間が僕を包んだ。
山根さん。
これから僕とデートしてくれないかな。
電車でちょっと行ったところに遊園地があるでしょ
え?
デデ!
デート……ですか。
その、卒業パーティーに間に合いますか?
山根さんは少し戸惑った様子で僕を見た。
山根さんは行くの?
いえ、私は。
その……でも、渡利さんが……
じゃあ僕も行かない。
そんなことよりもっと山根さんと過ごしていたいよ
……か、変わり者……ですね。
渡利さん
山根さんだって
僕は笑って言い返した。
山根さんも僕に釣られて顔がほころんでいった。